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1週間前に見た悪夢 「あっちゃん」

駅を出ると寂れた街に着いた。

木枯らしの吹くこの街は、なぜか妙に小汚い老人が多い。どうやら僕はこの街の老人ホームに教育実習生として働きに来たようだ。(これは夢特有のありもしない記憶が生えてくるやつ)
シャッター街を抜け目的地の老人ホームに入ると、ささやかな手土産として買ってきたぬいぐるみをバッグから取り出す。ここは老人ホーム兼保育所となっており、老人と子供たちが仲良く共同生活しているらしい。(さすがにおかしいけど、夢だからそういうもんかと信じて疑わない)
置き場所は、とりあえず既にたくさんの人形が置いてある棚にしておいた。他の教育実習生のものと見るのが妥当だろう。

間もなく実習が始まった。班に分かれて子供や老人の世話をさせられ、かなりめんどくさいと感じつつもとりあえず僕はのらりくらりとこなした。
そして一段落したところ、なぜか実習生全員が1つの部屋に集められた。
教室より少し広いくらいの広さだろうか  扉が開き、車椅子にのせられた妙に大柄の老婆が部屋に入れられてきた。
「あっちゃん」と呼ばれているらしい。  妙に幼さを感じる顔つきとなぜ彼女のために全員が集められたのか?そんな疑問がまさに浮かび上がる刹那、付き添ってきた1人の職員が悲鳴を上げた。
僕が棚に置いたぬいぐるみともうひとつ、棚に置いてあった真新しいうさぎのぬいぐるみが物凄い勢いで払い除けられた。

「子供たちが殺されたらどうするの!!!!!!!」
直感的に理解した。「あっちゃん」がすこぶる不機嫌になりかけている。
元からあった古いぬいぐるみが払い除けられていないのを見る限り、「あっちゃん」は恐らく元々の人形たちとその配置をいたく気に入ってるのだろう。それらが崩されてしまえば、彼女によって同じ施設の子供達の命が脅かされるほどに。
他の職員も涙目になって怯えている。恐らく「あっちゃん」による癇癪の犠牲を何度も見てきたのだろう。
僕は夢なのにも関わらず恐ろしくてたまらなかった。これから相手をしなければならない「あっちゃん」は、ひとつ間違えればたくさんの命が失われることになる、爆弾よりも不気味で恐ろしい相手なのだ。
何より、僕らの失態で今「あっちゃん」は不機嫌になっている、この部屋にいる全員が5秒後に無事でいられる保証もない。
冷ややかな汗が流れる感覚で、その瞬間目が覚めた。「あっちゃん」は夢だった。よかった、本当によかった。
それでもあの職員の脅えた怒号がまだ耳に残っている。僕は二度寝する眠気と勇気を失い、その代わりに妙に健康的な早起きという状況を得て、とりあえず洗面所に顔を洗いに歩き始めた。
これは流石に三文の徳ではないな


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