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スクリャービンのファンタジー

  それは、私を新たな世界に連れて行ってくれた。

  15歳で初めてこの曲を聴いて衝撃を受けた。その数ヶ月後、国音附属中学の卒業演奏会にてスクリャービンのプレリュードOp.11-11、エチュードOp.42-5を演奏して、益々スクリャービンの虜になった。

  16歳、ファンタジーに取り掛かった。当時は今以上の技術不足。その面でまず余裕がなく、深みに到達するまでにエラい時間がかかったし、この曲でのコンクール入賞時の演奏をもし今聴いても『いや、これは違う』と絶対に思うだろう。(コンクールといえば嫌な思い出しかないが、入賞したときはほぼスクリャービンだったな。)

  この曲はスクリャービンの前期の総まとめのような曲だ。実際Op.28と初期のピアノ曲はこれが最後である(Op.29は交響曲2番、Op.30のソナタ4番はもう中期の作品)。
  個人的に感じる初期作品の難しさは、『感情を表に出したくなってしまうが全て出したら下品になる』こと。他の作曲家でもあるあるだが、スクリャービンの場合は更に気を使う。ファンタジーなんかも感情を乗せてますーーーーみたいな演奏になりがちだが、もっと大きなもの……そうね、宇宙。宇宙の中のちっぽけな存在が訴えかけている……そんな感じの演奏が好きだなぁ。伝われ。

  『情熱を持って!しかし冷静に!』

  音色面では、スクリャービン初期は割と深めの音色を使っていいと思う。しかし、色んな色と表情が欲しいところですね。対照的に中期の作品……例えばピアノソナタ4番Op.30なんかはとにかく羽根のように軽く天まで響く音が欲しい。(これラフマニノフみたいに弾く人は本当にサイアク)。

  ファンタジー、音の並びが既に感動的な曲なので、気を抜くと『自分の演奏に酔いしれる』というめちゃくちゃ最悪ナルシストな演奏になってしまう。良い耳・丸い頭・情熱・冷静さ……などなど。沢山の要素が必要ね。あとは人生経験……。まぁ全ての作曲家にいえると言えばそこまでですが。演奏するって難しいし、一生こう悩み続けるんだよなぁ。

  ちなみに、私の中でのファンタジーのベスト演奏はもう決まっています。
知り合いのピアニストの演奏なのですけどね、初めて彼の演奏聴いたのがこのファンタジーだったのですが、もう涙ぼろぼろ出てきて……(笑)。そのくらい凄い。好きな演奏。リンク貼っておきます。

私の中で、この方を超えるファンタジーにはもう一生出会えそうにないです。
☆☆☆☆☆☆
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