まじ☆すと14かいめ Day1 Round3:エニィ(テーロス)vs.小川めぐみ(日本)
《八百長試合》。ニューカペナの街角で登場したこのカードは、その緩い条件の踏み倒しと純粋なカードパワーもあって、多くのファンを魅了した。
今はコラボなども行うようになったエニィ・ターゲットと小川めぐみ、両者の出会いのきっかけはこのカードだった。
時は遡り、まじ☆すと12かいめ。
初出場のエニィ・ターゲット。対戦相手は小川めぐみ。
軽い挨拶ののち対戦。
お互い2マナから《エルフの壌土語り》、続いて《レンと七番》。
そしてお互いの場に並ぶ《八百長試合》!
この時に奇妙な親近感を覚えた両者はその後も様々な場所で関わりを持つようになっていった。
時は戻り、まじ☆すと14かいめ。
Round2のマッチアップはエニィvs小川めぐみ。
あの頃のようなぎこちなさはもうない。
お互いが好きな漫画、ローゼンメイデンの話やわけのわからないホビーの話。
対戦前の空気はとても大会とは思えない緩いものだったが…。
しかし、その裏には闘志がしっかりと燃えていた。
エニィはあの12かいめで負けてからずっとこの機会を待っていた。
大好きな人。だからこそそれを超えたい。
ここでまた負けては同じ場所に立てない。
ついに、ついにこのチャンスを得た。これを、逃しはしない。
ゲーム1
和やかな空気の中で試合は始まり、ゲーム1は小川が先手を取る。
小川がキャストしたお気に入りのカード、《薄暮軍団の決闘者》を容赦なく《切り崩し》するエニィ。
事前の情報から緑白の+1カウンターデッキというのは予想はついていた。これを生かしてはいけない。
試合が動いたのは3t目。
小川の《永岩城の修繕》に対してエニィは自身のキーカード、《レンと次元壊し》をキャスト。
エニィが選んだデッキは自身と同じドライアドである、《レンと次元壊し》をフィーチャーしたBGカラーのミッドレンジ。
《レン》の忠誠度能力によって攻防ともに試合を操り、常在能力によって《偉大なる統一者、アトラクサ》のキャストを目指す。
最速でのレンの着地。プラスから入って忠誠度が5のこのPWを突破するのは容易ではない。
しかし小川はこれを《永岩城の修繕》二章の効果によって墓地から《骨化》を場に出し、追放する。
この動きにマナはかかっていない。つまりは追撃が来る。
《包囲の古参兵》をキャストし、パワーを高めていく。
そう。パワーを高める。すべては目指すべき数字、「7」のために。
彼女はあの時から信念を持ってあのカードを使い続けてきた。
続く5t目。
小川は高らかに宣言する。
「さあ、まいりましょう!まだこのカードには味がする!」
彼女は《八百長試合》のリングを場に展開した!
+1カウンターギミックという新たなテーマを引っ提げて、小川が持ち込んだデッキはもちろん《八百長試合》!
先述した《薄暮軍団の決闘者》などによって、大型の踏み倒しと言うより打点強化を目指したデッキに仕上げられており、悪く言えば一発芸だった過去の八百長デッキとは異なり、それなしでも十分動く形になっている。
しかし、毎ターンカウンターとタダでのカードの踏み倒しは非常に強力なことには変わらず、中核をなす一枚であることに異論はないだろう。
試合に戻ろう。
秘匿でめくれたのは2枚目の《八百長試合》。
《古参兵》に八百長と自身の効果でカウンターを載せようとするが、それを待っていたとばかりに《喉首狙い》が《古参兵》を襲う。
しかし、盤面にはまだ裏返った《永岩城》こと、《修繕する建築家》。
対してエニィは場は空っぽで手札も心もとない。
返すターンでも引きに恵まれず行動できないエニィ。
ここで一つ決断を迫られる。場には《修繕家》が残り、《八百長》のカウンターが置かれようとしている。
手札には《母星樹》。《修繕家》はエンチャントクリーチャーなのでこれで破壊することもできる。
決めた。
エニィは《八百長》の誘発および《修繕家》の攻撃を無視した。
彼女が狙ったのは…そう、《レン》を追放している《骨化》。
場のクリーチャー1体潰したところで不利な状況には変わりない。
しかし、《レン》の力があればまだチャンスは有る。
絶望を招き、完成されし天使が戦場を支配することでしかこの状況は解決しない。
エニィの次のドロー。全てがかかったそのドローは…《レンと次元壊し》。
レンのマイナス能力でなにか解決策を探すも、逆に除去スペルが落ちる始末。
続けて手札の《レン》もキャストし、マイナスで《アトラクサ》の回収には成功するものの、遅かった。
リングは最高潮の盛り上がりを見せた。
《八百長試合》によって強化されたクリーチャーがエニィを襲う。
こそっと《骨化》によって《レン》が追放されたため、《アトラクサ》も場に出ることはなかった。
最後には特別ゲスト《放浪皇》も現れ、熱狂の中、リングには木くずが転がっていた。
小川めぐみ 1-0 エニィ・ターゲット
ゲーム2
負けられなくなったエニィ。
安定性を捨て、サイドからこれでもかとばかりに除去を追加して臨む2戦目。
初期手札は豊富な除去にフェッチランドと《深根の道探し》。
ゲームを決めるカードこそないものの、妨害の薄い白緑相手に《道探し》が残ったときのアドバンテージは多大なものとなる。
計画通りフェッチスタートから《道探し》を展開するエニィに対し、小川は期待の新カード、《世渡り上手の交渉人》で迎え撃つ。
見た目上は実質3/3の《交渉人》によって封じられたように見えるが、ここでこのクリーチャーの数少ない弱点があらわになる。
タフネス分のパワーで攻撃できる1/3。確かに実質3/3だ。
しかし、スタッツ自体が変わっているわけではない。
そしてこの環境において、パワー・タフネスの合計が5以下であることは「好きに除去していいよ」と伝えているようなものだ。
《切り崩し》によって《道探し》の攻撃を通し、墓地から土地を戻す。
返す小川は《ゴバカーンの侵攻》によって除去《喉首狙い》を妨害するが、土地が止まってしまう。
一方、《道探し》は十分な土地をエニィに与えていた。
リングの上を《偉大なる統一者、アトラクサ》が舞う。
《運命の仕切り》で本体は対処するも、かの天使は勝利のために必要なすべてをエニィにもたらしていた。
小川めぐみ 1-1 エニィ・ターゲット
ゲーム3
認知バイアスという言葉がある。
人は過去の成功体験、失敗体験にどうしても引きづられてしまう。
もちろんそれは必ずしも悪いことではない。
それは「次もこの調子でやっていこう」「次はこうならないようにしよう」という、成長のための思いなのだから。
ただ、今日の小川はそれが裏目に出てしまった。
2戦目での土地づまりを意識したこと、また、エニィのデッキが早いデッキではないことを察したからだろう。かなり土地の多いハンドをキープした小川。
エニィは完璧と言えるハンドを初手から渡され、もちろんキープ。
順調に展開するエニィに対し、小川はいくら引けども土地ばかり。
エニィとしても《放浪皇》を恐れて積極的な攻撃に出ることはできない。
《薄暮軍団の決闘者》を並べる小川だが…カウンターを乗せる手段が来ない!
ところで、小川めぐみ、自身のシンボルとも言えるマークがある。
✹うに✹がそうだ。
見ようによっては光線を放つ太陽にも見えるこのマークに特攻を持ったクリーチャーがエニィの場に立っていた。
《グリッサ・サンスレイヤー》。
先制攻撃・接死というクリーチャー相手に最強を誇る彼女は、立ちふさがる《決闘者》を前にひるまず攻撃し、アドバンテージを稼いでいく。
《グリッサ》のもたらしたアドバンテージを享受するエニィと、引きムラに悩まされる小川。
命乞いをする小川に対し、ファイレクシアの司令官は無慈悲にそのライフを刈り取った。
小川めぐみ 1-2 エニィ・ターゲット
終わりに
過去に騒がれた八百長問題で、度々取り上げられたコメントがある。
「立ち合いは強く当たって、後は流れでお願いします」
二人の関係は実はこの言葉のとおりなのかもしれない。
まじ☆すと、という立ち会いの場では本気でぶつかり合ったが、お互いに好きなことをして、それがたまたま一致して、今こうして交流が続いている。
まさに決められたものではない「流れ」だ。
もとのコメントは本当の八百長試合で使われたものなので、もちろん勝負の行方は決まっていたが、真剣勝負をする二人の流れ行く先は全くの未知数だ。
どんな場所に漂着するのか、果ては溺れて泡と消えるのか。
今はただ乗るしかない。このビッグウェーブに。
小川めぐみさんについて
Vtuber。NEW PMG(MtG配信者チーム)の一人。
マジックに関するもののほか、マーダーミステリーや各種ゲームの配信を行っている。
極めてインターネットな言語センスやふにゃふにゃした柔らかいお話が魅力的。
Twitter
https://twitter.com/Ogawa_megumegu
Youtube
https://www.youtube.com/@ogawa_megumegu
今回取り上げた配信アーカイブ
https://www.youtube.com/watch?v=2kkI7o7_F3g
まじ☆すとについて
MTG Arena Streamer Tournament 通称『まじ☆すと』。
MTGAに関する配信者、動画投稿者、記事執筆者によるスタンダードBO3トーナメント。
14回目になる今回は42名が予選を争った。
一日目総合配信(庭白莉茉さんのチャンネル)
https://www.youtube.com/watch?v=TryYn4romIU