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【掌編小説】虹が掛かれば

 色鮮やかなタイルを念入りに雑巾掛けする。部屋中の雑巾掛けを終えるとしっかり手洗いをし、マレーシアで生まれたマーラーカオというパンをお皿に乗せてテーブルに並べた。
 私はお洒落な主婦を目指しているのだろうか? いいや、私は私の好きなものを集めているだけのように思う。それがたまたまお洒落なだけだ。わわ、それは自惚れだろうか?
 好きなラジオを聴いて、喋り声やふんわりとした内容に心が落ち着いた。紅茶が進む。パートが休みの日はこういう日があってもいい。また紅茶を沸かす。マーカーカオがなくなってしまう。マーカーカオがなくなったらカブに乗って買いに行かなくてはいけない。今日は雨だからそれは少し嫌かもしれない。
 雑貨屋で長時間悩んだ末に買った椅子に腰掛けて、座り心地は少し悪いんだけど、お洒落だからやっぱり気分が上がって、私は好きなものに囲まれては私の好きの中に吸い込まれていく。それはアトラクションのようにワクワクして、目の前の世界を充実させた。
 でも、雨の日はどうしても気が滅入ってしまう。雨音は好きだけど、こうしばらくそれが続くとお日様がどうしても見たくなった。だけど、そうだ。長い雨が降っているけれど、今日は虹が掛かっている。色鮮やかなタイル、マーラーカオ、紅茶、椅子、ラジオ。だって、こんなに大好きなものに囲まれて文句なんかないんだから。そうだ、そうなのだ。
 私の心がお日様なのだ。
 ラジオのパーソナリティーが失敗を笑いに変えるように丁度そんなことを言っていた。

 虹が掛かればいいな。

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