【掌編小説】醜いアヒルのジュブナイル
醜いアヒルの子はプール掃除をさぼって、学校の近くの駄菓子屋でアイスを食べている。アイスを食べる事にすらやる気が出なくて、棒アイスはダラーッと崩れて滴が手を伝う。
補導されるのは面倒臭いから、誰も寄り付かない学校の砂場で一人山を作ってトンネルを開通させる。中々上手くトンネルは通らなくて、何気なく始めた事にすら絶望してしまう。
下校の時刻になり、ちらほら他の生徒達が目に付き始めて砂場を後にする。もう帰ってふらついても補導はされない。なのに何故だかこの学校に縛られている様で、掃除の終わったプールに忍び込む。この不思議な目に見えない縁なのか糸なのか鎖なのかを鋏で絶ち切ってしまいたい。あぁ、でも鎖だったとしたら、絶ち切る事は出来ないか。
綺麗になった水の入っていないプールにて、暫く経って暗くなった夜空を見上げる。
何をやっても上手くいかなくて、どうやっても皆に馴染めない。それでもそれらが欲しくって、だけれど傷付くのが怖くって、このないものねだりは一生続くんじゃないか? と底の知れない黒いモヤが心を覆い尽くして、恐ろしくって妬ましくって、もうどうにもならない。
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ、心が悲鳴を上げている。応えられるのは自分だけ。水の入っていないプールが広い、それより遥かにこの真っ暗な夜空はどこまでも広い。僕はあまりに小さくて、そんなちっぽけな僕の中にある感情にすら振り回されて、きっと僕はこの世で最も小さくて脆い。だから、いつかに掛ける。可能性に掛けている。ちっぽけな僕はちっぽけな未来に可能性を預ける。筆を持ち始めて数日、まともな文なんて書けやしない。だけれど、そうだとしても。
誰にも馴染めない醜いアヒルの子はいつか白鳥になるのだから、少しでも、
『心の中では足掻いて』。