Scene 4: 潜行
「ありがとうございましたー」
構内のコンビニから出て駅へ向かう。ピンクのレンガの建物の中でたくさんの人が話し合っているのを横目に、コンクリートを踏みしめた。真夏にフードをすっぽりとかぶる彼に対し、校門前に立つガードマンが鋭い視線を飛ばしてくる。
大学前の店が立ち並ぶ商店街は価格と品揃えから常ににぎやかである。人込みをすり抜けるようにして進んでいくが、それでも肩がぶつかった。よろめいた体を誰かが捕まえ、支える。内心舌打ちする。
「おっと、悪い。大丈夫か?」
「…ああ、大丈夫だ。こっちこそごめん」
「えっ?」
とぼけた声を出した相手は、いきなり肩を強くつかんでくる。強引に顔をのぞき込まれ、突然のことに反応できずに固まった。
どこにでもいそうなサラリーマンといった風情の男が目を見開き、そして破顔する。
「海石!」
「!!」
瞬間、手を振り払って人込みに飛び込んだ。
「おい!?」
呼び止める声も無視して走り抜ける。
「おい、待てよーー…!!」
構内で笑い合う顔。校庭を走り回る顔。店の商品を眺める顔。時刻表を見上げる顔。滑り込んでくる電車に乗り込む顔。
呑気で、
あどけなくて、
平和ボケしていて、
当たり前のように生きていて
すべてが、滑稽だった。
「何も知らねぇで、笑ってろ」
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