インドの伝統的なダンスで腰を振って踊ることは許されるのか?ベリーダンス×インド古典舞踊から考えたこと
「え?なに、これ?」
ぼーっとインスタを眺めていたとき、目に飛び込んできたのは、西洋人が踊っている動画だった。
インドっぽい衣装にも見えるけど露出が多く、さらに古典舞踊のような動きもありつつ、ベリーダンスのように腰をくねらせてもいた。
ハッシュタグには、
#Odissi #Berry dance
とある。
インド古典舞踊のオディッシーダンスと、ベリーダンスのフュージョンダンスということだ。
私はその事実に目を疑った。
「こんなことしていいのだろうか?」
インド古典舞踊とは、厳格なルールがあり、まず過剰な肌の露出なんてもってのほかだろう。
だから、私は西洋人の踊る姿を見て驚くとともに「これを見てインド人はどう思うのだろう?」と感じたのだ。
私はボリウッドダンスを学び、踊っている。少しだけだが、インド古典舞踊も学んでいる。
今回は、そんな私が感じたインド舞踊を巡る疑問と、インド人の反応について書いていきたい。
多くの種類があるインドの踊り
「え、でもインド映画ではめっちゃ露出してセクシーな踊りしてるじゃん。何がいけないの?」
と思う人もいるかもしれない。
インドのことをよく知らない人からしたら、映画の中で踊られる「ボリウッドダンス」も「インド古典舞踊」も、違いがよくわからないと思う。
そのため、まずはこの2つから説明したい。
現代的なボリウッドダンス
「ボリウッド映画」というのが、ヒンディー語映画のことを指し、この映画の中で踊られているダンスのことを「ボリウッドダンス」と呼ぶ。
「ボリウッド映画の中で踊られてるダンス」の総称なので、インド独自のダンス(古典舞踊も含む)だけではなく、ヒップホップのようなものから、ベリーダンスのようなものまで多種多様なのだ。
「ボリウッドダンス」とは言うものの、あらゆるジャンルを柔軟に取り入れている。
ここで、知り合いのインド古典音楽家が「インド音楽は、世界中のどんな音楽とも融合できる柔軟性がある」と言っていたことを思い出す。
インド音楽には、あらゆる音楽を取り込む柔軟性と許容性があるのだ。
そしてボリウッドダンスは、所説あるものの1930年~1950年頃から発展してきた、比較的新しい文化であることも付け加えておきたい。
古い歴史を持つインド古典舞踊
一方のインド古典舞踊。
こちらは簡単に言えば日本の歌舞伎のようなもので、家元のような家系が存在し、厳格な「型」があり、習得するのに何年、何十年とかかるもの。
古くは紀元前から存在していたものもあり、とても歴史あるものだ。
そんなインド古典舞踊も地域によってさまざまな種類があり、「4大古典舞踊」とも「8大古典舞踊」とも言われる。
有名なところでいうと、
北インド……カタックダンス
東インド……オディッシーダンス
南インド……バラタナティヤム
などが知られている。
今回、私が疑問を感じた西洋人の踊りは、この東インド古典舞踊「オディッシーダンス」をフュージョンしたものだ。
オディッシーダンスの始まりは紀元前まで遡り、もともとはヒンドゥー寺院の巫女舞として踊られてきた。
神様に捧げる舞踊なのである。
そのためインドでは、今も「食事の場では踊らない」など、さまざまなルールがある。
もちろん衣装にも厳格なルールがあり、オディッシーに限らずインド古典舞踊はほとんど肌の露出はしないのが通例だ。
オディッシーダンス×ベリーダンスは、何が問題なのか?
インド人のオディッシーダンサー
私が問題視しているのは、まさにここなのだ。
神様に捧げる舞踊であるオディッシーダンスなのに、
露出の多い衣装を着て、腰を振って踊ることは問題なのではないか?ということだ。
前述したように、インドでも映画の中では、露出の多い衣装を着た女性がセクシーな踊りを踊っていることもある。
しかし、ボリウッドダンスは比較的新しく現代的なもので、しかも近年は西洋の影響も大きく、かなり露出が増え、セクシーな踊りも多く見られるようになってきた。
露出も増えてきた近年のボリウッド映画
ボリウッドダンスはそれでいいのだ。なんでも柔軟に取り入れ、ミックスしてしまう現代のエンタメだから。
(でも、私は最近のものより、ひと昔前のインド色が強いものの方が好きだけど)
しかし、インド古典舞踊はボリウッドダンスとは違う。
厳格な型があり、神様に捧げるものであり、厳しいルールがある。
このような古典舞踊を、露出して腰を振って踊るベリーダンスとフュージョンしてもいいものだろうか?
そして、インド人はどう思うのだろうか?
私は、そこが気になったのだ。
インド伝統のダンスで腰を振って踊ったダンサーに対するインド人の反応
しばらくして、またインスタで興味深い動画を見つけた。
「India's Got Talent」というオーディションで選ばれた一般人がダンスなどのパフォーマンスをするインドのテレビ番組で起きた、とある出来事についての動画だった。
そこでは、インド人女性が「ラウニー」というマハラーシュトラ州の伝統的なダンスを披露していた。
しかし、その女性はパフォーマンスの中で「トゥワーク」と呼ばれる、足を開いてお尻を激しく振る動きをしたのだ。
動画には、この女性のパフォーマンスに苦言を呈するコメンテーターの姿が映し出されていた。
そして、コメント欄を見てみると「下品だ」「伝統に対してリスペクトがないものはダメだ」など、コメンテーターを擁護する声が多数見られたのだ。
この動画を見たときに「やっぱりインド人はそう思うのか。やっぱりそうだったんだ!」と、私の疑問への答え合わせができたような気がした。
やはりインドの伝統的な踊りに、過度な露出や腰を振る動きは禁忌なのだ。
しかし、これはインド人女性がしたパフォーマンスだったため、批判されていた面もあると思う。
私が疑問を感じた動画は、西洋人の女性だった。
「外国人だからしょうがない」と、許容されている面は確かにあると思う。
許容されているだけではなく「外国人相手でお金になるから」と、率先してビジネスにしているインド人がいるのも事実だ。
それに、インドから遠く離れた地で、勝手にインド風のものを取り入れて流行する、なんてことはよくあることだ。(ヨガもまさにこれ。インド発祥のものがアメリカ風に変わったものが、日本や世界に広まった)
それでも。
日本でボリウッドダンスを踊っている私は、インドの伝統を尊重したい。そして、インドの歴史や文化を捻じ曲げないで人々に伝えたいと思う。
「日本人だからしょうがない」と、インド人をがっかりさせたくない。
そりゃあ、私は100%日本人だし、インド人の気持ちを正しく理解するなんてことは絶対に不可能だ。
それでも、インド文化に対するリスペクトの心は忘れないでいたい。
今回の一件は、インドやインドの踊りに限らず世界中で起こっていることだと思うし、人々が自由に表現活動をすることを止めることなんてできないことはわかっている。
ただ、「私はどう感じるのか」そして「どうしていきたいのか」。
この軸はぶらさずにいたいと思う。
今回は、私のインドと向き合う姿勢を今一度考えさせてくれた。そう思うと、あの西洋人の女性には感謝すべきなのかもしれない。