見出し画像

「旅も人生も“ほどほど”がちょうどいい」愛知県のゲストハウスが紡ぐ人々の縁

「2人がいるからここに来る」。そんな常連さんもいるほど、夫婦の魅力的な人柄で旅人を惹きつけているゲストハウスが、愛知県南知多町にあります。

「南知多ゲストハウスほどほど」がある南知多は、海に近く、新鮮な魚介類が豊富なまち。このまちにある築60年ほどの一軒家を舞台に、相部屋・素泊まりというスタイルで宿を営んでいるのは、小杉昌幸さん・菜々さん夫妻です。

今回は、各地から旅人が訪れるゲストハウスほどほどの魅力や、2人が宿を始めた背景などをご紹介します。

旅人同士の交流が生まれる「シェアご飯」

南知多が位置するのは知多半島の先っぽ。名古屋から電車とバスを乗り継いで向かうと、うっそうと緑が茂る山々から、徐々に視界が開けていき、ついに海が見えました。

バスを降りると、ほんのりと磯の香りが漂い、「ぴ~ひょろろ」というカモメの鳴き声が聞こえてきてきます。

「海の近くに来たんだなぁ」と感じながら、歩くこと数分。道路に面して住宅が並ぶ一角に「ほどほど」と書かれたのれんを見つけました。

のれんをくぐり、小さな中庭のようなスペースを抜けて玄関を開けると「いらっしゃい」と昌幸さんがほがらかな笑顔で迎えてくれました。

ほどほどは少し古めの、ごく普通の一軒家。1階にゲストたちがくつろぐ畳の共用スペースと台所、シャワー、トイレがあり、2階の3部屋が寝起きをする場所です。1部屋の定員は2、3人。布団を並べるスタイルか2段ベッドです。

2階のお部屋

小杉夫婦も中庭を挟んだはなれに住んでおり、台所やシャワーはゲストと同じ。「自分たちの住まいを他人に開いている」状態です。

そんなほどほどの最大の特徴は、夜に開催される「シェアご飯」。ゲストは一品持ち寄り、または台所で好きなおかずを作って、みんなで一緒に夕食をともにします。(外食を希望する人はそちらでもOK)

「もともとは居酒屋をやりたかった」という菜々さんも、自慢の腕をふるいます。

この日は、常連さんが近くの海で釣ってきた魚も食卓に上がった

小杉夫妻もゲストも一緒にテーブルを囲み、旅人同士の交流が生まれるシェアご飯。旅好きの人が集まり、お酒も飲み交わしながら、旅の話に花が咲きます。

この日にたまたま居合わせたメンバーで乾杯

ほどほどは2013年に誕生し、このスタイルで運営を続けてきました。しかし、どうして2人はこのようなゲストハウスをやろうと思ったのでしょうか。

人々の交流を生むゲストハウスは、一つの地域貢献

小さな頃から大の鉄道好きで「小学生のときに誕生日プレゼントで時刻表を買ってもらった」という昌幸さん。「中学生の頃から青春18切符を買って1人旅をしていた」という子ども時代を過ごし、大学生になると全国各地に出かけていました。

特にハマったのが、北海道のユースホステル。みんなでご飯を食べ、旅人同士の交流が生まれ、気が合った人は翌日も一緒に観光する、といった経験をしてきたといいます。

「宿ってこんなに楽しいんだ」と、たびたび北海道に通い、ユースホステルに泊まる日々を過ごしました。

昌幸さんはその後も旅を続けるうちに、気づいたことがあると言います。

「東京のゲストハウスに泊まったときに、宿の人が地域のことをいろいろと教えてくれたんです。『あそこの中華料理屋さんは見た目はボロボロだけど、安くておいしいよ』とか『こっちの銭湯は今日休みだけど、あっちならやってるよ』とか。ホテルだとただ泊まるだけで、会話がなくてちょっと寂しいんですよね。でも、ゲストハウスだと地域のことを教えてもらえて、旅人が地域のお店でご飯を食べたりする。そうしたきっかけを提供する宿も、一つの地域貢献なのかなと思ったんです」

ゲストハウスやユースホステルのような宿があることで、旅人が全国どこにでもあるチェーン店ではなく、その地域ならではのお店でご飯を食べるようになる。そんなふうに、宿によって地域に「新しい旅人さん」という空気を入れて、地域を刺激することも社会貢献の一つの形だと感じたそうです。

ほどほどの壁には全国のゲストハウス情報が

昌幸さんはその後、船で世界一周をする「ピースボート」に参加し、のちに妻になる菜々さんに出会います。

各地のゲストハウスやユースホステルでの経験があった昌幸さんは「もっと人と人、人と地域が出会うきっかけになるような宿が日本全国にあったらいいのに」と思い、ゲストハウスをやりたいという気持ちが強くなっていきました。同じく旅好きで、料理も好きな菜々さんと一緒に「いずれ田舎に移住してゲストハウスと居酒屋をやりたい」という目標ができた2人。北海道から九州まで移住先を探し、縁あって南知多で空き家になっていた物件を見つけ、念願のゲストハウスをオープンしました。

スペースの関係で居酒屋はできなかったけれど、「シェアご飯」でゲストに料理を振る舞うことで満足しているそう。

「お酒を飲むとすぐ眠くなってしまうので、今の方がよかったかも」と菜々さんは笑います。取材した当日も、お酒を飲んで、陽気におしゃべりを楽しんだあとは、いつの間にかいなくなっていました。いつも早めに就寝するのだそうです。

肩ひじ張らずに自分たちの心地いいペースで宿を営んでいるのも、10年続いてきた秘訣なのかもしれません。

ゲストハウスほどほどに集う常連客

「宿に泊まる」のではなく、まるで「親戚の家に来た」ような感覚になるほどほど。ここに来るのは、旅慣れた人、そして旅人同士の出会いや交流を楽しみたい人が多いといいます。

1階の共有スペースで思い思いのときを過ごす

ちょうど私が泊まったときは、私のほかに常連の方が2人来ていました。

1人は、香港から何度も日本に通っている日本通のJさん。日本でワーキングホリデーをしていた経験もあり、日本語堪能で、ほどほどにも何度も泊まりに来ているそうです。

「のんびりできるし、小杉さんたちがいるからここに来る」と言います。

もう1人は、年間約200日も釣りの旅をしているという大の釣り好きのKさん。多いときは年10回も、ほどほどに泊まる常連さんです。「あの2人はすごくバランスがいいよね」と言います。

明るくおしゃべり好きで、上手に旅人同士をつなげる菜々さんと、地域の案内をしたり事前のやり取りをしたりと細やかな仕事ができる昌幸さん。この2人の絶妙なバランスが、ほどほどの魅力を作り上げています。

バランスの取れた小杉夫妻がほどほどの魅力

そして、お客さんには「うちの雰囲気をわかったうえで来てほしい」と言う昌幸さん。

「ゲストハウスのオーナー同士でよく話すんですけど、一番不幸なのは宿とお客さんのミスマッチなんですよね。うちは旅人同士の交流を楽しんでもらうためにシェアご飯をやっています。そのことも含めて、ホームページには割と細かくルールを書いているんです。そういったうちの特徴を知ったうえで『楽しそうだから泊まってみよう』と来てくれる人には、全力でおもてなしさせていただいています」

このような想いがあるからこそ、今もあえて宿の予約サイトは介さず、ホームページからの直予約のみにしているそうです。

「友だちの家に遊びに来てくださいっていう感覚ですね」

昌幸さん、菜々さんのゆったりとした雰囲気や旅人同士の交流が生まれる空間に価値を感じる人が、全国からほどほどを目指してやって来るのでしょう。

「ほどほど」に込めた想い

最後に、昌幸さんに「ほどほど」の名前の由来を聞いてみました。

「『旅も人生もほどほどがちょうどいいよね』という意味を込めています。今の時代、どこかみんな生き急いでいるじゃないですか。『もっと効率的に、もっと豊かになりたい、もっともっと』って疲れちゃってる。僕自身、大学時代にがんばりすぎて鬱になった経験があるんです。だからこそ、仕事もそんなにがんばりすぎなくていいんじゃない?旅だってそんなに詰め込みすぎなくていいんじゃない?ほどほどでいいんじゃない?っていう想いを込めています」

昌幸さんは「もともと稼ぎたいと思ってゲストハウスをやっているわけではない」とも言います。

根底にあるのは「“暮らし”を続けていきたい」という想い。近くに田畑を借りて、秋にはみんなで稲刈りをするイベントも行っているそうです。シェアご飯には、畑で採れた枝豆もテーブルに上がりました。

「旅人さんも、わざわざ田舎に来る人ってのんびりしたい、ゆっくり過ごしたいという人が多いでしょうし。僕たちもお客さんがたくさん来すぎても疲れちゃいますしね。自分たちが暮らしていけるために必要な収入があればいいかなと、今は思っています」(昌幸さん)

2人の考えに影響を与えたのは、ピースボートの後に半年間を過ごした栃木県那須町にある「非電化工房」。電気を使わない製品を開発したり、野菜も含めたさまざまなものを手作りするシンプルな暮らしを追求したりする場所です。

小杉夫妻は、この非電化工房で半年間住み込みの弟子入り生活を経験し、「“暮らし”を続けていきたい」という想いが固まったと言います。

「旅も人生もほどほどがちょうどいい」。ゲストハウスの名前に、夫婦2人のすべてが詰まっているような気がしました。

ゲストハウスほどほどで、一期一会の出会いを楽しもう

ゲストハウスほどほどは、小杉夫妻の引力に引き寄せられるように、個性的でおもしろい人々が集まる場所でした。

また、昌幸さんに周辺のおすすめを聞くと、「海から見える夕陽」とのこと。日の入り時間や夕陽がきれいに見えるスポットまで丁寧に教えてくれたので、自転車を借りて行ってみました。

言われた通りに行ってみると、この日は雲も少なく、運よくまん丸の夕陽が見られました。

ほどほどは、昌幸さんと菜々さんの訪ねてくる旅人一人ひとりに寄り添ってくれる温かさを感じ、つい長居したくなってしまう場所でした。

ゆるく、がんばりすぎず、自分の「心地いい」を追求する。そして、集まった人々でご飯を囲み「一期一会の出会い」を楽しむ。

旅は好きだけど、ホテルだけじゃちょっともの足りない。新しい人に出会って刺激を受けたい。

そんな人は、ほどほどに行ってみませんか?きっとおもしろい出会いが待っていますよ。

南知多ゲストハウスほどほど
住所:愛知県南知多町豊浜鳥居7-3
Webサイト:https://hodohodo.jimdofree.com/
Facebook:https://www.facebook.com/hodohodo77
Instagram:https://www.instagram.com/gh_hodohodo/

ゲストハウスほどほど周辺のおすすめスポット

新鮮な魚介類が手に入る鮮魚市場「魚太郎本店」。

市場内にはレストランや屋台、バーベキュー会場が併設されています。

魚太郎本店
住所: 愛知県知多郡美浜町豊丘字原子32-1
営業時間:[平日] 9:00~16:30(水曜日は~16:00)
     [土・日・祝] 8:30~17:00(LO:16:00)
電話番号:0569-82-6188
Webサイト:https://www.uotaro.com/honten/

いいなと思ったら応援しよう!