制作プロダクションの中にいる社内エディターの仕事とは
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ー社内エディターですが、どういうお仕事をされているんですか?
antsの編集に関連するありとあらゆることをしていますね。オフライン編集、オンライン編集、CGなどなど垣根なくやっています。やること多くて大変ですが、それが面白いところでもあるし、良いところだと感じます。
ー確かに山田さんと言えば、制作会社所属のエディターと言う以前に、まず、オフラインもオンラインもやると言うのが特殊ですよね。
そうですね。ポスプロ時代から両方やってたんで自分的にはあまり特殊だとは思っていないのですが。監督や制作の人からは楽だなと言われることもあったし、自分としてもオフラインの時点で「無理です!これはオンラインでも消せないです!」みたいなことが言えるので楽な部分もありますね。
ーちなみにあらためてオフライン編集とオンライン編集のちがいを説明してもらっても良いですか?
もちろんです。オフライン編集って言うのは、割と世間一般にイメージされる「編集」に近いものかも知れません。撮影した素材を並べて、つないで、どこに文字に乗せて、と「映像の構成を作る」作業です。仮編集とも呼ばれますね。特にCMの場合は15秒と秒数が厳密に決まっているので、使うカットの尺(長さ)を決めるのが大事です。
それに対してオンライン編集は、オフラインで完成した骨組みをベースに細部のクオリティを上げていく作業になります。かっこいい言葉で言うと、VFX、ビジュアルエフェクトとか。女優さんの肌を綺麗に修正したり、ゴージャスなエフェクトをつけたり、CG を合成したりとか。映画のメイキング
などでよく見るグリーンバックの合成もオンライン編集でやります。
ーオンライン・オフラインってオンライン会議とかとは違うんですね?
そうなんですよ、いわゆるインターネット上でという意味の「オンライン」とは全く関係ありません。以前、オンライン編集試写と伝えたら、ZOOM上でCMの試写をすると勘違いされたクライアントさんもいらっしゃいました。ややこしいのでantsではなるべく「仮編集・本編集」と呼ぶようにしています(文中もここから仮編・本編にします)。
例えば、YouTubeの映像などを作っている最近の編集エディターは、境目なく同時進行でやっている人も多くいるかと思いますが、広告・CMの世界では、仮編と本編と2つの編集に分かれていることは、非常に意味があると思っています。
ーほぉ、というのは?
本編集は時間をかけて1つ1つのカットを緻密に仕上げていく作業です。そもそもの構成が変わってしまったら、また1からやり直すのは大変。なので、クライアントさんの意向が強いCMの世界では、まず仮編集で構成を決定して、それを本編集で仕上げると言う流れが合理的だと思います。
ー仮編集と本編集を別のエディターがやるか1人でやるかは、どうですか?
正解はないですね。ただ、使うソフトウェアもちがうし、使う脳みそもちがいます。1人でできるなら1人でやれば良いし、得意不得意があれば別れてやるで良いと思います。
ー使う脳みそはどうちがうんですか?
仮編集はずっと考える作業です。つなぎのことだったり、テンポ感が大事なので、全体像を考えながら編集することが重要です。ちなみに個人的に、仮編の上手い下手はテンポ感だと思っていて、音楽の経験だったり、リズムの感覚を持っている人は上手かも知れません。
あとは仮編は、監督との相性がかなり大事ですね。監督にベタ付きで作業する時間がかなり長いので、あうんの呼吸で意図が通じ合ったりできるとスムーズですよね。
ー確かに仮編のエディターは指名される監督が多いですよね。
はい、割と固定になっている監督が多いと思います。逆に本編集は、特別に変わった合成などがある場合でなければ、指名なくやられる場合も多いですね。
本編集で使う脳みそは、綺麗にしたり、見えてはいけないものを消したり、
色を良い感じにしたり、合成を馴染ませたりみたいな作業が中心で、これらはパズルに近い感じです。この作業をするには、これとこれをこう組み合わせてと、まずやり方を考えてあとは地道にそれを実行していきます。少し理系ぽい脳みそなのかなという印象です。
ーちなみに仮編と本編のエディター、どっちが偉いとかあるんですか?
ははは。「仮」とか言うとなんとなく下の印象がありますか?でも、そんなことはありませんよ。どっちが偉いとかはないです。
まぁ、でもどちらかと言うと、オフラインの方が偉いイメージがあるかも知れません。あ、でも使っているマシンやソフトウェアはオンラインの方が高機能で編集室の時間単価はオンラインの部屋の方が高いしなぁ。
ー普通のポスプロでは、最初はどっちから学ぶんですか?
自分の時もそうだったのですが、おそらく今でも最初に「どっちやりたいの?」って聞かれると思います。それで好きな方のアシスタントから始める感じですかね。
でも、業界的には監督がPremierとかAfter Effectをご自身で使える方もいたりする中で「どっちもできたら良いよね」っていう話はあると思いますよ。若い子はみんな両方覚えるくらいの気持ちでやったら良いんじゃないかとは
思います。
ーantsでもエディターのアシスタントを募集していますね
そうですね。どうしても専門の職人としてやっていきたいという意向があるなら止めませんが、両方やった方が面白いと思うので、特に希望がなければ両方やってもらおうと思っています。
それ以上にAIですね。もともと、編集の仕事はソフトウェアの進歩が日進月歩だし、勉強してあたらしいテクニックを習得していく毎日なのですが、AIに関しては積極的に情報を取り入れて、常に追ってないとすぐに時代遅れになっちゃうでしょうね。
ーAIの進化によって編集の仕事はなくなりますか?
うーん、なくなりはしないと思うんですけど、AIを前提としたあたらしい技術に対応していかないといけないし、使えるようにしておかないと、窓際に追いやられるでしょうね。
きっとすぐに「おまかせで編集してください」って言えばAIが編集してくれるようにはなると思うんです。でも、クライアントさんからの要望や課題があってそれを実現しなくてはならないことは変わらない。どのような修正をすれば、要望に応えられるのか?それを考えてAIを使うのが大事。
ー話は変わりますが、通常のポスプロの編集エディターと制作会社に所属する編集エディターとは、どうちがいますか?
制作会社の中にある編集室は、あたりまえですが基本的にその制作会社の仕事をしますよね。逆にポスプロにいると、いろんな制作会社の仕事をします。そうなると、毎日毎日違う制作会社の人やちがう監督と会って、毎日ちがう案件をこなすっていう感じになります。
それがantsにいると、少なくとも毎日顔を合わせるメンバーは同じで、チームとしての一体感がうまれますし、やりやすいですよね。
さらに、社内での共有もあるので、そこ(編集)までにいたる過程を知れているっていうのも大きいです。当日の朝に「はい、今日はこの編集です」って言われるんじゃなくて、どんな仕事が動いているのかがあらかじめ分かっていて、準備や撮影を経ていよいよそれが編集にやってくると。
人によるかも知れませんが、自分はこの感じは好きですね。作業時間も「このくらいかかります」と事前に制作部と相談しておけば、きちんと時間をもらえるのでクウォリティへの妥協もしなくて良いし。
ー募集する編集アシスタントは未経験でも良いんですか?
未経験でも良いです。やる気と勉強が大事です。やる気があって勉強すれば、すぐに経験はカバーできます。
ーどういう人がエディターに向いていますか?
編集マンのイメージっていうとひとりで黙々と朝から晩まで作業していると思われがちなんですが、そんなことはなくて、制作部だったり、監督だったり、クライアントさんだったりと話す機会は割と多いし、意図をきちんと伝えるという意味で、コミュニケーションがちゃんと取れないとダメですね。
あとは、本当にパズルみたいな時があるんで、頭の回転があんまり早くないと苦労しちゃうイメージありますね。頭の中でちょっと計算して、これとこれを組み替えてこれをこっちにつないで、これをこうとかみたいなことが早いと楽しめると思います。
ーどのくらいで一人前になれるんですか?
普通の編集室だと昔は 3 年とかって言われてましたけど、1、2年もあれば頭角を現して仕事になっていると思いますよ。ちゃんと勉強すれば。しっかり育てますので、興味ある方は是非、応募してください!