黒田 美紀のアンティーク・ストーリー ーネックレス編ー
みなさん、こんにちは。
アンティーク・ジュエリーの一番の魅力は、それを気に入ってくださった方を引き立てる
『額縁になってくれること』
だと思っています。
その中でも、ネックレスがその最たるものだと思います。
合わせるお洋服が云々かんぬんはこの際関係なくです。
他のお手持ちのアイテム、例えばブローチや小ぶりのペンダントが
年齢、そして時間の流れで
「そろそろ物足りなくなってきちゃった」
そんな時に
チェーンはそれらとコラボしながら、
ご主人様(着ける人)を素敵に引き立ててくれるのです。
ネックレスとその仲間たち
首周りに着けるジュエリーの総称。
その中にペンダント、チョーカー、チェーン等も含まれます。
レース?
・ネックレス ⇒ 英語表記で NECKLACE ♡
ネック? レース?あれ?
なんだか素敵な響きですよね。
外国の方はネックレースと発音しているように思います。
neck(首) + lace(糸を透かし模様にしたもの)
そうですチェーンのみを含む、首周りに着ける飾りのついた装飾品。
・飾りがチェーンと一体化している
・ペンダントヘッドなど付属のものがない
まさにNECKLACEですね。
ぶらさがる?
・ペンダント ⇒ 英語の語源であるラテン語で
pend(ぶら下る) + ant(もの)
確かにチェーンにヘッドがぶら下がっていますね。
余談ですが、Pending=保留 こちらも宙ぶらりんですね。
アンティークに魅せられて以来、いろんなことに興味をもって
日々楽しく過ごせる様になりました。生涯学習です。
アンティークでお勧めのヘッドは、下の②の画像にあるシール。
19世紀後期のハーフパールを使ったもの、そしてロケットなど。
アンティークのネックレス 独断の六傑
①ジョージアンのロングチェーン
Goldが英国史上最も希少で高価だった、19世紀初期の限られた短い期間。
もともと数の少ない英国貴族の中でも、もっと上の王侯貴族しか持てなかったGoldのロングチェーン。
まず、英国においてGoldが極端に希少だった時代に、熟練の職人が貴族のオーダーを受けて一コマ一コマ手作り。
叩いて薄く伸ばして強度を上げてシート状にしたGoldを打ち抜き、そのマットな表面に星のモチーフのみに、磨きをかける。
想像するだけで、気が遠くなります。
クラスプは細工師の小さな傑作と言われオリジナリティを発揮。
本品は樽状ですが女性の手のモチーフもよく見かけました。
そこには指輪をしていたり、レースの袖が表現されていたり、眺めているだけで思わず微笑んでしまいます。
作られて約200年。
戦争で国に金属を供出されたり、このチェーンの価値がわからない相続人によって金価格高騰の折に潰されたり、幾多のピンチを乗り越えて生き抜いてきたであろうこちらのチェーン。
この特殊な箱入りということは、オリジナルか否か不明であっても、大切に守られてきた証です。
強運のジュエリーたちよ。
ようこそ日本へ
ところで、
こちらのチェーンを一部分だけチラリとのぞかせて身に着けているだけで
たとえ首回りの一部、ほんの20㎝くらいだけ、見えるように装っても、
溢れるやんごとなきオーラがでます。
「わからない人にはコスチュームジュエリーだと思われるだろうから」と
気負わずに着けても「素敵ですね」と。
ジュエリーに全く興味が無い人からも褒められるってすごくないですか?
そして、見た目とは違って軽い。
肩がこらない笑
なによりアンティークに詳しい人以外には知られていないお宝。
褒められたとき
「ありがとう。これ古いのよ。そして軽いの♪」
とさらっと言えば、角が立たない♪
②K9Gold ロングチェーン
こちらは、ぐっと親しみやすい。
時代も1900年頃
Gold が中産階級の手に渡るようになって以降
スナップカンと呼ばれる金具に懐中時計などを取り付けてポケットにしまえる仕様でした。
そのままロングで残っているものは、そのスナップカンにシールを着けて、二重のペンダントにするのが、私のお気に入りです。
他には
上のようなチェーンが2~3本にカットされて、それぞれが45㎝程度のネックレスとなって、アンテークのペンダント用に第二の人生を歩むことも多いです。
K9のチェーンと一言で言っても、
デザインはもちろん、太さ、細工で全く別の雰囲気になります。
少し話がそれますが、指輪はごく限られたスペースに、美意識を詰め込み差別化をはかる。だからそれ自体が小さいにもかかわらず、アンティークに限らず良い石が使われ、高価であるように思います。
限られたスペースに。。と言えば
実はこのチェーンに至っては、2~3mmのコマにシンプルながらもデザインを施し、それが約150㎝の流れをつくり、零れ落ちる小さな滝のようです。
ただ平たく伸ばした金属を輪っかにしてつないだだけなら、折り紙で作ったの輪飾りと変わらない。いや、輪飾りも絡まらないようにきれいに作るのは、実は大変。。太さはもちろん、留める位置が少しでも違うとこごってしまいます。チェーンも同じこと。
そしてK9Goldチェーンの中には
よく見ると一つ一つの輪の内側に、薄い金(又は銀)シートて作られたもう一つの輪があるものもあります。
この内部の輪は、重さに耐え、そしてチェーンの接続部分の摩耗を抑える役割があります。初めて見た時は感動しました。
①に掲げたジョージアンのチェーンは、それぞれの輪の両端が内側に丸まっている。それゆえチェーンが引っ張られるような力が加わると、接続部分のへりに負担がかかり、ダメージの元になりかねません。
時代が下がり、知恵と機械の発達による進化ですね。
ところで、前述のカットされたチェーン達。
それぞれ大活躍をしていると確信しています。
アンテークのペンダントヘッドには、やっぱりアンティークのチェーンが似合います。
つい後回しになってしまうチェーンのお話
こんなことがありました。
以前勤めていたお店で、数年に1度、お嬢様と二人でご来店になる年配のお客様がいらしゃいました。
いつもアンティークの本の載っているような、名品を着けておいででした。
来店時には必ず「見るだけだから。気に入っている店があるから」とか「もう年齢も年齢だから、断捨離しないと」などと、ご来店早々にお断りをされていました。
その日は、ステップカットのダイヤモンドの迫力のあるデザインのクロスペンダントをお召しでした。
その当時でも市場で見かけないレアで素晴らしいお品でしたから、今では本でしか見かけない名品となっています。
でも
見た瞬間、私はとても残念に思いました。
なぜかと言うと
合わせていらしたチェーンが、今の言葉で「しょぼかった」のです。
現代のパールのペンダントについてきそうな、何にでも合いそうな18KGoldのチェーンでした。
付いているバチカンが大きくしっかりしているのに対し、チェーンのサイズが細くスカスカだったのです。
そのペンダントヘッドがなんだか気の毒に思い
そのヘッドをお借りし、45㎝ほどのK9チェーンを通してお鏡の前にたっていただきました。
お客様は鏡を見るやいなや真剣な表情で
開口一番「あなた、今いくらもってる?」
はい???
お嬢様に聞いていたのでした笑
お嬢様のお返事の後
「一番近い銀行はどこ?」
この間、3分も経っていませんでした。
まるで別物の様にクールでカッコよくなりました。
チェーンを代えただけでです。
その後、そのお客様は何回かご来店くださいました。毎回違うペンダントをお召しでしたが、チェーンはその時にお買い求めくださったお品でした。
つい、華やかなメインのお品をお迎えしてしまう。
脇役のチェーンが後回しになってしまうお気持ちよくわかります。
1本アンティークのK9Goldのもの45㎝程度あれば、あとはアジャスターを取り付ければ長さ調整できます。
さらっと一本で着けても、トップをつけても。K9なので、Gold 色も薄いので、Silverがメインで使われているジュエリーにも合います。
是非1本手に入れてください。
③K18Gold フィリグリーネックレス
フランス製のこちらのネックレス。
このようなパーツを手作業で延々同じものを140㎝分作りつづける
気の遠くなるような根気と技術が必要でした。
なので現代のゴールドチェーンでは、見ることができないお品です。
私がこのチェーンを手に入れたのは12年以上前です。
約70㎝なので、被るだけ。
夏はTシャツで、冬はセーターのうえから被るだけで、ちよっとそこまで行くのにも、実家に行くのも着替えるのが面倒だとそのままさらりとかぶって出かけました。
あまりに自然体で愛用していたので、ついに母が気に入りました。
しかし、母は現代ジュエリーが好きなのです。
何度もアンティークにあると言っても、似たものを求めて現代宝飾店を探していました。
二年近く経ったある日、とうとう諦めて私が勤めていたお店に買いに来ました。
今は機械でつくるので、こんな精緻な細工はできません。
仮に作家さんにオーダーして出来たとしても、いったい工賃どれだけかかるでしょうか?
フランスのアールヌーヴォーのチェーンの実力恐るべし。です。
ただし、ここで①のイギリスを代表するチェーンと比べることはできません。
なぜなら時代背景そのものが全く異なるからです。
フランスのチェーンの方が100年近く若いのですから当然ですね。
フランスでは1870年頃から貴族は存在しておらず、
どんなに素晴らしくても『貴族のオーダーによって作られた』わけではありません。
④ペンダント 兼 ブローチ
19世紀中期から20世紀初期にかけて、Gold にハーフパールと半貴石を合わせた、ペンダント兼ブローチが多く作られました。
少し時代を遡ると19世紀中期のパール&ダイヤモンドの良いお品の多くは、社交界のデビュッタントボール用にご両親から贈られた
・『パリュール』(同一デザイン3アイテム以上のセット)
または
・『デミ・パリュール』(2アイテムのセット)
だったものが多いように思います。
画像はありませんが、
セットだったと思しきネックレスの中央には、おそろいのペンダントブローチを取り付ける為のパーツが付いているものが多いのです。
また、ペンダントブローチのバチカンの着脱が自由にできたり、
作りのしっかりとした、一目見て高級品とわかります。
⑤ラヴァリエール
現代物で時々『Y字』などと呼ばれたり、
それ以外にも、以前流行りましたね
ダイヤモンド3粒のネックレス『現在・過去・未来』でしたでしょうか?
でも1900年頃にはすでにこのスタイルのネックレスがありました。
『ラヴァリエール』と言います。
胸元に真っすぐ下がる。とても女性らしいエレガントなネックレスです。
当時貴婦人たちはお出かけ用ではなくて、日中にも着用していたようです。
チェーンの長さで雰囲気がかわります。
こちらは、下がる部分にジョイント部分があるので、しなやかに揺れます。
⑥ネグリジェ
ネグリジェ?え?パジャマ?
誰もが思いますよね。
フランス語でネグリジェとは、ウエストをマークしないゆったりとした日中用のドレスのことをいいます。
⑤ラヴァリエール同様、こちらも貴族が日中の装いに合わせていたネックレスのスタイルです。
天然石やダイヤモンドをセットしたものなど、当時人気がありました。
エドワード7世妃アレキサンドラがスタンドカラーのブラウスの上に着用している写真をどこかで見た記憶があります。
まとめ
六傑の①~③がチェーン、④~⑥がペンダント
意図せず名品を並べてみましたが、なぜかチームが分かれてしまいました。
欧米では、年齢を重ねるほど華やかなものを身につけます。
一粒ダイヤモンドのネックレスも素敵ですが、年齢を重ねた方が着けると、首周りの貧相な感じが目立ってしまいます。
いっそ何もつけない方が良いように思います。
やっぱり、小さな一粒石ののネックレスはお肌がふっくらとしたお若い方向けなのです。
でも、「じゃあ着けるなっていうの?宝物なのに⁉」
大丈夫です。
長めのネックレスで額縁を作ってあげてください。
ロングのパールのネックレスでも素敵です。
または成熟した女性だからこそ似合う、
華やかで遊び心のあるコスチュームジュエリーで大人のお茶目を
たのしんでみても。
あ、年齢を重ねた方はコットンパールのネックレスだけは避けた方が良い様に思います。愛用している方がいらしたらごめんなさい。完全主観です。
「え?軽くてらくちんなのに何故?」
見た目から軽さがあるのは、大人の女性にはお勧めしません。
動くたびに揺れるを通り越して跳ねています。
エレガントではありません。
なるべく『重く見えて、実際は軽いもの』がお勧めです。
年齢を重ねて、ジュエリーも淘汰されます。
最後に残るネックレスは、エレガントで重厚感があって軽いもの。
ご旅行にも大活躍です。
いかがでしたでしょうか?
長くなってしまいましたが最後までお読みくださり、
ありがとうございました。
皆様のジュエリーライフに、少しでもお役にたてればうれしいです。
アンティークス ミキ
黒田 美紀
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