食べたいなあ、おかめうどん
東京の下町で生まれ、家では商売をしていたため、子どもの頃は店屋物の出前を食べる機会も多かった。近くの蕎麦屋さんのメニューで好きだったのは、おかめうどんだ。
おかめうどんには、たくさんの具材がのっている。当時は好き嫌いも多かったのに、なぜ母が私用におかめうどんを注文していたのかは不思議で仕方がないのだが、そのお店のおかめうどんにはグリンピースがのっていた。
そのグリンピースは何の変哲もない、まさにただのグリンピースなのだが、その味を今でも思い出すことができる。「ああ、おかめうどんが食べたいなぁ」と思うときの私の口は、このうどんの具材の真ん中に数粒置かれたグリンピースの味を思い出しているとも言える。
その後、引っ越しをしたこともあり、あのおかめうどんを食べることはなくなった。以来、街中でお蕎麦屋さんに入っても、あのおかめうどんの味には出会えたことがない。
自宅でおかめうどんを作ろうと思うと、のせるための具材をそろえるだけで大変な思いをする。そして、おかめの定義を整えることに注力してしまい、お目当てのグリンピースにまで手が回らない。
数年前に以前暮らした土地を訪れたことがある。すると、あの蕎麦屋さんがあった場所は、デイサービスに変わってしまっていた。もう、私の中では、おかめうどんへの想いは募るばかりだ。
「ああ、食べたいなあ。おかめうどん(グリンピース入り)」