謎の方法でパチンコを辞めた人たち2【15店舗出禁の魔女】
お世話になっております。
まもなく禁パチ100日目に達しようとしているコハラです。
今回も変わった方法でパチンコを辞めた人たちを紹介します。
セミプロは淘汰されていく
馴染みの雀荘で必ず夜10時になると現れる女性がいた。
ここではBさんってことにしておく。
いわゆるパチプロで、遅くともパチ屋での稼働は21時代には終わらせて、22時には雀荘に来る。そういう決め事をしておかないと、ついアツくなって閉店ギリギリまで勝負しちゃうからってことらしい。
Bさんはパチプロなんだが、パチンコ依存症でもあった。
とりあえず食えているし、好きなだけパチンコ打てるしっていう理由でパチプロをやっていた。だから他のプロと比べて選別の基準が甘かったりして、期待値が高い台が無くても惰性で打って負けちゃう、みたいな話もけっこう聞いたことがある。パチンコ屋に一旦入ってしまったら、とにかく何か打たないと気が済まない。ガチのプロは、期待値積める台がなければ、その店で打たないっていう選択は普通にするのだが、彼女にはそれが難しかった。
そういう意味で、Bさんはセミプロって言ったほうが良いのかもしれない。自分ではパチプロと言っていたが、立ち回りはかなり素人寄りだった。ただ彼女はテクニックが凄まじく、一度見せてもらったことがあるが、特に捻りなんかは惚れ惚れするくらいの成功率だった。
立ち回りは稚拙だがガチプロ並みのテクニックがあることを考慮して、セミプロっていうくらいの立ち位置だったんだと思う。
そんな彼女が、雀荘でちょくちょくアウトを切るようになってきた。
※アウトを切る:負け分が払えなくて、店に立て替えてもらうこと。
そのアウトはだいたいすぐに返していたみたいだが、周りからは「魔女」と呼ばれるくらい麻雀がバカ強かった彼女が、アウトを切るような状態になること自体がそもそも珍しかった。基本的に稼げるような場ではない店だったが、彼女なら1ヶ月毎日雀荘に通っていても、おそらく月間5,000円以内で支払いは収まっていたのではないかというレベルの腕前だった。
なぜBさんが麻雀で負け始めたのか。理由は簡単で、パチンコで負け始めたからだった。
パチンコで負けた金を少しでも取り返そうと、今までなら打たないような暴牌をバンバン切ってきて、まんまと捕まるっていうのを繰り返していた。麻雀ってのはうまくできているもんで、そういう状態のときは絶対勝てない。いくら場末の雀荘だからって、ブンブン全ツッパおじさんからサクッと回収してやっとトントンになるようなレートなわけだから、そのおじさんたちと同じ土俵に立って勝負してたらそれは負けていくに決まっている。
当時、パチンコ収支がややマイナス傾向にあったBさんは、立ち回りを見直し、かなり期待値寄りの稼働を徹底していた。それでも期待値通りに出玉を取れるわけではなく、わけのわからない大ハマリや5連続確変スルーなど、大幅な欠損が続いていた。当時は遊タイムもなかったし。
要は、大幅な下振れに財布が耐えられなかったっていう話。
これはパチプロとしてピン稼働している以上は避けられない事態で、これが嫌なら軍団作ったり入ったりして収支を安定させる必要がある。ピンでやっていて下振れに耐えられないなんてのは完全な自己責任で、これまでの稼働で余剰を積み上げられるようなガチめの立ち回りを怠ってきたツケが回ってきたってことだ。
こういう大幅な下振れに耐えられる余剰を事前に詰みづらいから、セミプロってのは淘汰される時代になったっていうことでもあった。テクニックだけで時短中に球を増やせるような台は、ほぼ絶滅していたのだ。
「出禁にしてもらえよ」
Bさんは仮にこの状況を乗り切ったとしても、平常時の収支に戻れば、おそらくパチンコ欲に勝てずに、甘い立ち回りに戻ることが目に見えていた。そしてまた欠損が起これば、生活に窮する。
そんな状態のまま麻雀で大負けを食らったある日、いつも通りアウトを切って、卓を抜け、余った小銭でビールを飲みながらBさんは泣いていた。
私生活で嫌なことがあり、それを忘れるために雀荘に来たのに、そこでも心を抉られるような不ヅキで大敗を喫し、心が決壊して泣き始める。そんな人はそれなりにいるので、雀荘で涙を流している人がいてもあまりみんな気にしないのが普通だった。だいたいそういうヤツは酔っ払っていることが多いしな。
ただ今回、卓外で泣いているのは、巧みな迷彩や仕掛けでおっさん達を手玉に取ってきたあの魔女だ。さすがに何人かの常連は声をかけずにはいられなかった。
「もうパチンコ辞めたい」
自分の麻雀が不調である原因をしっかりわかっていた魔女は、泣きながら何度もこう言っていた。最初は、そのうちツキが戻るよとか、適当なことを言って慰めてたオッサンたちも、Bさんの剣幕に、いよいよかける言葉がなくなっていた。
その様子を見ていた雀荘のオーナーが、魔女のグラスにビールを注ぎながらこう言った。
「自分で辞めらんないなら、出禁にしてもらえば?」
出禁になるのは難しい
他に辞める手がかかりを見つけられていなかったBさんは、とりあえずその言葉通りに馴染みのパチンコ屋に行き、自分を出禁にしてくれと頼み込んだらしい。ただこれが全然うまくいかない。どこに行っても出禁にしてくれない。
なかなか変な話に聞こえるかもしれないが、よく考えてみてほしい。普通に考えて、客ひとりを客の都合で出禁にすることに、店側はなんのメリットがあるのか。店側からすると客が一人減るうえに、出禁っていうのはそれなりの管理が必要だ。監視カメラや店員の目視時に出禁客のリストを確認して、その客がいれば声掛け、排除まで行わなければならない。声掛けしただけでスムーズに退店してくれる人だけじゃなく、大騒ぎして暴れる客もいる。自分で出禁にしろと頼んできたはいいが、いざ声掛けされたら反抗する、そんな可能性だってある。店側からしたら手間やリスクしかないのだ。
そんな出禁申請をいきなりされても、店側が簡単にOKしてくれるはずもなく、15店まわったうち、出禁申請が通ったのはほとんど行かない1店だけだった。
頼めば出禁くらい簡単にしてくれる、そう思っていたBさんはかなり戸惑った様子だったが、そこはやはり腐っても魔女、1ヶ月後には魔術でも使ったかのように見事に15店すべてから出禁を勝ち取った。
法を犯さず真正面から出禁になる方法
頼んでも出禁にしてもらえないなら、向こうから出禁にしてもらうしかない。
ただ通常、簡単にできる出禁行為っていうのは、店で暴れるとか台をぶっ壊すとか、そういう法律を犯すようなレベルのものが該当する。しかしそんなことをしたら、最悪警察にしょっぴかれるし、1件なら注意で済んでも、それを15件もやったら間違いなく逮捕される。
そこでBさんは上記いずれの方法も使わずに、真正面から出禁を獲得することに成功した。
その方法とは、これまで培ってきたパチプロとしてのテクニックをフル動員してパチンコを打つことだった。
例えば、店員の見ているまえでこれでもかと捻りまくる。そして成功しまくる。
時短中はもれなく球増やしを敢行する。
ほとんど増えない台でも、増やしている感じを出す。現状維持でも上等。とにかく、「なにかやってる感」を出す。
これを1ヶ月間すべての店で繰り返したことによって、魔女はすべての店から出禁を獲得することに成功した。
当時はもうすでに「プロお断り」の店がほとんどで、捻りなどのいわゆる「特殊打ち」を行うと、注意されることが多かった。普通はばれないようにこっそりやるものなのだが、逆にそれをおおっぴらにやりまくったということだ。もちろん店側としては対応せざるを得ず、しかも注意された際に「みんなやってるのに私だけダメなの?」「なんでストップボタンついているのに使っちゃいけないの?だったらつけないでよ!!」とかいう反抗的な態度をとれば完璧。1回では出禁にならなくとも、2回目にはだいたい出禁になることができたらしい。
見事15店舗からの出禁を食らい、禁パチに成功したBさん。
早々に麻雀も復調し、ソウズ1枚も切らずマン・ピンだけバラ切りソウズ一色手に見せかけての赤五萬単騎みたいな魔女っぷりを見せつけてオッサン連中を絡め取っていた。
彼女には悪いが、こんな綺麗に復調されるくらいなら、そのままパチンコ続けて負けていてもらったほうが良かったな、と思っている男性陣もきっと少なくなかったに違いない。
今でも22時の魔女としてあの雀荘に君臨しているのだろうか。
魔女狩りをかねて久々にあの雀荘に足を運んでみようと思ってしまった俺は、すでに彼女の魔術にかかってしまっているのかもしれない。