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ある若い女性

ある若い女性に会った。歳は20代後半。
昔からの知り合いだが、久しぶりに会って話をした。
年齢以下のあどけなさと、年齢以上のしっかりした意志の強さの両方を兼ね備えた実にチャーミングな人である。
あるチェーン店に勤めているが、最近店長に昇進したという。その若さで異例の大抜擢である。その秘訣は何なのか?

店には毎月の売り上げ目標数値が本部から与えられ、店長としてプレッシャーもあるが、飲食業ではないため、コロナ禍のなかで、ある理由から客単価は上がっているという。経営は順調のようだ。
「自分は人に恵まれている。スタッフがいい人ばかりで、私はむしろ周りに盛り立てられていて、店長らしいことなど何もしていない」と、本人はいたって謙虚だ。自分の身の丈も知っていて、決して背伸びをしない。一人の人間が強いリーダーシップを発揮して、他を引っ張っていく、というやり方ではなく、「皆で一緒にやっている」という雰囲気が伝わってくる。何やら21世紀型の新しいリーダー像を見ているような気がした。
聞けば、年上のスタッフもいるという。本人に「何か」がなければ、スタッフも盛り立てはしないはずだ。

とにかく、人を真っすぐ見る。その視線に曲がったところはいっさいない。しかし、こちらも見つめ返すと、少しはにかんで笑ってみせる。「愛されキャラ」なのだろう。しかし、受け取るばかりではないことは、発しているオーラからわかる。
穏やかで、どちらかというと口数が少ない。これでよく接客業が務まるな、と思うほどである。その分、とにかく人の話を丁寧によく聞く。人から学ぼうとする姿勢がよくわかる。人が何を考え、何を求め、今自分の目の前で何が起きているのかを敏感に察知して対処しようとする。その洞察力とバランス感覚は天性のものだろう。相手に気を遣って発言していることもよくわかる。その気遣いが、てらいなく自然にできる。人の悪口はいっさい言わない。相手のいい面だけを口にする。刺々しさがまったくなく、女性らしい柔らかなオーラを常に発している。「敵を作らない人だ」とよく皆からも言われるという。
本人は今どきのオシャレなシティガールだが、私のことも見抜いていて、「都会で暮らすと病気になるタイプ」と見事に言い当てられた。
夢もよくみて憶えているという。最近の夢をチラッと聞いたが、どれだけ秘めたる情熱の持ち主かがよくわかる内容だった。

この人が発しているオーラを一言で言うなら「愛」だ。誰に対しても平等に振り撒こうとする「愛」・・・それは母性愛ともちょっと違う。むしろ「慈愛」だ。おそらく女神が人間に対して向ける愛だろう。つまり「エロス」ではなく「アガペー」だ。
同時に強い美意識を兼ね備えていることもわかる。その部分で妥協はない。自分の主義主張に関しては、Yes、Noがはっきりしている。それでいて押しつけがましくない。
その小柄で華奢な体からは想像もできないような行動力の持ち主でもある。学生時代からつい最近(コロナ禍の前)まで、アジア諸国やヨーロッパ諸国を旅して廻ったという。モルジブでジンベエザメと一緒に泳いだ、という話には驚かされた。今度は、スカイダイビングをやってみたいという。この人ならやりかねない。とにかく、何かを経験することに対して貪欲だ。地球に生まれてきたことを楽しんでいるとしか思えない。こういう若い人がいるのは、人間界も捨てたものではない、という気がした。
「今の若い子たちは、コロナで卒業旅行にも行けず、かわいそう」と嘆いても見せた。
そんな大胆さの反面、慎重さもきちんと持ち合わせている。最近実家を出て一人暮らしを始めたというが、マンションはオートロック式で住人にはファミリー層が多く、管理人さんも常駐しているという。例の小田急線の傷害事件を受けて、いつ誰が刃物を持っているかわからない想定で警戒してもいるという。

おそらく本部も、そういう彼女の人柄を見抜いたのだろう。「この人ならやれる」と踏んでの店長大抜擢といったところか。彼女は最近では、さらなる販売スキルの向上のため、資格試験の勉強をしているという。本部から販売や自己啓発の類の課題図書を与えられるが、当たり前のことしか書いてなくて、物足りないという。
以前から、「この人はちょっと違うな」と思っていたが、今回改めて私は彼女の「ファン」になった。この人からは、学ばせてもらうことが本当に多い。
彼女はおそらく、自らのセンサーを通して地球から、あるいは人から学んだことを、これからも私たちに還元し続けるだろう。

最近私は、どうしても発達心理学の観点から人を見てしまうのだが、こういう若い女性がどのように出来上がるのか興味を抱いた。
私は彼女の生い立ちもある程度知っている。家庭内にそうとう辛いこともあったはずなのだが、ひねくれたところがいっさいなく、真っすぐに伸びている。
それはもう、この人の持って生まれた「魂」としか言いようがない。きっと、充分に学びを積んで成熟した魂が、成熟したまま生まれてきたのだろう、と想像してしまう。そんな彼女の魂に触れることで、今回私は、今まで封印してきた過去のトラウマを解き放つという得難い経験までさせてもらった。

ソクラテスは、弟子であるメノンの「徳は教えられうるか」という問いかけに対して、こんなふうに答えている。

「魂は不死なるものであり、すでにいくたびとなく生まれかわってきたものであるから、そして、(中略)いっさいのありとあらゆるものを見てきているのであるから、魂がすでに学んでしまっていないようなものは、何ひとつとしてないのである。だから、徳についても、その他いろいろの事柄についても、いやしくも以前にも知っていたところのものである以上、魂がそれらのものを想い起こすことができるのは、何も不思議なことではない。」(プラトン著『メノン』岩波文庫より)

もちろん、人は成長度「0」の状態で生まれてきて、段階を踏んで大人になる。しかし、魂の経験値はゼロとは限らないし、成長のスピードにも個人差がある。自我が芽生える頃には、眠っていた魂も目を覚ますはずだ。それを阻害する要因も、もちろん世の中には溢れている。そのために魂が眠りこけたままの人もいる。もったいない話だ。しかし、自分の魂に対するそうした要因による阻害を許すか許さないかも、おそらく本人次第なのだろう。
もし彼女のような真っすぐな人を、ねじ曲げてしまう要因があるとしたら、襟を正さなければならないのは(私も含めた)「世の中」の方だ

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