対ロシア経済制裁がもたらすもの
G7諸国の対ロシア経済制裁の中で最も重い措置は、SWIFTからの締め出しだと言われている。この制裁は、どこまで有効だろうか。ロシアはこれに対して、どんな抜け道を用意しているだろうか。そして、こうした「イタチごっこ」の果てに待っているものとは・・・?
エコノミストの熊野英生氏の記事をもとに、要点を簡単にまとめてみた。
参考:
●追い込まれるロシア、遂にSWIFT排除
~どの範囲まで貿易取引は停止するか?~
https://www.dlri.co.jp/report/macro/182913.html
●ねばるロシア、経済制裁に対抗
~各種の「抜け穴」を考える~
https://www.dlri.co.jp/report/macro/184105.html
■対ロシア経済制裁の効果と抜け穴
○SWIFTからの締め出しは、正確には主要7銀行に限定されている。SWITFから締め出しても、ルーブルを人民元や暗号資産に一度交換すれば、その資金で取引ができるものもある。
○いずれにしても、ルーブルの価値の急落によって、他の資産への交換も不利になり、ルーブル建ての決済は敬遠される。
○SWIFTからの排除の裏には、ロシア中央銀行の外貨資産の凍結という目的もある。
○こうした西側の強権発動には、米ドル覇権の威力を見せつける意味合いがあるが、同時に、ロシアや中国の「ドル離れ」を招くことにもなる。その結果、中長期的には、米国の力を弱めることになる。
○対ドルでのルーブル価値の推移を確認すると、最近はリバウンド(価値回復)してきている。これは、首位のズベルバンクを制裁対象から除外したことで、難を逃れたい事業者がコルレス銀行(送金の中継機関)をズベルバンクに切り替えたからとみられている。
○ズベルバンクをSWIFTから外さなかった理由は、ドイツの対ロシアのエネルギー輸入をすぐには停止できなかったからだという見方がある。
○2014年のクリミア侵攻の際にもSWIFTからの締め出しが検討されたことを受けて、ロシアは独自のSPFSという銀行間送金システムを作った。中国にも同様のCIPSというシステムがある。このSPFSとCIPSが連携するか、あるいはロシアの銀行がCIPSに加盟すれば、中ロ貿易は維持できる。
○しかし、国際送金の仕組みの中で、CIPSもまたSWIFTの電信システムを共有していると言われる。ロシアがCIPSを利用するなら、米国などがCIPSにも何らかの制限や罰則を加えてくる可能性はある。
○また、ロシアがCIPSを使って資金移動を行うと、中国にその情報が筒抜けになる。ロシアがそれを許容するかどうかはわからない。
○もうひとつ、暗号資産の取引がロシアの抜け穴になるという見方もある。デジタル通貨は、いわば「デジタル現金」のように分権的に、その場で支払いを決済できる。米国は、このルートもロシアの利用を制限しようとしているが、そもそもそうした排除が技術的に可能かどうかという疑問がある。
○ただし、近い将来には、ロシア・中国は、ドル覇権に屈しないために、デジタル・ルーブルやデジタル人民元を、安全保障の目的で流通させる可能性はある。
○ロシアはLNG、原油、石炭、レアアース、レアメタルなどの世界有数の資源輸出国であるため、そうした資源を「人質」にして、経済制裁に対抗しようとする。今後ロシアは、経済制裁非参加国との取引を増やすことで対抗してくるだろう。
○たとえば、インド政府は割安でロシアから原油を購入したと言っている。インド・ルピーとルーブルで直接取引ができれば、ドル決済がしにくい制約からも逃れられる。
■今後の展開
○ロシアがG7諸国の経済制裁を逃れようとすると、予想外に様々な抜け穴がありそうだ。これは、米国などにとっては、完全な包囲網をつくることが難しいことを示している。
○西側は、資源を盾にとったロシア側の対抗措置に対応するため、ロシアに依存しない資源の新たなサプライチェーンの構築を迫られる。
○対ロシア制裁は、今後さらに強化されるだろう。たとえば、SWIFTからの排除対象銀行を増やす、など。ロシアのウクライナ侵攻が長期化するにつれ、そうした追加措置が増えていく。米国に追従している日本は、こうした状況の変化にますます翻弄される。
○軍事的な勢力バランスだけでなく、経済面、貿易面、国際協力体制の面でも、世界の相関図は塗り替えられ、東西の溝はますます深まることになる。
さて、この流れでいいのだろうか?