シリーズ「新型コロナ」その6:数字に騙されるな
■感染者数と感染率はまったく別もの
「10万人当たりの感染者数(感染率)を調べると、東京より福井のほうが高い」という結果が出たそうだ。
https://president.jp/articles/-/34334
そういうことも充分にあり得る。
私たちは、統計的なデータについつい騙されてしまう。
人口が多い東京は、その分他の府県より感染者が多くても何ら不思議ではない。
その自治体が何らかの理由で他の自治体より感染者が多いということを統計的に言いたいのであれば、当然分母に人口を持ってきて割り算をしてみなければわからない。
しかし、マスコミなどに登場する統計的な数値は、ほぼ「今日の感染者数」だけである。これではほとんど何も判断できない。これは何かの「忖度」か?
統計データは、もちろん状況を分析するうえで、もっとも重要なファクターのひとつだ。
ただし、地域別の一日あたりの感染者数と累計感染者数は、統計分析するうえでの基礎データであって、分析結果ではない。
統計分析によって、どのような状況を知る必要があるかと言えば、いちばん肝心なことは、「闘うべき敵を知る」ということだろう。この新型コロナウィルスとは、どのような性質を持っているか、どのような動きをするのか、ということだ。
そのために、基礎データからどんな情報を導き出したいかを考えるなら、当然次のような割り算が考えられる。
〇致死率=累計死亡者数÷累計感染者数
〇重症化率=重症患者数÷感染者数
〇治癒率=治癒した患者数÷感染者数
まだまだいろいろ考えられる。
致死率は、そのウィルスの毒性の強さを表すだろう。
もし重症化率が高いのに、致死率が低いなら、このウィルスは毒性はさほどではないが、苦しい闘いを余儀なくされることを物語っている。
重症化してから死に至るまでの日数、年齢や性別、基礎疾患のあるなしまで調べるなら、どのような人が重症化しやすいか、というところまでわかる。
仮に、致死率や重症化率の日々の推移を見られるように統計を取ったとする。致死率が下降傾向なら、ウィルスの勢いが衰えているか、あるいは医療が功を奏しているということが読みとれるだろう。逆に上昇傾向なら、ウィルスの勢いが増しているか、医療がうまくいっていないことを示すだろう。
ある時点を境に、数値が大きく変動したなら、ウィルスの進化を疑う材料になるかもしれない。
仮に、特効薬などが開発され、その効果を見たいなら、治癒率の増減は重要なバロメーターになる。
■重要ないくつかの指標
今、この新型コロナウィルスとの闘いで、重要な要件がいくつかある。それを統計であぶり出すことは、ある程度可能だろう。以下に、思いつく限り挙げてみる。
〇検査数あたりの陽性率
感染収束に向けて、PCR検査は足りているか、あるいはこの検査自体が効率的に行われているかは、重要な要件のひとつだろう。
一日あたりに可能な検査数は、当然限られている。検査現場はすでに飽和状態のはずだ。はっきり言ってまったく足りていない。もちろん検査可能数を増やす努力はするとしても、現状の少ないパイをどれだけ効率的に利用するかが問題になってくる。それを示すバロメーターとして考えられるのは、「陽性率=陽性者数÷検体数」だろう。もっとも効率のいい検査のあり方とは、陽性者だけを狙い撃ちで検査する、ということだ。陽性率100%というのはもちろんあり得ないが、陽性率を少しでも上げる検査の方法(検体の選別方法)とは何かを考えることは、「検査崩壊」を防ぐ有効な手段のはずだ。
ちなみに中国は、感染爆発の当初、たとえ無症状者であろうと、感染の疑いがある人はもれなく検査し、陽性だったらもれなく隔離する(家に帰さない)、という方策をとったという。これが早期収束のひとつの大きな要因になった。
今日本は、これをやらなかった(できなかった?)高いツケを払わされている。
〇医療従事者の感染率
今、医療現場ほど「3密」状態の場所はない。たとえば、ライブハウスなどでは、100人中一人でも感染者がいればクラスター化する原理だ。医療現場は、感染者の数がライブハウスなどとは比べものにならない。もちろんスタッフは完全防備のはずだが、いかんせん医療資材が足りていない。もしスタッフの一人でも感染したら、その周りの濃厚接触者は最低二週間の自宅待機を余儀なくされる。貴重なスタッフをいきなり10人単位で失う、という事態がすでに起きている。ただでさえ人員が足りていない現場で、である。医療崩壊はいとも簡単に起きる。
「医療従事者の感染率=医療従事者の中の感染者数÷全医療従事者数」は、何としても最低限に抑える努力をしなければならない。
これに付随する統計データとして、「医療従事者一人あたりが抱える感染者数」も重要だろう。この数値が高いほど、医療従事者の感染率は上がる。
〇感染経路不明率
感染が拡大しているのか、それとも収束しているのかを計る重要な指標のひとつは「感染経路不明率=感染経路不明者数÷感染者数」だろう。
感染経路不明の感染者が増えているほど危険なことはない。今がそういう事態だ。ある感染者が、どこで誰から感染したかわからない、という事態の裏には、無症状ないし潜伏期間中の感染者が動き回って感染を広げている可能性が隠れている。
これを阻止するには、やはり「出歩かない」という方策しかない。したがって、今回の外出自粛・通勤自粛措置が功を奏したか否かを計るバロメーターとしても、この感染経路不明率が下がっているかが問題となる。
〇軽症感染者の平均治癒日数
今回の新型コロナウィルスの場合、感染爆発を引き起こす原因となるもっとも憂慮すべきことは、無症状感染者が相当数存在するということだ。できるなら、この無症状感染者を追跡してあぶり出したいところだが、それは極めて難しい。
統計で直接あぶり出すことも困難だが、間接的な判断材料を得ることは、できなくはないだろう。
たとえば、軽症感染者が感染してから治癒するまでの平均日数を計算する。つまり「潜伏期間+治療期間」ということだ。「陽性者が陰性に転じるまでの平均日数」と言い換えてもいいかもしれない。これは、人に感染させる危険性がある期間ということでもあるだろう。あくまで類推だが、無症状感染者は、最低でもこの日数は、自分の感染に気づかずに動き回って感染を広げる危険性がある、ということだ。この指標は、「もしかして自分は無症状感染者かもしれない」と思う人への注意喚起にはなり得るだろう。
というわけで、統計学には素人の私でも、これぐらいのことは思いつく。
感染症との闘いにおいて、「勝ち戦」傾向なのか、「負け戦」傾向なのかを計る統計の取り方には、まだまだいろいろあるはずだ。
統計はあくまで状況分析手段にすぎない。それを見てどう分析し、それをもとにどのような対策を講じるかが重要だ。「対策なき統計」は無意味だ。