シリーズ「新型コロナ」その31:成功例・ニュージーランド(アーダーン首相)
■ニュージーランドのアーダーン首相
https://precious.jp/articles/-/18886
https://www.vogue.co.jp/change/article/female-leaders-fighting-covid19
https://www.bbc.com/japanese/52364479
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/04/post-93115.php
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/71914
新型コロナウイルスの対応において世界的に高く評価された筆頭が、ニュージーランドのアーダーン首相(39歳)。「危機時におけるコミュニケーションのお手本」と海外メディアも絶賛。
2017年に首相就任、2018年に第一子出産。世界で初めて産休を取得した首相となった。また、国連の会議にも子連れで出席する、などの話題も振りまいている。大学での専攻はコミュニケーション学。
3月13日、ニュージーランドはあの悪夢の「モスク銃撃事件」の1周年追悼式典を予定していた。その最中、WHOが新型ウイルスのパンデミックを宣言。
BBC記者からの「WHOによるパンデミック宣言直後の大規模集会に不安はないのか」との質問に、アーダーン首相は「既存の科学的助言に基づき、懸念はない」と答えたが、翌日、首相は追悼式典を中止しただけでなく、全世界からの入国者に対して、入国後14日間の自主隔離を実施すると発表した。
この変わり身の早さ、事態の急変に即応する柔軟さが、世界最速レベルの感染症抑え込み成功を生んだ。
■ニュージーランドの具体的対策
〇2月3日の時点で、外国籍の人全員を対象に、中国からのフライト(トランジットを含む)での入国を禁止した。ニュージーランド国籍を持つ人や永住権を持つ人とその家族は入国が許されたが、14日間の自主隔離が求められた。
〇2月28日に同国初の感染者が確認されると、すぐに入国禁止対象国を拡大。
〇3月17日、GDPの4%に相当する121億NZドル(8000億円弱)規模の経済対策を打ち出した。
〇3月19日、自国民や永住権保有者以外は、全世界どの国からも入国禁止とした。
ニュージーランドは、約490万人の人口に対し、海外からの観光客数が年間で390万人に達する観光大国だが、決断は早かった。
〇感染による死者がまだひとりも確認されていない3月25日からロックダウンを始めた。
〇他国が「封じ込め」を目標にしているのに対し、「根絶」を目指すという警戒レベルの高さを、明確なメッセージで国民に共有した。
〇各家庭に新型コロナウイルスに対するわかりやすいペラ一枚の手引書を送り、「何をしても良くて、何がダメなのか」を、子供でもすぐに確認できるよう気遣った。
〇国家非常事態を宣言した3月25日の夜には、「カジュアルな格好ですみません。赤ちゃんを寝かしつけるのが大変で」と、スウェット姿で登場。自宅からFacebookライブを使って新型コロナウイルス対策について説明し、寄せられた質問に対しても、ひとつひとつわかりやすく丁寧に答えたが、決して事態を過小評価しなかった。
〇3月27日時点での感染者数、368人。
〇公の発言のほとんどを、次のようなメッセージで締めくくっている。
「強く、お互いに優しく。そしてみんなで一つになって」
彼女は、ニュージーランドのことを、繰り返し「500万人のチーム」と呼んでいる。
〇アシュリー・ブルームフィールド保健省代表と二人で1日に1回、毎日記者会見を行った。
〇必要不可欠な職(医療職、食料品の販売など)に就いている人以外の全国民に自己隔離が、さらに仕事をしている人には自宅勤務が課せられた。自宅で仕事ができない人には、常勤者であれば週にNZ$585.80(約3万8000円)、パートタイム勤務者であればNZ$350(約2万3000円)が政府から支払われる。感染が確認された自己隔離者も同様。
〇4月上旬の世論調査によれば、調査対象者の92%が、「政府の方針にきちんと従って生活している」と答えている。この調査で「政府を信用している」とした人は83%、パンデミックに対し、政府がとった対応に賛成する人は84%。新型コロナウイルスへの対応で、政府が正しい判断を下すと信頼を寄せる人は88%。これらはG7の平均を大幅に上回る。
〇4月中旬時点での死者は4人。
〇4月15日までに行われた検査の合計は6万6499件(人口1000人当たりの検査数は約13.4。日本は約1.10)。
〇4月15日、彼女自身と政府閣僚、そして公共サービスの最高経営責任者たちが、今後6ヶ月にわたって給与の20%削減を受け入れたことを発表した。
〇4月20日、新型コロナウイルスの市中感染を封じ込めるという「ほとんどの国ができなかったことを達成した」と宣言。28日からロックダウン(都市封鎖)を段階的に緩和すると発表した。
同国のロックダウン措置には、制限内容に応じたレベル分けがある。最も厳格なのは「警戒レベル4」(「不可欠な移動」以外は自宅待機など)で、これを「レベル3」に引き下げるという。
「レベル3」では、学校は「受け入れ人数を制限」して再開される。事業も再開できるが、「顧客との物理的な接触」は認められない。
また、10人までの集会は、結婚式や葬儀、タンギハンガ(マオリ族の葬儀)に限り許可される。
個人の移動も引き続き制限され、仕事や学校、食料品や必需品の購入、運動のための外出以外は自宅待機となる。通勤などで公共交通機関を利用する場合、他人と2メートル離れなければならない。
〇4月22日時点での感染者は1451人、死者は14人。
■アーダーン首相の成功の秘訣
〇素早い情報収集と状況分析により、迅速に意思決定する。それでも独断にならないのは、「強く、お互いに優しく」というスローガンを自ら実践してみせているからだろう。
〇感染症の「根絶」という最も高いハードルを自らにも国民にも最初に課し、強いリーダーシップでそれをやってのける。おそらくそれは、恐怖を煽らずに国民の危機意識を高め、結束を促すための政治手法だったのだろう。
〇「国民の安全と健康が第一、経済は二の次」この優先順位を、断固とした信念で絶対に曲げない。国民の命を守るためなら、国の主要な収入源を犠牲にすることを厭わず、同時に必要なお金を出し渋らない。検査もケチらない。それこそが国家の非常事態であることを認識している証し。
〇事態を決して過小評価しないが、厳しいことを言うときこそ笑顔で。
〇「最初にきんちゃく袋の紐をきつく締め、その後徐々に緩める」という防疫の基本セオリーを遵守する。「早期に手を打つほど、早期に収束する」という道理を理解している。
〇「言行一致」自ら国民に発した言葉は、自らの態度と行動と政策で実践してみせる。それは、国民と「痛み」を分け合うのだ、という強い意志を具体的な政策で示すことに他ならない。
〇適材適所による人の登用がうまい。「餅は餅屋」で、自分の領分と専門家の領分を使い分ける。
〇国民とのコミュニケーションを決して怠らず、「結束して共に歩む」という姿勢を見せ続ける。
〇科学的知見にもとづいて政策決定するも、コミュニケーションの際には共感を大切にする。
〇ざっくばらん、ありのまま、すべて明け透け。公人としても私人としても、「私」という人間を裏表なく見せ続ける。
※アーダーン首相に対する国内評
「他国が段階的に手を打つ中、ニュージーランドの対応はその真逆だった。首相はそれを毅然とした態度でやってのけた」
「アーダーン首相はリーダーとして、コミュニケーション能力が実に見事で、共感力も優れている。それに、彼女の発言は理にかなっていた。そのため、政府の指示に対する市民の順守率は高かった」
「彼女は優しいだけでなく、きっぱりと決断する。おかげで私たちは、何をしてよくて、何がだめなのか、はっきり分かる」
「アーダーン氏や政府が明確に市民の健康を最優先してきたことが、COVID-19対応の鍵だった」
「ブルームフィールド氏が、感染者数の増加について今後の展望を明確に伝えていたので、アーダーン首相がロックダウン開始を宣言した時、市民はその理由を理解していた」
「ブルームフィールド氏は発生当初から、COVID-19をめぐる多くの複雑な健康問題を慎重かつ冷静に伝え、政府決定の地固めをしてきた」
※アーダーン首相に対する海外メディア評
「ニュージーランド政府が市民に示してきた共感力や明確で分かりやすい説明、そしてあくまでも科学を重視し信頼するというその姿勢は、模範的な政府対応だった」
「一貫して、はっきりと分かりやすいシンプルな言葉を使い、常に落ち着いて信頼感を保ちつつ、フレンドリーな伝え方をしてきた」