あなたは大丈夫。
3月ぶりにライブのチケットを購入した。その間も申し込みや購入はしたが、結局延期や中止で無効になった。だが今回はちゃんと有効となったチケットだ。
「ACIDMAN『灰色の街』リリース記念 プレミアムワンマンライブ "THE STREAM"」。3月11日のライブ生配信の最後に発表されたリリースツアーが、コロナの影響で無観客生配信ライブに変更になった。
思えばここ数年、ACIDMANはライブの終わりには告知があった。SAITAMA ROCK FESTIVAL "SAI"の終わりにはLIVE TOUR "Λ"が、"Λ"の終わりにはLIVE TOUR "ANTHOLOGY 2"が、"ANTHOLOGY 2"の終わりにはLIVE TOUR "創、再現"が、LIVE in FUKUSHIMA 2020生配信では灰色の街リリースツアーが発表された。
SNSでは何か発表があるたびに「寿命が延長された」とネタとして言っているが、生きる希望を繋いでくれていることに間違いはない。ツアーが発表されれば、どこへ行こう、どうやって行こう、どこへ泊まろう、何を食べよう。ライブはもちろんだが、ACIDMANをきっかけに繋がった縁のおかげで、それ以外の楽しみも増えた。
ところが2020年、状況は一変した。そして回復の兆しは見えない。
客観的に見れば、週に1回もしくは数週間に1回の楽しみが無くなっただけかもしれない。ただ先延ばしになっているだけかもしれない。すぐに日常生活に影響があるわけでもない。そう思っていた。しかし、着実に、確実に自分の世界から色彩が失われていくのを実感している。
そのうちまたあの日常が戻って来る。それまで少しの我慢と思っていたが、ライブが発表されては延期、中止になっていく。そんな日々が続けば続く程、自分の心は疲弊していった。日々変わる嘘か本当かもわからない情報、不安を煽るだけのニュース、顕著に表れる周囲の価値観や倫理観。何が正しくて、何が悪いのか。
ACIDMANの"THE STREAM"に関しても、リリースツアーからライブ内容を「変更」という形でアナウンスされていたが、正直ライブ中止に伴う代替案と自分の中では思っていた。結局、生の体験に敵うものはない。だからLIVE in FUKUSHIMAの生配信以降、配信ライブは一度も見ていなかった。見ても生でライブを見たいという思いが募るばかりだ。
それでも配信ならではのライブにしたいという言葉を受け、チケットを購入した。LIVE in FUKUSHIMAは突発の生配信ライブだったのでなんの準備もしていなかったが、今回はいつもライブに参戦するような格好に着替えて、パソコン前で待機した。SNSもいつものライブと同じように振る舞ってみた。そして配信が始まった。
灰色の街のMVのあと、映し出された画面にはMV(アーティスト写真)と同じ衣装の3人がいた。そして、始まった1曲目は「world symphony」。上から目線を承知で敢えて言うが「ああ、それだ」と思った。ここぞというときの1曲。しかも、MVと同じ映像付き。一気に引き込まれた。続く「ストロマトライト」「to live」。身体が熱くなっているのを感じた。
「生のライブが1番良いのはわかっているけど、それでも」と綴られた言葉に、アーティスト側も同じ思いなのだと、どこか安心した。以前、生のライブが配信にとって代わり、それでみんな満足してしまうのではという記事を見かけたことがあるが、個人的にはそうは思わなかった。良いライブであればあるほど、生でそれを感じたいという思いが強くなる。
でも今の状況はそれを許してくれない。そんな中でACIDMANは持ちうる武器を最大限に活用して、配信でどこまで出来るのかを提示してくれた。映像を流し、画面に歌詞を映し、メンバーの配置を転換し、様々なカメラアングルでライブを描き出した。ライブ中止の代替案。そんな考えはどこかへ消え失せてしまった。
久しぶりに聴いた「廻る、巡る、その核へ」はライブの時と同じように、固唾を飲んで見ていた。というより飲み込まれた。初めて聴いたときは正直そんなに刺さる曲ではなかった。でもライブで初めて聴いたときに一気に引き込まれた。あの音像に飲み込まれてしまう感覚がたまらなく好きだ。
そして最後は「Your Song」。さいたまスーパーアリーナのワンマン公演やSAIで演奏した時はスクリーンに映されたのはファンの姿だったが、今回写されたのはライブの写真だった。何度も一緒に素晴らしい夜を築き上げてきた、そんなメッセージのように感じて胸が熱くなった。
先の見えない不安な毎日、飲み込まれてしまいそうな心に、画面に映し出された「あなたは大丈夫」がどんなに心強かっただろうか。そしてエンドロールで発表されたLIVE TOUR "This is instrumental"。
残念ながら地方公演は中止になってしまったが、それでも今のところ東京では開催予定。もちろん難しい情勢であることに変わりはないが、それでも「僕らの日常を取り戻したい」という言葉は頼もしかった。
まだまだどうなるか先は見えない状況。ここ数か月だけで、何度心は疲弊し、折れて、無感情のまま日々を過ごしたかはわからない。この先もそれは続くかもしれない。それでもきっとこの言葉が支えてくれると思う。
あなたは大丈夫。
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