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anthem

anthemというイベントのタイトルを初めて聞いた時、最初微かな違和感があった。anthemと呼べるような楽曲が果たして自分たちの世代にあるだろうかと思ったからだ。
 背伸びして通ったライブハウスやクラブで、音楽をよく知っている年長者が言っていた、あの年のあのアルバム。奇跡のようなあのライブ。そこで奏でられるanthem。そんな音楽に憧れていた。
 今、自分たちの世代が熱狂し、一つになり、社会を揺さぶる巨大な波を巻き起こすようなanthemが一体どこで鳴っているというのだろう?
 手に持っているスマホの中では、アーティストが、リリースされる作品が、ジャンルの名前が週単位で増え続け、過去のトレンドが高速回転を繰り返している。すべてのジャッジが等しく細分化された世界で「今何がイケてるのか」「何が流行っているのか」分かる人がいるだろうか?
 もはやあらゆる音は出尽くしたのだろうか。新しいコードの可能性は探求され終え、全てのレアグルーヴは既に誰かにディグされたのだろうか。

 もしそうだとしても、あらゆるミュージシャンが楽器を売っ払ってF Xを始めないのには、きっとそれなりの意味がある。このnoteに書かれたそれぞれの文章を読みながら、そんな事を思った。
 一人一人が、ジャンル分けに悩み、酒の海を漂い、どか食い気絶を繰り返しながら、それでも叩き、弾き、叫ぶのは、きっとどこかで信じているからだ。この時代のanthemの誕生を。
 
 私は微かな希望とともに、遥か未来のライブハウスで2023年5月20日の下北沢S P R E A Dで行われたイベントがこんな風に語られる光景を夢想する。「あの伝説のライブ知らんの?」と。

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