離島医療会議セッション2「離島医療の現場から」
本レポートは、2022年7月2日に開催した『離島医療会議』セッション2のダイジェストレポートです。
▼『離島医療会議』開催済み
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セッション2「離島医療の現場から」
長年離島医療に携わってきた医師とともに、時代が変わっても失いたくない離島医療の心とは何かを考えます。
セッション1に引き続き株式会社風と土と 代表取締役の阿部 裕志氏に同席もいただきながら、インタビュアーに島根県 健康福祉部 地域医療対策監 医師の木村 清志氏、登壇者に海士診療所 所長の榊原 均氏をお迎えしました。
◆島根県隠岐郡海士町とは
海士町は一島一村の小さな島です。隠岐諸島に位置しており、日本海の島根半島沖合約60kmに浮かぶ諸島の一つです。高速船かフェリーで約2〜3時間、冬は季節風の影響で船が欠航することもあります。
1963年大山隠岐国立公園指定
1985年「天川の水」日本の名水百選指定
1997年海域公演指定(環境省)
2009年日本で最も美しい村連合加盟
2013年隠岐:世界ジオパークに認定
人口約2,300人、1,300世帯、高齢化率は39.9%です。
◆隠岐管内の医療機関と搬送
本土への救急搬送は主にドクターヘリまたは防災ヘリを使います。搬送時間は約20分です。海士診療所は島で唯一の医療機関であり、これまであった3診療所が合併してできたものです。内科・小児科・精神科・眼科・整形外科を有し、2022年7月の時点で医師は2名(その他非常勤3名)、看護師は10名、臨床検査技師が1名、理学療法士1名、作業療法士が2名、言語聴覚士が1名、事務が7名、その他4名で構成されます。
外来患者は1日平均83名、時間外患者は月平均19名、救急搬送ヘリコプターは年7件、救急搬送定期船および民間船舶は22件です。
◆榊原先生の履歴書
「小児科医でしたが、海士町に来てからは現在の総合診療医のような状態でした」と語った榊原先生。「当時は総合診療科はありませんでした」。
父親が医師として海士町で老若男女の診療をする姿を見ていたといいます。両親が高齢になり、診療所の次の医師がいなかったこともあり海士町へ戻られました。しかし海士町では機器もマンパワーも足りず、全てを自身で実施する必要があり、それを解決するためには機器の購入が必要でした。
検査機器を少しずつ増やし、検査技師も採用。自身も島民であり、患者さんも島民であり、患者さんの家族も島民です。患者さんが亡くなっても、家族が残ります。「患者さんを家族の一員のように考えている」と榊原先生。
「離島の医師として救急診療の質問をいただくことが多いですが、日常の診療に苦労があると考えています」。
質疑応答
質疑応答の内容を一部、ご紹介します。
出産は先生が手がけるのですか?
「出産と婦人科については(先生が)診断をつけますが、処置はしません。産婆さんは昔2人いましたが、現在はいません」
ドクターヘリなどの判断基準が難しいのでは?体験談があればぜひお聞かせください。
「緊急搬送の基準があるため、それに従っています。CTがなかった時代の体験談ですが、脳出血と思い患者に付き添いもしたが、実際には脳梗塞でした。CTを入れてから判断が楽になりました」
榊原先生はどのような医師なら一緒に働いてもいいと思いますか?
「フットワークの軽い医師はいいですね。重い病気であろうと軽い病気であろうと『一緒に診察をしよう、治療をしよう』と動ける医師とは、働きやすいです」
人間関係のお悩みはありましたか?また、予防策や善後策のアドバイスはありますか。
「苦労がないとは言いません。医療従事者も患者も、お互いに気をつけながらコミュニケーションをとっているようなところはあります。それはお互いに島が狭い社会であることがわかっているからだと思います」
「また、患者というよりも家族のような感覚で、線引きがあまりありません。仕事とプライベートの時間も明確に線引きしていません。例えば歩いている時に偶然患者さんに会って、相談のような話になることもあります、経過観察に関する話など。自分が行った行為の答えがすぐに出ますし、公私の切れ目がないようなところもあります」
患者との距離感について気をつけていることはありますか?
「距離感について意識はしていません。患者の皆様が昔と異なっている点は、医療情報をネットで調べたうえで、それらに対しての質問を持ってくる人が増えました。環境が良くなり、医療従事者ではない方も来院前に色々と調べていらっしゃり、質問をいただくのです」
「自分たちも日々勉強し、年齢にかかわらず私も、医師たちも学び続けなけれいけないと考えています」
離島の、ネット環境は整っていますか?
「海士町は、整っていますよ。オンラインでも交流ができますが、実際に会場でで学会に参加することも必要です。しかしそのためには、前後で離島での診療を休んでしまうことになります。
学会は、勉強と、人と関わりを持つ機会です。オンラインで様々なことが成立するようになりましたが、医師の働き方を見直していく意図でも、学会参加のために診療を休んでも問題がないよう、医師のための環境も整えていかないといけないと考えています」