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臨床医が知っておくべき『医療経営・管理学』専門職大学院って何?

医師も年齢を重ねるにつれ、仕事とプライベートの両方でさまざまな変化が訪れるものです。しかしふと、「このままでいいのだろうか?」と漠然とした不安を感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

飯塚病院 大森先生は、自身のキャリアを見直すきっかけに医師をやりながら大学院へ進学されました。今回は大森先生が大学院で学んだこと、そこで得た気づき、それらの学びが臨床の現場でいかに活きているかをお話下さいました。

【講師】大森 崇史先生
山口大学医学部卒業後、2014年より飯塚病院 連携医療・緩和ケア科/心不全ケア科に在職。2022年 九州大学大学院 医学系学府 医療経営・管理学専攻修了。

総合診療系後期研修医お悩みあるある

総合診療系後期研修医になると、このような悩みを感じたことはありませんか?

・総合内科やりたいけど、専門がないと不安…
・学位がないと不安、研究やってみたいな…
・教育やマネジメントに興味はあるけれど…
・渡米してもっと専門性を磨こうかな…

周りの同期もそれぞれ別のキャリアを歩み始めるタイミングで、自分は医師として今後どうキャリアを構築するべきか?悩んでしまうかもしれません。

実は冒頭に挙げた4つのあるあるは、大森先生が実際に過去経験した悩みだそうです。悩みの背景にあったのは、「本当にこのままでいいのだろうか?」という漠然とした不安でした。

「自分がどうありたいか」を考え抜くことがキャリア形成の第一歩

それから医師5年目の時に「考え行動することで答えが見つかるかもしれない!」と思い立ち、九州大学大学院のオープンキャンパスに行きます。

しかしそこで発生した新たな悩みが、専門用語が並べられた科目一覧に目を通しても、何を学びたいのか?という問いの答えが見出せなかったこと。結局のところ、

・自分がどうありたいか
・自分がどう社会に貢献したいか
・自分のやりたいことは何か
・自分の得意なことは何か
・これから必要とされることは何か

これらが明確に定まってないままメニューに目を通しても、漠然としたモヤモヤを解消するキッカケにはならないと気づいたそうです。

それから大森先生は、一旦大学院進学を保留にし日常生活に戻ります。
そして数年後に再び、オープンキャンパスへ足を運び、九州大学大学院 医学系学府 医療経営・管理学を専攻する決断をしたのです。

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医療機関の経営や組織マネジメントを学ぶMHA

大森先生が専攻した医療経営・管理学では、医療経営管理学修士(MHA)という学位を取得できます。MHAはMaster of Health Administrationの略で、病院等の医療機関の経営や組織マネジメントを中心としたいわば医療版MBAです。医療のさまざまな問題を解決し、よりよい医療を構築するため、データサイエンスに基づく医療の可視化、科学的なアプローチによる問題解決の手法を学びます。

なお、医師に関わる学位はMHAと合わせて大きく4つあります。

1. 医学博士
医師の学位における王道。基礎研究が主で、自分の所属する医局の研究テーマを題材にすることが多い。
2. MPH(Master of Public Health)
公衆衛生大学院で取得できる修士号。疫学や公衆衛生をテーマとした2~3年の研究。
3. MBA(Master of Business Administration)
経営学修士号または経営管理修士号。ビジネスの分野だが、実は医師との親和性も高い学位。
4. MHA((Master of Health Administration)
医療経営・管理学修士号。病院等の医療機関の経営や組織マネジメントを学ぶ医療版MBA。

日本ではMHAを取得できるのは九州大学のみですが、海外に目を向けると多くの大学院で取得可能です。

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医療経営・管理学のおすすめ講座ベスト3

医療経営・管理学の講義では、おもに以下の学問を学びます。

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疫学…論文を読むために必要な知識のおさらい
医療統計学…臨床を経験してから勉強をすると、また異なった視点で見れる
医療政策学…日本だけでなく米国やフランス、ドイツ等の外国の医療事例も
医療管理学…ロジスティックスや人材マネジメント等
病院会計学…簿記の病院版
社会保険労務論…労務の法律や制度
医療分析学…レセプトデータやDPCの解析

いざ臨床をやっていると、大学時代にみっちり学んだ事もいつの間にか忘れがちになることがあります。大学院に通うことで、改めて真っ新な気持ちで学べるので、臨床に戻った後もきっと良い効果が得られるでしょう。

以下、大森先生が特におすすめする3つの講座概要をご紹介します。

・おすすめ講座①「医療分析学」
診療と費用対効果などを分析する学問です。
具体的には、DPCデータ(※1)や介護レセプトデータを統計ソフトR(※2)を用いて解析するプログラミングの講義です。なぜこれをしなければならないか、また分析をすることでどういう効果を得られるのか、講師の実例を元に解説していきます。医療分析することで、自分たちが日々行っている臨床がどう反映されているのかがわかります。

動画では、実際の緩和ケア病棟をモデルに「入院患者の予後予測モデルは有用なのか?」の検証を行っていますので、是非ご覧になって下さいね。
>>動画はこちら

※1 DPCとは、Diagnosis Procedure Combination;診断群分類のこと。多くの急性期病院の医療費支払いはDPCのデータに基づき行われ、このデータを用いた統計解析が行われている。
※2 Rとは、統計解析、データ分析、グラフィック分野を得意とするプログラミング言語のこと。

おすすめ講座②「医療安全管理論」
世界標準の品質管理や機能評価、安全管理を学ぶ学問です。ヒューマンエラーがなぜ起きるか、そして起こった際の対処法などを学べます。

例えば1999年米国が行った調査よると、”防げる医療傷害を原因として年間約44,000人~98,000人の方が亡くなっていた”という事実が発覚したそうです。そこで「抜本的な新薬を作るよりも、システム改革を促した方が多くの人は生きられるのではないか」ということに医師らが気づき始めたのです。

それ以降、迅速対応チームの形成・投薬手順と確認方法の標準化などを行い、医療現場のシステム改革にメスを入れたのです。以上は一例ですが、医療安全管理論ではこうした過去のさまざまな事例を元に、医療の安全管理について学ぶことができます。

おすすめ講座③「医療財政学」
医療と財政をかけ合わせながら、今後の医療の在り方について考える学問です。日本の医療費は、令和2年度時点で42兆円台と言われています。今後高齢化が進み国内総生産(GDP)は減少しつづける中で、日本の医療費はどうあるべきかなど、多角的な視点で考えます。

動画では、医療費と介護費の関係を例にお話をされているので、是非ご覧になって下さいね。>>動画はこちら

今後歩むべきキャリアの方向性が見えてきた

最後に、大森先生が大学院に行って良かったことを3つ挙げています。

・医療費や政治に関する見識が広がる
・セミや同期・先輩とのつながり、有益情報のシェアができる
・学割がきく(小声)

何よりもの成果物は、記事冒頭にあるような漠然とした悩みが消え、今後具体的に取り組むべき課題や理想のキャリアが見えてきたことです。医師歴も長くなると、臨床現場ではマネジメントを任せられる立場になりますが、大学院では自分だけのために全力で学問を学ぶことが出来ます。「教える立場になって、改めて教わることのありがたさに気付けた」と大森先生は仰られてましたが、今回の話で大学院について気になる!という方は、是非本記事を参考にしてみて下さい。

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◆補足その1:日本の専門職大学院について

以下は、厚生労働省が定める日本の専門職大学院です。

【国立】
・東京大学大学院
・立教大学大学院
・九州大学大学院
【私立】
・帝京大学大学院
・聖路加国際大学大学院

勤務をしながらでも通うことができるそうなので、気になる方は是非調べてみて下さいね。

>>文部科学省 専門職大学院

◆補足その2:教育訓練給付金について

大学院にいざ通うとなると、心配なのが学費をどう捻出するかということ。
厚生労働省では、働く人の主体的かつ中長期的なキャリア形成を支援するため、教育訓練給付金という制度を設けています。働く人の雇用の安定と再就職の促進を促す雇用保険の給付制度です。一定の条件を満たせば、2年間で上限80万円の給付金が支給されます。こちらも気になる方は、是非調べてみて下さいね。>>厚生労働省 教育訓練給付金 

【Antaa Channel】
本記事は、2021年8月18日にAntaa Channelで配信された動画「臨床医が知っておくべき『医療経営・管理学』専門職大学院って何?」をまとめたものです。Antaa Channelでは、現役医師が教える”明日から医療の現場に役立つ解説動画”を配信しており、22年4月時点で300本以上の動画を視聴することができます。 >>登録はこちら