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緊張の夏、コロナの夏、マスク怪談四話 第三話「肉付きのマスク」

今年の夏は梅雨から猛暑、酷暑、しかもコロナ禍で妙な暑さでしたね><

確かに感染者は増えましたが、インフルエンザと実は大差なく、死亡率も0.2%しかも亡くなるのは80歳以上の人がほとんど。なのに相変わらずアオリマクリ。

一番恐ろしいのは、疫病より、無知無能な人間かも。。。そんな恐怖の現代の怪談を、オムニバスでお届けします。。。

* * * * * * *

ケイ子は先年卒業したばかりの、OLだった。あれ、OLとは死語なのだろうか。キャリア狙わない、女子事務員である。そして、コロナが来た。当然、マスクし続ける日々。

はじめこそ、メンドイ、息苦しい、ウザイと想った。でも、一月もせず、化粧の手を抜けて便利、と思い出した。そう、彼女の職場は、中の下か下、な感じの無名な会社、ぱっとする若い男など居ない。メイク頑張る意味が無いのだ。むしろ色気見せてセクハラされては迷惑なのだ。

まあ、案外マスクもイイし、とするとコロナも悪くないわね、となんとなくそんなコロナな日常に染まった、ケイ子であった。

エム男はありたきりの40がらみの、中年男だった。そろそろ腹がメタボでヤバイと想いながらも、独身でもあり、仕事帰りのビールとラーメンがやめられなかった。エム男も結婚願望はあるが、しがない中小企業にカワイイ子など居ないのだ。合コンやらオフ会のチャンスも、歳を喰うごとに無くなった。世の中、恋愛なんて若さの勢いか金か、どちらかなのだ。そして、エム男には、もうどちらも無いのだ。オワコンである。

そんなエム男にはコンプレックスがそもそもあった。タラコ唇なのだ。若い時から、ぼてっとしたタラコ唇、しかも残念なことに頭が良い、キレるわけではないので、口から出る言葉がダメダメ。これでおもろいギャグとか、妙に教養チックなウンチクでも連発したら、ギャップが魅力に変わるところだが、そういう事実は無かった。

だから、コロナでマスク警察とか出てきて、面倒ウザイと当初こそ思ったが、そのうち、まあいっかー、程度に想うようになったのだった。

そんなこんなで、コロナも寄せては返す波のように引いては押しの繰り返し。いい加減政府も緊急事態宣言だまん防だと騒ぐ気力も萎えたらしく、ただマスクだけが蔓延し続ける世の中。マスク専門店まで登場し、カラフルな、柄入りマスクまで登場しもはやファッションアイテム。もうノーマスク、ノーライフ状態。

もはやケイコはもったいないからとファンデーションは鼻から上だけ、口紅などとうにつけるのをやめた。どうせマスクを外すことなど無いのだ。ランチはパーティションにこもって黙食だし、呑み会も無い。
 エム男もまた然り。ひげなどほとんど剃らず無精ひげ。どうせ見えないのだ。むしろマスクが張り付かなくて都合よいくらいだ。

しかし、世の中何もかもうまくなど、いくはずがない。そう、マスクを外さなければならないときが、それでも、あるのだ。

ケイコは「マイナポイント20000ポイント!」にそそられて、マイナンバーカードをもらうことにした。取り敢えずポイントだ。使うかどうかは後の話だ。ということで、役所に行った。もちろん、マスクの下は笑顔ですというかいつも通りだ。

 役所で簡単な書類を記入して、そしてイマドキ、コロナ対策で一人ずつ順番にブースに呼ばれて。係員が簡単な確認、そして。
「では、ご本人確認のため、一瞬マスクを外して頂けますか」
 思わず、え゛っ、と言ってしまったケイコ。だって、ファンデ上半分だけなのだ。流石に見せたくない、見せられない。
「えと、あの、その、、、」
「お願いします」
「ええと、、、ほんとに一瞬でイイですよね」
 仕方なくマスクを外そうとするケイコ。ところが。。。なぜか、外れないのだ!! 妙に顔にへばりついて離れないマスク! 耳ひもも引っ張っても伸びもせず、外れない。焦りだすケイコ。
「どうなさいました? 一瞬お顔見せて頂ければいいんですよ」
「いや、それが、本当に。。。」
 取れないのだ。マスクが。仕方なく鼻の脇から指を入れて引きはがそうとすると、、、生皮はがされるかのような激痛が!!
「ひいいいい!!!」
 ポロポロ涙が出るケイコ。
「あ、なんか大変そうなので、もういいですよ。。。」
 不審そうな顔ながら係員が言った。
「すみません、なぜか、取ろうとすると物凄く痛くて。。。」
 ポロポロ涙するケイコ。
 ともあれ、係員の職権というやつでマイナンバーカードは発行された。

そして意味も分からず半べそ書きながら帰宅したケイコ。
 思わず床にぺたんと座り込んでしまい、また泣いてしまった。
「なんでなのよ。。。」
 そして、シャワーを浴びようと、無意識にマスクを取ると、、、
「あれ、、、取れた。。。」
 そして、泣き崩れた。

前後して。エム男は免許の更新に試験場に来ていた。小市民なので、なんとなく警察署は好まないのだ。
 あれして、これして、行列して、ゾロゾロと順路を回る。なんとなく異質なこの体験、エム男はなぜか嫌いではないのだった。そして、写真撮影に来た。
「ではマスクを外してください」係員。
 エム男はマスクを外そうと耳ゴムに手をかけたが、、、なぜか、取れない。まったく伸びない。反対側も同じだ。
「あれ? おかしい、取れない」
「どうされましたか?」
 焦りだすエム男。不審な表情に変化する職員。
「マスクを取って頂かないと、撮影できませんが?」
 内心、何か顔を出せない事情つまり替え玉なりすましとか何か不正を疑いだす係員。何しろ警察職員なのだ。
「次の方もお待ちなのですが」
 要するに早くしろ。しかし、マスクが取れない!
 エム男は冷や汗を流し始めた。なんだか涙まで出てきた。
「マスクが、、、取れないんです。。。」
 仕方なく、頬の脇に指を入れてはがそうとしてみた。すると! 生皮はがすかというような激痛が走った!
「ひいいいい!」
 ポロポロ涙を流すエム男。
「一体、どうしたんですか!? 大丈夫ですか!?」
 逆に心配になり、思わず係員がわざわざエム男のところまで来た。
「ほんとうは、あまり適切ではないのですが、、、ちょっと失礼しますよ」
 係員が耳ゴムに手をかけると、、、はらり、とあっさりとマスクは外れた。
「え゛っ、、、」
 唖然とするエム男。手を消毒して席に戻る係員。
「撮りますよ、よろしいですか?」
「は、はい」
 慌てて涙を拭いて構えるエム男。無精ひげだが、仕方ない。
 すぐに撮影は終わり、マスクをして、エム男は撮影室を出た。

試験場の建物を出ると、青空が広がっていた。
 思わずエム男は、天を見上げて号泣した。
 驚いて、あるいは不審げに見ながら通り過ぎる人たち。
 エム男は泣きながら駅に向かった。

実はその頃、日本全国で、同じような現象が発生していた。
 なぜか、マスクが取れなくなるのだ。ところが、後で、あるいは他人が手をかけると、何事もないかのように外れる。
 自称専門家の医師と名乗る者の中には「これは新しい新型コロナ関連の精神症状です」などと新説いや珍説を述べる者も現れたが、もちろんメジャーになることはなかった。
 怪奇じみて報道などされることは無かったが、SNSなどネットではそれとなく拡散した。そして「肉付きの面」の伝説にちなみ「肉付きのマスク」といつか囁かれるようになった。

それから。ケイコは心を入れ直し、マスクをいつ外しても良いように、簡単だがきちんとメイクするようになった。エム男も、ひげをきちんと剃るようになった。二人の職場での評価も今までより上がった。それがなぜかは、ちょっと不明である。

注、新型コロナ後遺症、Long Covid と呼ばれる症状は、リエゾン精神医学的観点からみると、全て精神症状として説明がつきます。もっとも、全てが精神症状だと言いきれるわけでは必ずしもないのですが。ちなみに、脱毛は物理的症状ですが、無意識に自分で毛を抜く「抜毛症」という精神症状が存在します。。。

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