鏡の中のサルビア丸。
パン。パパン。パパパパパ!
銃声が聞こえる。だんだん激しくなる。そして、爆音が遠くから響いてきた。
ドーン。ドドーン!
だんだん近づいてくるようだ。少年は走った。逃げなければ。激しい雨が降ってきた。気が付くと、目の前に海があった。
目の前に大きな船が居た。船首には「サルビア丸。」とある。
「どうして? ここは、どこだ?」
すると、少年の後ろから、枯れた、しかし海鳴りのような声がした。
「港だよ。君は、戦いから、逃げてきたのだろう?」
「だって、まだ死にたくないから」
「そうだな。誰でも、死にたくは、ないものだ」
霧の中から現れた初老の男は、船長帽をかぶっていた。そして言った。
「君の見た戦いは、まだ遠い、南の大きな島の戦いだ。だから、君が今、あるいはじきに死ぬことは、無い。だが、、、戦いとは、いつ何時訪れるかは、誰も分からないものだ」
霧が晴れ、巨船の喫水線のこちら側の岸壁は、鏡のようだった。さきほどまでの大雨で濡れて輝いていたのだ。そして船長は少年に尋ねた。
「この船に、乗るか? ただし。一度乗ったら、元の場所には帰れない。ひたすら進むだけの船だが、君が見る戦いから、ひとまず離れることはできるだろう、それで良いなら」
「どうして帰れないの?」
「この船は、君の生きている世界とは、別の世界の船だ。この足元の鏡が映し出している事象に過ぎない。そして、じきに消える。往かねばならぬからだ」
雲が去る。日は再び輝き、足元の水面から湯気が立ち上り始めた。
「決めたまえ、乗るか、乗らぬかを」
少年はふと、佇んだ。還れない、戻れない、それは、何を意味するのだろう。
。。。そして、再び空は青く澄み渡り日が輝き、巨船も消えた。
To be, or not to be!?
Bon voyage!
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