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ハゲタカファンドの「How to ゴルフ場M&A」Part Ⅱ

行き詰ったゴルフ場経営....法的整理への道

つまるところゴルフ場は「債務超過」に陥ってしまったわけです。返す義務のあるお金が返せないのですから、倒産するしかありません。

「倒産」というと、会社の何もかもが消し飛んで、後にはガランとしてさびれた事務所や店だけが残され…というイメージがありますが(←昭和的?)、実は倒産にもいろいろあります。

もともと収益力のあるゴルフ場の場合、せっかくのゴルフ場を潰して原野に戻し、クラブハウスを廃墟にすることは合理的ではありません。
ゴルフ事業の収支が安定黒字であり、ただ負債の返済だけが経営を圧迫して立ち行かなくなっている場合は、借金さえ減らして負担を軽減してあげれば、事業そのものは健全に継続でき、従業員の雇用も守れ、税金も納付して地域に貢献できるのです。
もし債権者が貸した金はあきらめることにOKしてくれるなら、事業を継続させてあげましょう、という法律があります。「会社更生法」「民事再生法」です。(他にもありますが、当時僕たちが関わってきたのはこの二つがほとんどです)
更生、再生、という言葉の通り、倒産ではあるけれど会社を潰してしまうのでなくやり直しをさせてやろうというのが法の趣旨です。他の法律による場合も含め、法律に沿って公的に倒産・再生をさせることを「法的整理」などと呼んでいます。

倒産したゴルフ場を買い取る「スポンサー」

法的整理において更生・再生させる手続きでは、「スポンサー」と呼ばれる事業の引き受け手を選定します。これは裁判所から管財人に任命された弁護士の仕事です。
スポンサーは資金を出してゴルフ場の事業を買い取ります。この資金を債権額に応じて債権者に分配して負債をチャラにするのです。

弁護士は、スポンサーになってくれそうな数社に声がけし、期日を決めて入札を行い、スポンサーを決めます。買取り金額ももちろんですが、会員のプレー権の保証をするかどうか(もともとはゴルフ場でメンバーとしてプレーするために入会したわけですから)、従業員の雇用をどうするか、といった今後の経営方針を計画案として提出し、管財人が最も適当と判断した者を任命するのです。

そして債権者は債権者集会で話し合って、管財人を通じて出されたスポンサーの計画案の可否を採決するのです。

先ほど「債権者がOKするなら」事業継続できる、と書きました。
預託金を返してほしいのにそれがかなわない会員は怒り心頭ですが、すでにゴルフ場にお金はないのですから、全額を取り返すことは無理です。どういう条件で折り合いをつけるか、しか選択肢はありません。
倒産は仕方ないとして少しでも多く預託金を回収したいところです。並大抵の計画案では納得できません。
それに、「ハゲタカファンド」のガイジンたちがボロ儲けするための道具にされるのは面白くありません。

しかし結局は、悪くすると1%、運が良くてもせいぜい5%程度の配当で外資ファンドの計画案は可決されてしまいます。2000万円もの預託金が、たったの20万に減額されてしまうのです。会員にとっては、とても納得のいくはずのない条件です。

こんなひどい計画案は否決することだってできるはずです。
それなのに、なんでそんな計画案が承認されてしまうのでしょうか??

計画案可決に向けて

ハゲタカファンドは、自らスポンサーになる計画案の可決が圧倒的に有利になる布石を打っています。

計画案の可否は債権者集会で決議することはお話ししましたが、議決の決定は「債権額」と「人数」それぞれの過半数です。この両方を満たせば可決、そうでなければほぼ否決されます。

つまり、ゴルフ場へ債権のうち半分以上を持てば、決定権のうち半分を獲得できます。

ゴルフ場の債権者は、預託金を返してもらえるはずの会員だけではありません。レストランに売掛金を持つ食材納入業者とかカートのリース会社とかいろいろいます。

その中でも、最大の債権者は「銀行」です。
ゴルフ場の建設資金とか、運転資金など預託金以上の多額のお金を貸しています。

銀行、その罪

銀行は、貸付先であるゴルフ場の経営状態をよく理解しています。かつてたっぷり貸したはいいが、回収するのはもう無理であり、このゴルフ場は「破綻懸念先」「実質破綻先」と法的整理に入るより先に知っているのです。

倒産して法的整理をする以外ないのはわかっているけれど、銀行としては、自分の貸付先が倒産するのは困るのです。

貸付の審査、与信管理、早期に貸付金を引き上げなかった理由など、銀行内部で責任追及され責任者は左遷されます。
倒産に伴って貸し倒れになる額も大きいですから、金融庁やマスコミからさんざんに叩かれ、世間からの信用も失ってしまいます。
当時の銀行はバブル崩壊後の収縮で、公的資金を注入されてほんの数年、まだまだあちこちで火種がくすぶっていました。ここで大口貸付先が倒産されては困るのです。

銀行では、回収不能の損失に充当する「引当金」を準備していますから、収支のダメージにはなんとか耐えられます。銀行が関わっているうちにゴルフ場が倒産さえしなければ、大事には至らないですむのです。
ゴルフ場への貸付金は銀行にとって「時限爆弾」であったのです。

ゴルフ場が倒産する前に、誰かに押し付けてしまって、爆弾をとオサラバできればまずは逃げ切り成功、銀行は安泰、と。
倒産を申し立て、法的整理にかけるのは、自分たち銀行ではなくて債権を買い取った非道な外資ファンドで、倒産は銀行のせいではないのですよ、という体面をとりつくろいたかったのです。

そこで、ゴルフ場に債権があるが買い取りませんか?と銀行から僕たちファンドに打診があります。(「債権譲渡」と言います)

僕たちは、ゴルフ場の価格評価をするために資産や事業内容を徹底して詳細に調べます。
会員数は?預託金額は?他の借入金は?土地は所有しているのか、賃借なのか、営業許認可は?来場者数や客単価は?過去の収支は?実績部署ごとの従業員数は?給与は?コースはどんなコース?支配人はどんな人?労使トラブルは?集客方法は?機械類や設備機器は?…確認事項はゆうに300項目を超えます。
徹底した精査(デューディリジェンスと呼ばれます)を行って、今後の経営プランを策定し、収支予測を行い、追加設備投資を見積もり、ファンドの期待利回りをあてはめてゴルフ場の適正価格を算出し、社内の会議で承認を得て提示します。

銀行と価格が折り合えば、ファンドが債権を取得します。
取得金額は貸付金の額面より大幅に低い金額になります。わざと低くするわけではないのですが、収益力を基準に回収予測額を算出すると、どうしても今までに銀行が貸し込んだ金額よりはるかに低い金額になってしまうのです。
いろんなケースがあるので一概には言えませんが、例えば100億円に対してせいぜい1億円とか5億円とか、そんな感じです。

僕たちに言わせれば、この程度の収益力のゴルフ場にこんなに貸す方がおかしい!こんな借金返せるわけがないじゃないか!と思うような事案がたくさんありました。
まあ、今さらそんなことを言ってもどうにもなりません。バブル期とはそういう時代でしたし、僕らファンドもそういう放漫貸付のおかげで商売になるのも事実です…
PartⅢに続く)

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