
オフロ・オフィーリア
ぬるい風が心地よくて、3時4時の、日がどこか見えなくなって、それでも空が白く明るいような時間まで、今日は、窓を開け放していた。
お風呂屋さんへ行った。
家から歩いて10分ほどの、ご近所でも、いつも行かない方、それも特に用のない、住宅ばかりある中にそれはある。
17時過ぎの、やや影のある明るさの下で、捩じれたサテンの紐が顔に触れるような、そんな感触の中を、温かい光の建物に向かって歩いた。
冷たい石の玄関をはだしでつかむ感触が気持ちよくても、のれんの手前は熱気がこもってじゅわっとする。
少し古くて、ほの暗く点滅する「大人」と書かれたボタンを押す。ぺっと紙切れが落ちてくる。
靴箱の鍵とロッカーの鍵を交換する。
臙脂ののれんをくぐる。
知らないばあさんが、サックスブルーの薄いパンツで腰かけている。
それよりも一回りほど若そうな女の人が、着替えながらデイケアの紹介をしている。
知らない人同士の場で、裸を、それもかなりまずい裸を、さらせるというのは、ものすごく特異な空間だなと、ここへ来るたび思う。
私は日々、自分の体を眺めては、自信がない。
でも大浴場に入れば、私は、生活の中、奪われた自信を取り戻すことができる。
自分よりまずい体がわんさといる。
むしろ、水をはじく、若い体に満足する。少しの脂肪も、さめ肌も、ここでは消えてしまう。
今日の風呂は、分かりやすい、檜の匂いじゃない。木の皮の匂いでも、知らない、渋い、ストイックな匂いだ。リラックスしない。
すぐに熱くなった。頬からも汗がにじんできた。もう上がりたい。
シャワーの前の椅子に座って、固まる。休憩だ。
隣には、痩せた、若い女の人がいる。
私は周りを気にするから、桶に湯を張って髪や体の泡を落とすけれど、隣で体を流すこの人は、シャワーをMAXで開いて、体に激しく湯を叩きつけている。
私は、そのほとばしる湯を、腕や顔に受けている。
激しいな
女の湯浴みは激しい。
私は日々、自分のおこないを顧み、品が悪かった、と深く反省することがあるけれど、
下には下がいる。
冷たい、二枚の曇りガラスに挟まれた間を出ると、さらに冷たい表へ出る。
夏はさほど寒くない、ただし柑橘も浮いてない、夏の、夕暮れ間近の白い空の、格子の天井で明るさだけ差し込んだ、大きな石の床の上に、露天風呂がつがいで置いてある。
ずぽっと肩まで浸かる。苦しくなってくる。母に、心臓まで浸かると苦しいよと言われ、へりに腰かける。
見渡すと、白い人型がまばらにいて、湯に浸かったり椅子に腰を下ろしたりしている。
その和の外に、ひときわ衝撃的に、白い体がある。プリザーブドなのか、どっちか、わからないが、小さな青いもみじの葉と簀の壁面の前に、それはある。
私は横目でしばらく見入ってしまう。
それは俄かに湯に浸かる。
霞につつまれた、人型の和の中に戻る。
私はそろそろ頭痛がしてきた。さっさと流してここを出よう。
お風呂屋さんは、思ってるより良いもんじゃないが、ばかにできない風情があるね