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彼は雑草だ。
生まれつきシャイな性格のため友達はいない。まったくいなかったわけではないのだが、そう、長続きしないのだ。外的な要因によることもあるのだが、彼自身、その性格ゆえ、どのように人付き合いをしていいのかがわかっていない。人と交わるのが苦手なのだ。たぶん、今で言う"コミュ障"ってやつなのかもしれない。そんなだから、自然とボッチになることが多かった。


だから、小さい頃から、誰にも相談せず(正確には『出来ず』なのだが)、すべて自分で決めて生きてきた。

裕福な生まれでもなく、学歴も低かったが、ただ、彼は意識が高かった。意識だけはと言ってもいいかもしれない。
生まれのせいか、はたまたその性格故からかは定かではないのだが、とにかくがんばって成功するそれだけに焦点を向けてやってきた。そのために勉強もした、資格も取った。

その甲斐あって、彼は彼なりに花を咲かせることができた。立派な花ではないものの、一応、周りと比べれば充分見栄えのするものだった。

しかし、彼は勘違いをしてしまう。
「花を咲かせることが出来たんだから、この花を菊や桜に変えられるかもしれない」とそれまでの仕事を辞めてしまった。

彼は所詮、生まれも育ちも雑草だ。菊や桜になれる訳なかった。
今から思えば、どう考えても『驕り』としか言いようがないのだが、彼は自分の分をわきまえず菊や桜になろうとしたのだ。
今、彼は己の愚かさを思い知らされている。
彼も年老いてきた。還暦目前で新たに職を探すのは艱難を極める。もう何十社になるだろうか。

自分一人ならまだしも、彼には30年来連れ添ってきた妻がいる。彼の可能性を信じてこれまで文句も言わず、付いてきてくれた。子供もまだ学生なのだ。

子供の頃、貧しくて、自分の妻や子供にだけはこんな思いをさせたくないと思って頑張ってきたのに・・・。

高望みはしません、雑草らしく生きていきますから、どうか妻子だけでも安心して生きていくことが出来るようお力添え下さい
m(_ _)m

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