バイオベンチャー研究者は何を思い研究をする
こんにちはANRIの榊原です。今回も引き続き研究者のキャリアについて書かせていただきます。最近、JREC-INなど眺めてみて、スタートアップの求人を見ることは珍しくなくなったかと思います。またスタートアップについての情報も大手メディア、SNSなど種類を問わず情報は流れてきていると思います。その一方で、情報は事業のことや経営陣のコメントなどが多く、研究者の手触り感のあるコメントや情報は触れにくいのが現状と感じています。
そこで今回14名のバイオベンチャー研究者の方々にアンケートに答えていただき、どのようにバイオベンチャーに入り、今何を思い働いているのかに迫らせていただきました。母数が多くないことは承知の上、少しでもバイオベンチャー研究者のことが見えれば幸いです。(ご協力いただいた皆様本当にありがとうございました。)
※回答者:男女7名ずつ、26~59歳までの未上場バイオベンチャーにお勤めの研究者、13名が正社員1名がパートタイム。ご所属の企業は5社以上にばらついており、特定の企業の特徴を反映したものではありません。
バックグラウンド・アプローチ方法は多様
アンケートにお答えいただいたバイオベンチャー研究者の前職は大手製薬、バイオベンチャー、アカデミアまで多様(図1)。休暇明けの方がいらっしゃらなかったことが私個人としては残念でしたが、研究者の流動性が色々な経路で起こっていることは喜ばしいことだと思います。
転職のプロセスを見るとリファラル、転職エージェント経由の方が多くいらっしゃいました(図2)。エージェントの活用はスタートアップ業界においてビジネス職に限らず研究者でも起こっているのですね。
採用サイドとしては競合となる、同時に検討していた職種も多様(図3)。バイオベンチャー1本足打法の方は20%程度で、その他の方は製薬企業やアカデミア研究職などを同時に志望されていたようです。
採用サイドに立つと、必勝法のアプローチはなく、多様な方が採用候補者になることを念頭に置いた採用活動が必要になりそうです。
バイオベンチャーだから満足度が高いとは言えない
次に前職と現職の満足度を0~10の11段階で伺いました。すると平均値は6.9→7.5、中央値は8→8と横ばいになりました。変動を見てみても、満足度上昇が6名、変動なしが3名、減少が5名とほぼイーブンです。自戒をこめてですが「バイオベンチャーに入れば、個人の裁量も大きく、フラットに楽しく研究できる」などという安易なメッセージングは控えなければならないと思いました。
研究者の方には必要以上に「バイオベンチャー」というラベルは張らず、一つのバイオ企業として向き合っていただき、自分に合いそうか、前向きに研究できそうかをフラットに見ていただきたいと思います。
リファラルだからと安心しないで
リファラル採用は、規模の小さい企業において非常に有効な採用手段の一つであると思います。友人との人間同士の信頼関係があり、企業・採用候補者双方の透明性の高い情報も入手しやすいため、マッチングエラーの確率を低くできると考えられるからです。
しかし意外なことに、今回のアンケートではリファラル採用で入社された方が他の経路で入社された方と比べ、より満足に働けているとは言えませんでした(リファラルで入社された5名のうち、前職より満足度があがった方1名、維持2名、下がった方2名)。他の経路で特別満足度が高いものがあったわけではなく、リファラルを否定するものでは全くありませんが、リファラルなら双方満足な採用になると決め打ちしないようにしなければならないと感じました。
給与のインパクトは意外と小さい?研究環境は是非直接確認を
現職の魅力を伺ってみると過半数の方が「挑戦的な研究テーマ」「経営陣との近さ」と回答(図4)。「研究開発における包括的な関与」「裁量の大きさ」といった項目については少し控えめな結果になりました。
一方不満について伺ってみると、福利厚生がトップ(図5)。「同僚の研究者」「研究テーマ」についての不満が一切出なかったというのは、非常に興味深い点です。以前製薬企業研究者へのアンケートで、バイオベンチャーの懸念点としてトップに挙げられた給与について、前職からの変化を伺ってみると30%が増加、50%がおおむね維持、20%が減少という結果になりました。給与に関しては、想像するよりも厳しくないというのが現状かもしれません。
満足度の点数と、魅力・満足の関係性を見てみると、興味深かったのは前職からの満足度を2以上下げている方のすべて(3/3)が現状「研究施設・環境」に不満を持っているという点です。仕事の効率化、外部環境の影響もありますが、採用フローのどこかで現地に赴き、研究現場を見ておくことは双方にとって重要なのかもしれません。
「能動性・積極性とチームワークの両立」「柔軟性と粘り強さの両立」が重要?
最後に自由記述でバイオベンチャーの研究者に向いている人、向いてない人を伺いました。チェリーピックをしないよう、すべて原文のまま記載のうえ、私なりに整理してみると「能動性・積極性とチームワークの両立」「柔軟性と粘り強さの両立」という一見相反する性質の両立が必要と感じました。
私の整理が不適切であること、整理することで貴重な現場の声がゆがむことがあると思いますので、是非以下の生の声を一読いただければ幸いです。
以上、バイオベンチャー研究者の声が少しでも届けばと思い、書かせていただきました。このように書いておいてあれですが、バイオベンチャーと言っても様々な企業様がおり、それぞれ文化・考え方は異なります。不必要にバイアスはかけず、研究者の方が気になる企業があれば、まずは気軽にドアノックをしてほしいと願う次第です。研究者の皆様が楽しく研究できますように。