大学発スタートアップ創出をバブルで終わらせない
こんにちはANRI榊原和洋です。スタートアップ界隈の人間であれば勿論、アカデミアの研究者の皆さんも最近、大学発スタートアップを創出する動きが盛り上がっていることを認識されているのではないでしょうか。
予算ベースでみても1,000億円の予算がつき、2027年度までに大学からのスタートアップ事業支援件数を5,000件にするという主要KPIが設定されています。また、各地にスタートアップ・エコシステム共創プラットフォームが9つ設置され、地方においては「地方創生=スタートアップ創出」くらいの熱量を感じております。国は完全に本気です。
この流れを単なるバブルととらえるのではなく、政府からの思いのバトンととらえ継続的な発展につなげるために、なんとしてでも「成功したプロジェクト」にしなければならないと勝手に思っております。
本noteでは、より良いエコシステム形成のため、様々な立場のプレーヤーがこんな風に動けたらいいのではないかということを書かせていただきます。私自身もできることを考え、行動することを大前提に、「みんなでエコシステムを作ろう」と青臭いことを言いたくなった次第です。
研究者の皆様、科研費とは違った挑戦をワクワクしながらやりましょう!
皆さんの研究が(応用性問わず)私は大好きです。そのうえで、起業に向けた助成金は、科研費の代替として使われるのではなく、(リスク・難易度は高くても)大きな産業になりうるものに使われるべきだと思っております。基礎科学寄りの先生であっても「ひょっとしてこんな応用で社会にこんなインパクトを与えられるのでは?」と思えるようなテーマがあれば是非お声がけください。どんな助成金でも求められがちな「応用可能性」に「書くだけ書いておく」よりも高い熱量のものが是非チャレンジいただきたいですし、気軽にご相談いただきたいです。
ラボの学生には渡しにくいテーマでも、これら助成金と外部(e.g. CRO)の研究者と連携することで、アカデミアではできなかった研究ができます。ご一緒している案件でも、以下のようにラボの本流の研究とはちょっと外れながらも、先生方が楽しみつつ産業的にも価値のあるチャレンジができていると感じている例があります。
研究者の皆様の創造性が考えてもいなかった事業・産業の創出を可能にすると信じております。そんな技術が大好きなVCの人間も沢山いますので、是非お声がけください。
VCの皆様、批評家ではなくプレーヤーとしての参画をしましょう!
皆さまいつもお世話になっております。様々な活動をされている方々から日々勉強です。自戒をこめてですが、批評家然とすることはとても簡単で、実際に0→1を行うことはとても大変だと思います。是非、大学の先生と二人三脚になって技術を磨き、事業化に向かう計画を立てていきたいです。VCが身に着けた知識経験で「ここがなってない!」と言うのではなく、スクラッチで共に作り、落とし穴にはまらない様に知識経験を活かし、ポジティブなエネルギーと共に皆で前進したいです。
日々の業務でお忙しいと思いますが、私のように経験が浅いものからすると、共に創る過程で自分が力不足な部分が嫌になるほど見え、キャピタリストとしての能力開発にはうってつけだと思います。様々な強みを持つキャピタリストが参戦することで、多様でユニークな起業前プロジェクトが生まれ、のちには魅力的なスタートアップになると思います。皆でそのような世界を作れたら最高です。
リソースが大きな論点になると思います。そこは様々な仕組み(e.g. EIR、マッチングイベント)でカバーできるといいですよね。ANRIも頑張ります!
ディープテックスタートアップに興味のある経営者候補の皆様、今多くのオポチュニティがあります!
インターネット領域では多くの成功事例ができ、優秀な方々が多くスタートアップにチャレンジされていると感じています。同時に起業家(候補の方含め)と話していると、ディープテックのとっつきにくさがあると感じております。ただお伝えしたいのは、「今がチャンスです!一緒にチャレンジしましょう!」ということです。
エコシステムが成熟していないからこそ、「魅力的なシーズ技術>経営人材」というアンバランスな状況になっています。また、それを支援する助成金も前述の通り多く用意されております。今チャレンジを始めていれば、10年後エコシステムができてきたころには「経験者」としてさらなる挑戦もできます。なのでチャレンジするなら今!なのです。
サイエンスのキャッチアップ大変そう。とお思いになるかもしれませんが、絶対にできます。先生と対等に細かく話す必要はなく、「つまりどういうことなのか」が分かれば十分です。また、いわゆる文系出身の方でディープテックスタートアップを経営されている方もたくさんいらっしゃいます。例をあげますとModernaに買収されたオリシロジェノミクスの創業社長の平崎さんは元は新聞記者であられました。弊社の投資先でもCraif, Dioseve, オプティアムバイオテクノロジーズなどいわゆる文系のCEOがご自身の特徴を生かされ大活躍されてます。
ディープテックスタートアップの面白さであれば、いくらでも話しますのでご連絡ください。また、様々なVCが技術シーズと経営人材をつなぐための取り組みをされてますので(偉い)、是非ご確認ください。
プラットフォームの皆様、採択課題支援体制の拡充もお願いします!
様々な形で関わらせていただき、ありがとうございます。その度に各地のプラットフォームの熱を感じております。その中で、3点思うところがございます。
1点目は支援数のKPI達成のために採択のバーを下げないでいただきたいという点です。私も先生と共に応募する側ですので、「採択してほしい」という思いは常にあるのですが、(研究としては面白くても)スタートアップになりえないテーマや起業までのロードマップが見えないテーマはNo goとした方が最終的にいいプロジェクトのアウトプットになると思います。予算の配分という意味では、良い活動をしているプロジェクトに増額申請を可能にする仕組みも良いかもしれません。
2点目は、支援体制の拡充をしていただきたいということです。これはVCが担う事業化推進機関がすべてを担えれば解決することでもあり、努力しなければならないのですが、支援オプションがあると大変助かります。具体例を申しますと、研究開発のロードマップを引くための専門人材や士業の先生方への接続です。VCも俯瞰的な目で抽象度の高いロードマップは引けるのですが、手を動かし具体的なTo doに落とす際には、より専門性が必要になると感じます(勿論我々が頑張らなくてはならない点でもあります)。現状、ご支援しているプロジェクトについては、ANRIが懇意にしている専門家のアドバイスを仰ぎながら進めていますが、プラットフォームが抱えている専門人材に気軽にアクセスができ、採択者であればかなり自由に(金銭的な負担も少なく)活用できるようになると、GAPファンド期の活動の質が高まると感じております。繰り返しになりますが、事業化推進機関のリソースひっ迫が案件数増加のボトルネックになる現象も解消できるかもしれません。
3点目は先生に研究でエネルギーを使ってもらえる仕組みにしていただきたいということです。勿論研究者が100%エフォートをスタートアップに割いてスピンアウトする事例もウェルカムですが、起業後はアドバイザーとして関わるケースが多いと思います。ですから、先生にアントレプレナー教育をするよりも、適切な支援人材をつなぎこむことにリソースをさいていただけると大変嬉しいです。先生には先生にしかできない研究の部分で大いに活躍してもらいましょう!
カジュアルな意見交換いつでもウェルカムなのでご連絡ください。(お気遣いいただき、ご足労いただく必要はありませんので、カジュアルにWeb会議させてください)
政府の皆様、何かあれば巻き込んでください、そして基礎科学もよろしくお願いいたします!
エクイティマネーの供給が米国と比べて1,2個桁が違ってしまう現在において、助成金によるスタートアップ支援は非常にありがたく、もはや必須のものとなっております。それに甘えてばかりではいけないと思いつつ、良いスタートアップを創るために協同させていただきたいと思っております。意見交換等必要であれば積極的にさせていただきたいと考えておりますので、ご連絡いただけますと幸いです。
また、事業化とは一見遠いようなのですが、基礎研究の支援もどうぞよろしくお願いいたします。スタートアップへの注目を起点に応用研究への予算が積みあがっている中で、基礎研究を心配する声を大学の先生からしばしばいただきます。博士課程時代お世話になっていたRNA学会でも、口頭発表や賞を受賞する研究室が固定化傾向にあったり、地方大の先生が予算の問題で学会参加を断念していたりという光景があります。
応用研究やそれを基にした事業化もしっかりとした基礎研究があってからこそだと思います。また、歴史を紐解いても業界を変革するような事業と基礎研究での発見は密接にかかわっているとも思います。基礎研究で素晴らしい成果が出続けることによって持続可能な形で、新しいスタートアップ創出が起こるエコシステムが出来上がることを願っております。