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客員起業家(EIR)とは?日本発ディープテック創業を支える次世代の挑戦者に迫る

はじめまして、ANRIの江上由美です。今年10月からANRIに参画しました。日本のディープテック創業を盛り上げる施策の企画から実施までを担うベンチャーパートナーとして活動しています。

ANRIではこれまでも、プレシード・シード期の投資を軸に、ディープテック領域の創業を後押しするため、研究シーズの事業化検討や支援に注力してきました。そして2024年10月10日から、その取り組みをさらに加速させるべく、客員起業家(EIR:Entrepreneur in Residence)プログラム「Aurora」の公募をスタートしました。

「EIR」という言葉、少し聞き慣れないかもしれませんが、実はディープテック領域ではすでに欠かせない存在です。アメリカでは一般的な仕組みとして定着し、日本でも近年徐々に広がりを見せています。今回の記事では、EIRの役割や活動内容をできる限りわかりやすくご紹介します。


EIRとは?

まずは経済産業省の定義を引用します。

EIR(Entrepreneurs In Residence:客員起業家)制度とは、海外のVC(ベンチャー キャピタル)を中心に活用が進む、スタートアップ創出の新たな手法です。
・起業を目指す人材が、VC・事業会社等に一定期間所属し、所属組織のネットワークを 活用しながら起業を目指します。
・海外では起業経験者が採用される事例が多いとされていますが、①創業前からキャピタリスト等と事業設計の相談ができる、②EIR活動期間中は起業準備に専念できる、といった観点から、これから起業を目指す個人にとっても、有益な起業の形とも考えられます。

経産省 客員起業家(EIR)制度の活用に関するガイダンス 

EIRとして採用された起業家候補は、通常6カ月から1年の期間で企業やVCに所属しながら、ビジネスアイデアの探索や事業化の可能性を検証します。次項からは、特にディープテック領域のEIRにフォーカスし、具体的な活動内容をご紹介します。

EIR活動の流れ

EIRとして起業を目指す方は、6カ月から1年程度の期間限定契約で企業やVCに所属し、起業準備を行います(※契約期間は組織によって異なります)。活動は以下の3フェーズに分かれ、それぞれを通じて選んだシーズ(事業化の種)の可能性を検証していきます。

1. シーズ探索
2. シーズの絞り込み(ロングリスト作成)
3. 事業化検証・準備(ショートリスト化)

1. シーズ探索(ロングリスト作成)

活動初期の数カ月間で、大学などの研究シーズを中心に幅広く情報収集を行い、将来的に大きなビジネスを生み出せる可能性がある技術やアイデアをストックします。

情報収集の方法は個々人で異なりますが、以下のような手段が一般的なようです:

  • デスクトップリサーチ:書籍やYouTube、JSTさきがけなどの主要なグラント採択課題から有望なシーズをリストアップ。さらに気になるテーマについては論文を読み込んで深掘りします。

  • 足を使った情報収集:研究者に直接会い、事業化の可能性について議論を重ねます。

ちなみに、この段階では特定の事業領域(例:脱炭素、ライフサイエンス)に絞り込む必要はなく、幅広い可能性を探ることが重要です。

2. シーズの絞り込み(ショートリスト化)

最初の数か月をかけて幅広く技術を理解した後は、一定のシーズ絞り込みクライテリアを設定した上で、ショートリスト化をすすめるべく、候補を厳選していきます。評価基準はそれぞれの起業家が独自に決めるものですが、多くの場合には以下のような要素が含まれると思います:

  • 研究の成熟度や事業化の確度

  • 事業化した場合の経済的インパクト

  • 起業家自身の関心や研究者との相性

また、シーズを絞り込んでいく際に、シーズそのものの良しあしと並んで、EIRの方自身の関心領域がどこにあるか、というのも重要な観点です。ディープテック領域の創業では研究開発にかけるウェイトが重くなることから、事業が軌道にのるまでのタイムスパンが必然的に長くなる傾向にあります。そのことから、起業家の方はこの先少なくとも10年程度、起業家自身のエネルギーを当該事業に費やすことになります。そのこともあり、自身が本当に興味を持てる事業領域であることも、シーズの良しあしと同程度に重要な要素だと思っています。

3. 事業化検証・準備

最終的に2〜3件程度に絞り込んだシーズについて、今度はもう一歩深く事業性を検討したり、資金調達の方法を検討し、動いていきます。このフェーズでは、以下のような活動が行われます:

  • 想定顧客へのインタビューを通じたビジネス化の蓋然性の検証

  • 助成金(例:GAPファンド)申請書の作成やプレゼン準備

EIR期間の終盤では、事業化に向けた助成金(例:GAPファンドなど)の獲得を目指し、研究者と協力して申請書の作成やプレゼンテーションの準備を進める必要があります(ここが結構大変です…)。ただし、助成金の獲得に成功すれば、研究開発や事業開発をよりスムーズに進められるようになります。EIR期間を通じて、こうした助成金の採択を目指し、数年間の事業化検証に必要な資金を確保できるとその先の動きがとりやすくなります。

※ただし、仮に助成金の獲得が叶わなかった場合でも、並行して投資を引き受けてくれるVCを探すなどすることで、事業を進められる可能性は十分にあります。

ちなみに、ANRIに2024年4月から参画している亀田さんは2024年10月にD-Globalの大型助成金を獲得されました(おめでとうございます!)

2024年度 D-Global採択課題一覧

亀田さん採択時のnote記事

EIRになり、ディープテック創業で成功するのはどういう人?

ディープテック領域での起業を目指すEIR、と聞くと、いわゆる「理系」、それも最低修士は出ている必要があるのでは、と考えられる方も多いと思います。が、これについては意外と(!)そうでもありません。(私自身もかつては勝手にそう思い込んでいました、、、、)

ディープテック領域で成功している起業家の中には、いわゆる「文系キャリア」「ビジネスサイドのキャリア人材」から起業した起業家も多くいます。自身が当該分野での修士・博士号を持っていなくとも、研究に対する興味関心を持ち、ビジネスサイドの豊富な経験を持つ起業家であれば、研究者とうまくタッグを組み、研究者側では思いつかない発想と行動力で、ビジネスを成長させられるケースはよく目の当たりにします。

日本より数歩(数十歩?)進んでEIRのエコシステムが成熟している米国では、研究シーズと、事業開発人材である「プロCEO」をVCが率先してマッチさせ、成功させている事例も豊富にあります。日本は米国ほどシステム化されているわけではありませんが、それでも特にこの数年で成功事例がいくつも出てきています。

創業したい!それも、世界に大きなインパクトを与える、大きな規模の挑戦をしてみたい!という意志があり、そのための勉強を厭わず、全力を注げる起業家であれば、自身のこれまでの専門分野はあまり関係ないと言ってよいように思います。

ビジネスサイドからディープテック領域の起業をした起業家の例

参考に、実際に現在EIRとして活躍されている方、EIR期間を経てディープテック創業に挑戦されている起業家の方をご紹介します!

オプティアム・バイオテクノロジーズ株式会社 西岡駿さん

オプティアム・バイオテクノロジーズ株式会社 西岡駿さん × ANRI宮﨑 インタビュー記事

京都iCAP(京大VC)所属EIR 中小司和弘さん

元 京都iCAP(京大VC)EIR ライノフラックス株式会社 間澤敦さん
https://rhinoflux.com/

ANRI 客員起業家(EIR)亀田孝裕さん

EIR亀田さん × ANRI榊原 インタビュー記事

これらの動画や記事を見ていただくと、EIRとしての起業過程がどのように進むかが垣間見られると思います。

ちなみに、このお二人の起業家には12月16日(月)19:00~弊社で開催予定のEIRパネルディスカッションイベントにも弊社EIR亀田さんと一緒にご登壇いただく予定ですので、もしご興味がある方は是非ご参加ください!
リアルにお話を聞ける貴重な機会です。

各社のEIRの募集

ANRI以外でも、国内におけるEIR募集は実は沢山存在します。
以下はその一例です:

大学系VC
東大IPC "Deep Tech Founders"
Kyoto-iCAP "DEEP TECH KYOTO"
みらい創造インベストメンツ EIR(客員起業家): 起業準備コース

独立系VC
Beyond Next Ventures "Peak Trial"
JAFCO "First Leap"
ANRI "Aurora"

各社それぞれ説明会を開催したり、ブログで情報を発信したりしているので、ディープテック領域での創業に興味のある方はぜひチェックしてみてください! (また、関連情報やリンク、掲載希望などあれば、ぜひコメントで教えていただけると嬉しいです!)

おわりに

ANRIでは、日本におけるディープテック創業をさらに促進すべく、EIRという仕組みを世の中に広げていきたいと考えています。日本ではまだまだはじまったばかりで認知度も低いこの仕組みですが、志を共にする他の組織とも積極的に協働しながら広げていきたいと考えています。
12月16日開催予定の3社合同EIRパネルディスカッションセッションなどの取り組みをはじめ、互いに協力しあいながらディープテック創業を増やしていけるよう尽力していきますので、今後も是非応援いただけると嬉しいです!

最後に、ANRIでは現在、EIR Project Auroraを通じて、ディープテック領域での創業を志すEIR候補の方を広く募集しています。
世界を変える革新的な技術で大きな挑戦を目指す方とお会いできるのを楽しみにしています!


【イベント告知:12/16(月) 19:00~20:30】
現役EIR・DeepTech起業家が語る!EIRのスタートアップ創業プロセス

✅ANRI、京都iCAP、みらい創造インベストメンツによる3社合同イベント
✅参加無料
✅オフライン参加(六本木ヒルズ ANRIオフィスにて)
✅EIRで起業したライノフラックス株式会社 間澤 敦代表取締役CEO も登壇!


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