不正・横領は自分に関係のないことじゃないって話
ANRI元島です。一部上場企業で経理をやってました。
言えないあれこれも経験してきましたが、色々な方と話しているとどうやら不正などは自分や自分の会社とは無縁、と思っていらっしゃる方も多いようなので、そうじゃないよ、誰にでも起こり得るよ、ということ、そして体制構築はメンバーや自分を守ることでもあるよ、ということをお伝えできればと思います。
スタートアップと不正
ディープテックスタートアップには苦い経験があります。
調達額とほぼ同等の金額が不正の対象となったエルピクセルの事件です。関係者も知り合いが多くこするようで申し訳なさもあるのですが、最近起業された方々はご存じないということが判明したのであえて書きます。以下のことがわかります。
大型の調達をして体制が整っていると思われるスタートアップでも起こってしまう
投資家が取締役に入っていても簡単にはわからない
国の研究費を受けており、そういった機関の監査も一定入っている状況でも起こる
しっかりした経歴のCFOとか関係ない
考えてみれば当たり前で、上場企業でも大型の不正が定期的に起こるのですから、どんなスタートアップでも起こり得ると認識して、きちんと対応する必要があります。近年ではソニーや楽天、日本マクドナルド、JDIと業種問わず、億単位の不正、横領が起こっています。
今回、この記事を書こうと思ったのも、直近で下記楽天の事件があったからです。めちゃくちゃ典型的な手口なのですが、100億円もやられてから判明しています。
この手の犯罪によくあるパターンが伝わるのが、裁判で公開されたSNSのやり取りで、麻痺している感じがよく伝わってきます。大抵の不正は最初は少額から始めたのに最終的に罪悪感が麻痺してよくわかんないことになって大きな金額になってしまうんですよね。すごい既視感があります。こうならないようにも小さなうちにしっかり対応するのが非常に重要です。
個人的には、経理としてキャリアを始めたので、最初に色々叩き込まれたのですが、意外と知らない人も多いようなので、基本的な考え方をご紹介できればと思います。実際、私も複数の不正を見つけたこともありますし、実はあなたのすぐそばにある実務です。
不正のトライアングル
ではどう防ぐか、という話なのですが、その前に知っておいてほしい話があります。不正のトライアングルというものです。
詳細の説明は引用元をご覧いただければと思いますが、動機と機会と正当化の三点が揃ったときに不正が行われる、という米国の組織犯罪研究者であるドナルド・クレッシー氏により提唱された理論です。
動機、正当化については、不正を行う本人の問題の場合もありますが、機会については概ね企業体制側の問題です。個人のモラルのみの責任にして、企業側の対策をさぼり、機会がある状況を作ってしまうと、せっかく同じ船に乗ってくれた仲間が、魔が差してしまった時に、犯罪者に転げ落ちてしまいます。
ふと魔が差してしまったとしても不正ができないような体制を構築することは、会社を守るためだけでなく、自分たちの仲間あるいは起業家本人を守るために必要であるということを理解してください。個人の気持ちはコントロールしきれませんが、企業の体制はコントロールすることができます。
ちなみに動機や正当化も企業側の体制や文化によって引き起こされる場合もあります。これらを担保することが、メンバーや自分を守ることだと理解して、しっかり対策をしましょう。不正をしてしまえば、ひどい場合では上記のように逮捕からの懲役ですし、そうでなくとも企業人としてはかなり厳しいわけで、人生が全く変わってしまいます。
実際スタートアップでどうするのか
これは結構大変な問題です。上述の通り、上場企業でも起こることだからです。ステージに合わせて、出来る範囲で丁寧に対応していくしかありません。
動機と正当化を減らす
動機は主に待遇です。過剰にする必要はないですが、あまりに過小だとちょっとした不正も含めて起こりやすくなります。カラ出張とか、カラ会食とか、プライベートでのタクシー移動清算とかはブラックなのにガバガバという状況でめちゃくちゃ起こりやすいです。
正当化は会社のモラルと言い換えてもよいです。わかりやすい例としては、代表が上記のような経費計上についてだらしないと伝播してみんなやり出します。
世の中の節税対策として、こういった飲食費や移動費、家賃等を企業の費用として計上していくことを推奨しているブログ等があり、そういうものに感化されているのかもしれませんが、(私が節税スキームみたいなものがそもそも嫌いなのはさておき)他者のお金を預かり、事業のアカウンタビリティを負う企業がやるべきことではないです。上記の通り会社のモラルにも影響するので、チーム含めたステークホルダーが複数人になる事業を志している時点で辞めるべき行為です。
楽天の不正をした夫妻のやり取りにもあった通り、どんどん麻痺していってしまうので、少額だからという許容しないのはとても重要です。いわゆる蟻の一穴というやつで、そこからどんどん広がってしまい止めることは難しいです。人間の意志の力は弱い、という認識が重要です。
機会を減らす
これが肝です。繰り返しますが、不正をやりにくい体制を作ることは会社のためだけでなく、仲間や自分を守るためだ、という認識のもと、ステージに応じて出来る限りの体制を構築しましょう。自分のことも信じない、というのが重要です。私はばれない状況で1億円の現金を持った時に自分がどうするかはそこまで自信はないです。まあ9割方やらないですけど、ほっといたらまず死ぬが1億円で手術したら治る病気になった(動機)、とかあったらわかんないですよね。というわけで自分が、あるいはメンバーが、万が一魔が差しても大丈夫、という体制を作りましょう。
基本的な考え方は以下の通りです。簡単な事例なども記載しますが詳細は企業に合わせて専門家にご相談いただくとよいかと!
1.出納と会計の分離
出金や支払が可能な人と会計の入力や承認をする人をできるだけ分離します。外部税理士等を使う場合でも、税理士のハンドリングをする人と出金や支払が可能な人とを分けると理想的です。出納の不正を会計で検出可能になるからです。
2.承認機能や閲覧権限による牽制
出納の中でも一人だけで出金できない体制を作ります。インターネットバンキングの入力者と承認者を分ける、銀行印と預金通帳を分けて保管する、あるいは通帳をなくす、キャッシュカードをなくす、など。
3.透明性の確保による牽制
例えば自動仕訳を設定した会計ソフトの閲覧権限を社員全員や投資家に渡す、UPSIDERやバクラクカードなどを利用して、Slackにクレジットカード利用の通知が飛んできて何に使ったかが一目瞭然にするなど。人間、見られてる感があると悪いことができなくなるものです。
4.通報可能なルートの設定
誰にもばれずに不正するのは実は結構難しいです。でも、言えない、言いにくい環境であって表に出にくくなっていることも多いです。内部通報窓口の設置までできなくても、各役員が社員としっかり交流して複数ラインを確保する、であったり、あるいは、税理士から投資家に直接相談することを可能とするような契約にするなど投資家を活用することも可能です。
採用でのスクリーニングももちろん大事
と、ここまで企業側でできることを見てきましたが、当然個人のモラルの問題もあるので、採用も大事です。実は、大きい声では言えないですが、大企業などではある程度の不正であれば、返金させて、自主退職させて、なかったことに、ということもあります。なんなら不正の大半はおそらくそう処理されているでしょう。
人間なかなか変わらないもので、そういった方を採用してしまうと、その時はひどく反省してたとしても、体制の悪いスタートアップでは、機会が目の前に転がってきてまたやっちゃうんですよね。こういう場合は基本的に前職の方にリファレンスを取れば大抵ふわっとぼかしつつも教えていただけることが多いですし、逆にやましいことがあるとリファレンス取らせてもらえませんので、大変有効な施策です。堂々と本人に依頼してリファレンスチェックをしましょう。back check(※投資先サービスです)などを利用して、リファレンスを取るのものおすすめです。
※コンプライアンスチェックだけでなく、単純にマッチング強化としてもリファレンスチェックはやった方がいいと思います。
もちろん真に反省して変わっている方もいらっしゃるかもしれませんので一度でも手を染めてしまった人は絶対だめだ、とは言いませんが、知らないで採用するのはよくないよね、という主旨です。
あとがきと予告
というわけで、不正への対応について、不正のトライアングルを中心に見てきました。キャリア的にあまりにもベースになってしまっており、経理などに縁がないとなかなか知らないらしいということを知らなかったので、遅くなってすまん、という気持ちです。
今回は不正のトライアングルのみを取り上げて対策もばくっとしたもので考え方中心の記事でしたが、CIRCLEでの専門家を招いての勉強会等も予定しておりますので、そちらが終わりましたら、勉強会のエッセンスとステージに応じた現実的な推奨される体制などについてもご紹介出来たらな、と思っています。
何度も繰り返しになりますが、不正をやりにくい体制を作ることは会社のためだけでなく、仲間や自分を守るためだ、というのを心において体制構築をしましょう。人は弱い生き物なので、環境を整えるのは重要ですし、雇用者の責任でもあると思います。
※もちろん実際に不正を行った方が免責されるという意味ではないです。
事業上の問題でない、知っていれば対策可能な部分で有望な企業が躓いてしまうのは、とても悲しいことなので、こういう企業一般に関する発信もかみ砕いた形で行っていければと思います。
が、当然ながら私も真の専門家ではないですし、ステージに応じた対策というものもありますので、あくまで参考で、ちゃんと対策したいな、となればまずは顧問税理士や弁護士などにもちゃんと相談してください!
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