欧州のDeeptech×Femtech事例
こんにちは。今回の記事は生殖領域やゲノム領域で研究されている田中柚希さん(X: @yukit_bio)に執筆していただきました。
Femtechという言葉を耳にする機会も増えていますが、DeeptechよりのFemtech(以降、DeepFemtech)のは、あまり馴染みのない方も多いかもしれません。
今年の9月には、US(Scottsdale)で”Women's Health Industry”が大々的に開催されるなどFemtech領域は盛り上がりを見せています。参加者一覧からも、DeepFemtech領域で活躍する起業家や、同領域に関心を持つVCの数が、日本に比べて圧倒的に多いことが感じられました。
そこで今回のNoteではDeepFemtech領域について、具体的な事例を交えながら簡単に考察していきたいと思います。
盛り上がりを見せるiPS細胞由来の卵子作成
まずは、DeepFemtechの中でも特に注目を集めている、iPS細胞由来の卵子を作成するベンチャー企業について比較していきたいと思います。(敬称略)
日本は伝統的に生殖医療の分野で強みを持っていることもあり、斉藤通紀先生、林克彦先生、浜崎伸彦先生といったこの領域のトップランナーである研究者を中心に、ベンチャー企業が立ち上がっています。一方で、アメリカは現時点で4社がこの領域で活動しており、数の多さを感じます。またUSベンチャーにおけるサイエンスバックグラウンドのfounder経歴をみてみると、必ずしもiPS細胞から配偶子や卵子を作成する研究に直接関わっていたわけではなく、その周辺領域を研究していた場合が多いことも明らかになりました。
たとえば、Vitara LabsのCEO・founderであるInvana Muncie-Vasicは創業4ヶ月前から約2年間、iPS細胞の作成技術を確立した山中伸弥先生をPrinciple Investigatorとして研究を実施しています。このように、自身が長らく研究してきた領域以外で新しくベンチャーとして立ち上げる姿勢にはUSらしさが感られます。
さて、この表の黄色いマーカーの部分に着目された読者もいるのではないでしょうか?これは、博士号持ち女性founderを示しています。4社中2社において、博士号持ち女性founderがいることが明らかになりました。また、GametoのCEO・founderであるDina Radenkovicは医者であり、科学技術に理解のある女性が活躍しています。
博士号持ち女性の活躍
そこで次に、DeepFemtech領域において博士号持ち女性がCXO・founderにいる企業をまとめてみました。(敬称略)
日本において、DeepFemtechの企業数は多いですが、博士号持ち女性CXO・founderが少ないのが現状です。(※過去には博士号を持つ女性CXO・founderがいたベンチャーもありましたが、今回の集計は2024年9月30日時点でのものです。) 特にadynのCEO・fouderであるElizabeth Ruzzoは、自身が低量用ピルを他の薬と併用した際に、うつ状態を経験したことをきっかけに、科学的なバックグラウンドを活かし、薬剤最適化を事業として会社を立ち上げました。博士号を持つ女性は、原体験からアンメット・メディカルニーズに気付きやすく、その解決策を科学的知識を活用して提案できるため、有利な立場にいると考えられます。表1と合わせてみると、女性起業家・founderが多い状況に加えて、博士号持ち女性founderが欧州では特に多い傾向がみられるようです。
終わりに
欧州と日本では保険制度や医療機関へのアクセスなどが異なるため、一概に比較して結論を出すことは難しいですが、やはり欧州においてDeepFemtechが盛り上がっている印象があります。これには様々な要因が考えられますが、欧州の事例を見ると、当事者である女性が自分自身の健康課題をきっかけに研究や起業をしているケースが多く見られます。科学技術に深い理解を持つ博士起業家を増やすことは、Femtechのさらなる発展に繋がる可能性が高いと考えられます。また、欧州にはFemtechに特化したVCや博士号を持つキャピタリストが多く存在しており、スタートアップエコシステムとして科学技術への理解が深い人材が多いのも特徴的です。 博士人材の不足が課題とされている日本においても、DeepFemtech領域で博士人材が活躍し、本質的な解決に繋がるイノベーションが普及していく未来が楽しみです。