命の誕生に立ち会う瞬間。意外な言葉。
産科のある病院の手術室では帝王切開があります。
数ある手術の中で、唯一「おめでとうございます」と言える手術です。
帝王切開には、事前の検査などから経膣分娩が困難な場合の予定帝王切開や、経膣分娩の途中何らかの異常が見られた場合に行う緊急帝王切開の二つがあります。
これからお話をさせていただくのは、経膣分娩で進行していたものの、胎児の心拍が下がり、緊急帝王切開になった妊婦さんのお話です。
その妊婦さんは30代前半で、今回の妊娠が初めてであり、事前検査や経過も問題なく、出産はご主人立ち会いを希望されていました。
陣痛がきて入院となったのですが、初産ということもあり、なかなか進まない状況が続いていました。
母体には問題はなかったのですが、赤ちゃんは疲れてきてしまったのか心拍が下がってきてしまい、胎児の命の危険があったため、緊急帝王切開へと切り替えました。
妊婦さんに先生から説明をし、同意が得られたため、準備が終わると入室してきました。
麻酔を導入し、手術が始まると、元気な産声をあげてあっという間に赤ちゃんが出てきました。
妊婦さんの近くに赤ちゃんを連れて行くと、妊婦さんが赤ちゃんの手を握りながら「ごめんね、ごめんね」と言いました。
私は「よく頑張りましたね。おめでとうございます」と声をかけると、
「私は何も頑張っていません。下から産んであげられなかった・・・こんな形で産むことになって、赤ちゃんにも主人にも申し訳ない」
という返事が返ってきました。
私はその言葉を聞いて正直驚きました。
今まで帝王切開により出産されてきた妊婦さんからそのような言葉を聞いたことがなく、赤ちゃんが無事に生まれてきてくれた喜びと安心を口にする方がほとんどだったからです。
なんて声をかけたらいいのか悩みながらも
「出産の形は人それぞれです。それに、帝王切開も立派なお産の一つです。確かに、予定していた形とは違ってしまったかもしれません。ですが、赤ちゃんは無事に元気に生まれてきてくれました。どんな形であろうと、こうして無事に生まれてきてくれればそれだけでいいんです。お母さんも赤ちゃんも本当によく頑張ってくださいました。改めておめでとうございます」
そう声をかけると、「そうですね。形にこだわっちゃ駄目ですよね。こうして生まれてきてくれた。それだけでいいんですもんね。ありがとうございます」と泣きながら話してくださいました。
命は奇跡の連続でこの世に生まれてきます。
その方法がどんな方法であろうと、この世に新しい命が誕生したことに違いはありません。
そして、その奇跡に立ち会うことができるのは看護師をやっていて本当によかったと思える瞬間です。