家庭内感染対策チーム始動する
娘がインフルエンザにかかった。
テレビのニュースでは繰り返し、季節外れのインフルエンザの流行を伝えているし、勤務先の保育所でもインフルエンザで休む子供もいた。それでもどこか他人事で、全く油断していた。娘がインフル陽性を発熱外来で告げられてはじめて、すぐ近くまで足音もさせずにウイルスは迫っていたのだと、ようやく気が付いたのだ。
しかも、この年頃の子供がインフルエンザにかかると、突然飛び降りようとしたりする「異常行動」を起こす可能性があるからという。だから2日間は目を離さないようにと医師から説明を受けた。怖すぎるではないか。もし異常な行動を起こしたら私は止められるのだろうか。そうこう考えていると、妙にテンションが高かった娘も、熱が上がっていくにつれて元気がなくなっていった。
10年ほど前、保育園児だった娘がインフルエンザにかかったときのことを思い出す。私も夫もあっさりとうつり一家で隔離生活。一日熱を出しただけですぐに元気になった夫に対して、私へのウイルスの威力はすさまじかった。そのうえ両方の職場へも迷惑をかけたという記憶があるから、再びの一家感染はどうしても避けたい。でも目を離せないから、娘を子供部屋に隔離するわけにはいかない。一緒の部屋に寝かせるのは感染対策上あまりよろしくない。さあ、どうする。
ただ、私はそんなに狼狽えてもいなかった。10年前とは違う。目に見えないウイルスとどう闘えばいいか、私たちはこの4年間で学んだではないか。絶対に家庭内感染を阻止するぞ、えいえいおー!ってな感じで、夫と感染対策チーム始動である。
とりあえず、私たち夫婦が普段寝ている和室の隣のリビングに布団を敷いて、娘を寝かせた。深夜でも何かあればすぐにそばに行ける。学校から帰宅後「なんか調子悪い」と言う娘の体温を計ってまさかの38.5℃という数字を見たときから、二人ともマスクを着けていた。初動はオッケイ。引き続き寝ている間も全員マスク。窓という窓を開け、寒くない程度に換気。サーキュレーターも回す。洗面所、トイレのタオルも娘用を別に用意。闘う準備は整った。あとはまめに手を洗い消毒をするだけだ。
この4年間で、娘一回、私一回、コロナに感染したのだが、二回ともに誰にもうつさなかった。濃厚接触もないドライな家族なのだろうかと複雑な気持ちもあったが、予想外に職場の人たちや実家の家族が褒めてくれた。それで調子に乗って、自分達の感染対策に大いに自信を持ったのだった。
というわけで、今回のインフルエンザである。
チームの仕事は滞りなく進行。でもちょっとでも寒気を感じれば、くしゃみが出れば、そのたびにビクビクした。娘の体温は人生初の40℃まで上がったし、ポカリとスナックパンしか口にできない。なにかと不安なことにはかわりはない。ウイルスはやっぱり怖い。でも、娘の体調のバロメーターである食欲が徐々に回復してきた頃、私達も平熱を確認し家庭内感染ゼロ。我が家の感染対策チームは無事解散となった。
発症から3日経ったころ、もう異常行動の心配はないだろうと思ったのだが、子供部屋で一人寝るのは寂しいようで、娘は引き続きリビングで過ごしていた。それでほぼ一日中、私は娘を観察することとなったのだが、眠れないほどの高熱が下がると、娘は食事の時間以外ほぼ眠っていた。たまに目を覚ましても、またすぐに深い眠りへと引き込まれていく。
これは本能なんだろうなと思った。身体を修復するように昏々と眠る。もちろん薬の力も借りたが、人間が持っている自己治癒力というものを感じずにはいられなかった。ウイルスの猛威もさることながら、身体の力も負けていないなと頼もしく思ったのである。
未知のウイルスがやってくる未来だって想像できる、今である。でもその時も、ただひたすらにできることをするだけだ。そして、人間が持っている身体の力を信じる。家族を守る準備はいつでもできているつもりだ。