与えすぎず見守れば花は咲くと先輩は教えてくれた、ような気がする
年ほど前、10センチ位の木の枝をもらった。
「植木鉢に土を入れて、この枝を差しておけばどんどん大きくなるから」と、当時の職場のお局(死語だろうか)先輩からもらったのだ。
なぜ私が枝を受け取る事になったのか。お局先輩が怖くて断れなかったのか。経緯はよく覚えていないのだが、とにかく、大きな植木から切り取ったと思われる枝を言われるままに育てることにした。
ただ一つ、不安があった。私は昔からよく、植物を枯らしてきたのだ。
結婚の内祝いとして送られてきた観葉植物。簡単に育てられると聞いていたハーブ、夫がクリスマスにプレゼンしてくれたハート型のさぼてん。
生き生きとした姿を一度は見せたその植物たちも、ひとたび私の手にかかれば、悲しい運命をたどることとなった。なぜか、枯れる。家族には何でも枯らす女と認識され、そのうち新しく植物を迎えることもなくなった。
だから、切り取られた小さな枝を、私が成長させられるなんて信じ難かった。でも、ビニール袋に入れられて我が家にやってきたちっぽけな枝は、5年の月日を経て、50センチもの大きさに立派に成長したのである。「どんどん大きくなるから」とお局先輩が言った通り、枝が枝分かれを繰り返し縦に横にとモリモリと、本当にどんどん大きくなったのだ。
枯らさなかった、それだけで私には充分だった。
充分だというのにそれなのに、昨年は何と、蕾をつけるというサプライズ!そして可愛らしいうすピンクの花をいくつか咲かせたのだった。
花が咲くなんて知らなかった。なに、このお得感。
「枝が凍ってしまうから冬は水やりをしないこと」「特に寒い時期はビニール袋で鉢ごと覆って冷気から守ること」そんなお局先輩のアドバイスをちゃんと実行したのが良かったのだろう。
そして今年の冬。
去年は数えるほどだったのに、今度は葉っぱという葉っぱにわんさかと蕾を付けたのである。毎日ビニール袋越しに観察していたら、日に日に蕾はぷっくりと成長していく。
か、か、可愛い・・・!!
そしてついに!いまかいまかと開花を待っていた朝、ポンポンッと2つ、花が咲いているのを発見したのだ!よく頑張ったねと、胸がぎゅっとなってしまった。まるで産まれたての我が子を見つめる母のようである。
聞いた事がある。
植物を育てるのはペットを飼うのに似ていると。
犬みたいにペロペロしてくれないし放ったボールを全速力で拾いにはいかない。でも、愛おしすぎるのだ。
何だこの手をかけた以上のリターン。なんでも枯らす女の元へ来たというのに、元気に成長してこんなにもたくさんの花まで咲かせた、タフなボディが愛おしくて仕方がない。
かつての私が植物を枯らした理由。それは多分、水のやり過ぎだったのではないかと今は思う。ひたすら与えれりゃいいってもんじゃなかった。愛情をはき違えていたのだ。
与えすぎず、生命力を信じて見守る。それが大切なのである。
そんなことを結果的に学ばせてくれたのは、お局先輩なのかもしれないというのは、大げさだろうか。それにしても、花が咲くたびにお局先輩の顔を思い出すのは、正直に言えばちょっと複雑だ。だって、めっちゃ厳しかったもん。いやいや、それも含めて感謝している。
愛しの鉢植えは今日も次々と花開かせて、極寒のベランダは一足先に春が来たようだ。ペットみたいに「この子」とか呼んじゃって家族を引かせる日も近いかもしれない。