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甲状腺腫瘍

甲状腺の腫瘍は、いずれも20歳代から50歳代の女性に多く、しこりがあるだけで、ほかには何も自覚症状がないのが特徴です。甲状腺に発生する腫瘍(結節と呼ばれる)には良性腫瘍(濾胞腺腫、腺腫様甲状腺腫、甲状腺嚢胞、プランマー病)と悪性腫瘍(乳頭癌、濾胞癌、髄様癌、未分化癌、悪性リンパ腫)があります。以下では甲状腺の悪性新生物つまり甲状腺癌(C73)について述べます。甲状腺がんには、大きく次の4つに分類されます。多いのは乳頭癌と濾胞癌です。

・乳頭癌
・濾胞癌
・髄様癌
・未分化癌
・悪性リンパ腫

無症候性の甲状腺結節は癌であることが多いが、甲状腺癌の危険因子としては、小児期の放射線暴露、年齢20歳未満、男性、家族歴、孤発性結節、腫瘍径の増大などが考えられています。

乳頭癌

甲状腺癌の90%を占めます。この癌は、早い時期にはただしこりつまり結節があるだけで進行もきわめてゆっくりです。離れた臓器に転移することもまれです。割合早い時期から甲状腺周囲のリンパ節に転移することが少なくないため、初発症状が頚部リンパ節腫脹のこともあります。放置すると次第に大きくなり、周辺組織(声帯、気管、食道など)に浸潤して嗄声、呼吸障害、嚥下障害などを起こすことになります。術後5年生存率は90%を超えるといわれています。

甲状腺乳頭癌と診断された場合には、そのリスク評価はTNM分類に基づいて行います。T1(腫瘍径2cm以下)N0M0と明らかに低リスクと評価されるものは、葉切除術が行われます。一方、高リスクと評価された乳頭癌に対しては甲状腺全摘術が行われます。高リスクと評価されるのは以下のいずれか1つを認める場合です。

・手術時に存在する遠隔転移 M1
・4cmを超える腫瘍径 T>4cm
・高度の甲状腺外進展(気道および食道粘膜面を超える浸潤)
・3cmを超える転移リンパ節(累々と増大する多発性リンパ節転移)
・リンパ節の節外浸潤(反回神経や内頸静脈への浸潤)

乳頭癌は頸部リンパ節転移の頻度が高いことから、予防的頸部リンパ節郭清術が行われます。

濾胞癌

甲状腺癌の5%を占めます。しこりつまり結節があるだけでほかには異常がない場合がほとんどですが、甲状腺周囲のリンパ節転移よりも肺や骨などへ遠隔転移することがあります。

細胞診で濾胞性腫瘍と診断され、超音波検査で充実性腫瘤で大きさが4cm以上の症例には手術が勧められます。加えて、増大傾向や血中サイログロブリン値が1000ng/mL以上のものも手術適応です。一般に濾胞性腫瘍のうち濾胞癌が占める頻度は10~20%と言われています。

濾胞癌を疑って手術をする場合には、まず葉切除を行い、その組織の病理診断を待ちます。遠隔転移をきたしやすい広汎浸潤型の濾胞癌の場合には、残存する甲状腺組織をすべて切除します。これを甲状腺補完全摘をよびます。甲状腺補完全摘は、放射性ヨードを利用した遠隔転移巣の検索や治療を効果的に行う目的のために実施されます。一方、遠隔転移が既に存在し濾胞癌として手術する場合には、最初から全摘術を行います。

濾胞癌のリンパ節転移は、乳頭癌と比べて低く、転移を疑う場合を除いてリンパ節郭清は実施しないのが一般的です。

濾胞癌の遠隔転移の危険因子は、45歳以上、腫瘍径4cm以上と脈管侵襲と考えられています。

髄様癌

甲状腺癌全体の1~2%ほどを占めます。乳頭癌や濾胞癌のように、甲状腺ホルモンを作り出す濾胞細胞からできる癌ではなく、カルシトニンと言う血液中のカルシウムを下げるホルモンを作り出す傍濾胞細胞(C細胞)から発生します。髄様癌の3分の1は家族性に発生します。また髄様癌のなかには、副腎の褐色細胞腫や副甲状腺機能亢進症など他の内分泌腺疾患を合併するものがあり、多発性内分泌腺腫瘍症(MEN)と呼ばれます。

未分化癌

甲状腺癌全体の2~3%程度と稀です。60歳以上の高齢者に多く男性の頻度も少なくないです。きわめて急速に進行し予後不良で、1年以上の生存は少ないです。

悪性リンパ腫

甲状腺の悪性リンパ腫は、リンパ球系腫瘍である悪性リンパ腫が甲状腺にできたものです。慢性甲状腺炎(橋本病)を背景としている場合が多く、中でもその経過が長期にわたる高齢者に多いです。甲状腺全体が急速に腫脹したり、嗄声や呼吸困難が起こることがあります。

甲状腺微小乳頭癌

甲状腺微小乳頭癌とは、原発巣の最大径が10mm以下の乳頭癌のことです。定義上は、リンパ節転移、遠隔転移、そして周囲組織や隣接臓器への浸潤といった高リスクの有無は問わないことになっています。これらの高リスクを伴わない超低リスク微小乳頭癌に対する積極的経過観察の前向き臨床試験が実施されてきたが、良好な結果が報告されています。

1cm以下の無症候性の微小乳頭癌(cT1aN0M0)は、通常一生放置しても無害に経過することから、1995年以降、原則として手術を勧めず、十分な説明・同意のうえ経過観察する方針をがん研有明病院や隈病院でも採用されています。

穿刺吸引細胞診(FNA)によって悪性度が判明し、超低リスク微小乳頭癌と診断確定された場合には、即時手術の実施をせずに経過観察となります。すなわち生命保険に加入していれば、がん診断給付金を受けることは可能ということになります。これは大腸内視鏡検査で大腸ポリープが見つかり、切除してみたら術後の病理組織診断で上皮内癌や腺腫内癌が見つかったようなものです。検査や手術の侵襲度は細胞診の方が軽いといえるでしょう。

頚部超音波検査をすれば、甲状腺内の嚢胞や結節はよく見つかります。とても小さな数mmの充実性結節を穿刺吸引細胞診すれば、微小乳頭癌が見つかることも多いのではないでしょうか。

(参考)
甲状腺乳頭癌のリスク分類と推奨される治療法を下2表に示します。

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低リスク以上は手術適応となります。超低リスクは、積極的経過観察療法となります。

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甲状腺乳頭癌においては、年齢が重要な予後因子です。55歳以上と55歳未満の群に分けて検討すると、中リスク以上では高齢者の方が有意に予後不良と報告されています。低リスクと超低リスク症例は、年齢に関係なく予後良好です。

甲状腺腫瘍診療ガイドライン2018年版によると、甲状腺分化癌術後のRAI内容療法は次の3つに分類されてます。
アブレーション(30mCi, 1.1GBq)
補助療法(100-150mCi, 3.7-5.6GBq)
治療(100-200mCi, 3.7-7.4GBq)
従来アブレーションと呼ばれていたものが、アブレーション(remnant ablation)と補助療法(adjuvant therapy)に分けられています。前者は、残存腫瘍がないと考えられる患者における正常濾胞細胞除去のため、後者は、顕微鏡的な残存腫瘍が存在すると考えられる患者における癌細胞の除去のためです。また、治療は顕在する癌細胞の破壊つまり癌の治療です。

(参考文献)
伊藤康弘ら「甲状腺腫瘍ガイドライン2018年版:改訂の要点」日本内分泌外科学会雑誌 第36巻第1号




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