見出し画像

他覚的な神経学的後遺症について

生命保険に特定疾病保障保険という保険商品があります。この生命保険は、がん、急性心筋梗塞と脳卒中に罹患した際に、特定疾病保険金が支払われる生命保険です。それぞれの疾患についての支払事由に特徴があります。たとえば脳卒中を例にして普通保険約款の支払事由を見てみると次のような規定となっています。


脳卒中の特定疾病保険金支払事由

被保険者が責任開始時以後の疾病を原因として、保険期間中に、つぎのいずれかの状態に該当したとき

脳卒中を発病し、その疾病により初めて医師の診療を受けた日からその日を含めて60日以上、言語障害、運動失調、麻痺等の他覚的な神経学的後遺症が継続したと医師によって診断されたとき

普通保険約款の支払事由については、用語1つ1つにいろいろと制限があることに注意が必要です。脳卒中で特定疾病保険金が支払われるのですが、脳卒中にも、脳出血、脳梗塞(脳血栓、脳塞栓)、ラクナ梗塞、くも膜下出血、一過性脳虚血発作(transient ischemic attack; TIA)、可逆性虚血性神経障害(reversible ischemic neurological deficit; RIND)など軽症から重症までと様様です。

その前提として、「責任開始時以後の疾病を原因として、保険期間中に、脳卒中を発病し」た場合に限ります。つまり疾病を原因とした脳卒中を保障しますが、外傷を原因とした脳出血は保障しませんと解釈できます。

さらに、脳卒中の症状、すなわち言語障害、運動失調、麻痺等の症状が主治医の初診日から60日以上続いていたと診断書に記載された場合に限るわけです。この点から、24時間以内のTIAや3週間以内のRINDは該当しないことになります。また臨床症状のないラクナ梗塞も非該当となるわけです。また神経障害性疼痛などの痛みについても該当するか微妙なところです。

内因性の重症な脳卒中に対して特定疾病保険金をお支払いしますと普通保険約款は規定している言えるでしょう。また外から見て、運動障害による半身麻痺が確認できるような状態です。

他覚的な神経学的後遺症

生保の普通保険約款に規定する「他覚的な神経学的後遺症」では、言語障害、運動失調、麻痺などを例示しています。ここで神経系を解剖学的観点から分類するならば、運動神経、感覚神経、自律神経などに分けられるものの、従来はこの運動神経の障害のみを主な支払対象にしてきたものといえます。感覚神経の障害については、むちうち損傷などの場合を考えれば、CT検査やMRI検査で画像検査所見が得られて初めて「他覚的な神経学的後遺症」が証明されるとしてきました。しかし近年、針筋電図検査、神経伝導検査、誘発電位検査、電流知覚域検査などにより、感覚神経の障害が客観的に証明できるようになり、しびれ感や痛みの自覚症状を「他覚的な神経学的後遺症」として立証できるようになってきたという経緯があります。

高次脳機能障害とは、一般に「外傷性脳損傷、脳血管障害などにより脳損傷を受け、その後遺症などとして生じた記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害を主たる要因として、日常生活及び社会生活への適応に困難を有する病態」をいいます。日常生活動作は制限されない場合であっても、高次機能障害を客観的に証明できるのであれば「他覚的な神経学的後遺症」ということになります。

もちろん「他覚的な神経学的後遺症」があったとしても、高度障害や生活障害に該当させるかは別問題です。それぞれに普通保険約款に記載された明確な基準があります。

一方、特定疾病保険では、脳卒中後に「他覚的な神経学的後遺症」が残り60日以上継続した場合に支払事由としていることから、高次機能障害を「他覚的な神経学的後遺症」と認めれば支払該当となります。

手術を受けた事実でOK?

一部の保険会社では、普通保険約款に脳卒中の特定疾病保険金支払事由として、手術を規定しているものがあります。

○脳卒中を発病し、つぎのいずれかに該当したとき 
・初めて医師の診療を受けた日から起算して60日以上、言語障害・運動失調・麻痺などの他覚的な神経学的後遺症が継続したと医師により診断されたとき 
・脳卒中の治療を直接の目的としたつぎのいずれかの手術を受けたとき
①公的医療保険の手術料が算定される手術
②先進医療に該当する手術

公的医療保険の手術料が算定される手術ですから、医科診療報酬点数表にKコードが記載された手術ということになります。たとえば、次のような手術があります。

K164 頭蓋内血腫除去術(開頭して行うもの)
K164-2 慢性硬膜下血腫穿孔洗浄術
K164-3 脳血管塞栓(血栓)摘出術
K164-4 定位的脳内血腫除去術
K164-5 内視鏡下脳内血腫除去術
K176 脳動脈瘤流入血管クリッピング(開頭して行うもの)
K177 脳動脈瘤頸部クリッピング
K178 脳血管内手術
K178-2 経皮的脳血管形成術
K178-3 経皮的選択的脳血栓・塞栓溶解術
K178-4 経皮的脳血栓回収術
K178-5 経皮的脳血管ステント留置術

出典: しろぼんねっと

脳卒中の手術を受けただけでも特定疾病保険金を支払われることになったのですから、かなり緩和された支払要件と言えるでしょう。脳卒中を起こして少なくとも1泊以上入院し、脳血管内手術後に後遺症なく完治したとしても支払要件に該当することになります。60日ルールに比べかなり緩和された保険金支払い要件となりました。

人間ドックのCT検査やMRI検査で未破裂脳動脈瘤が見つかり、当該脳動脈瘤が破裂する前に脳血管内手術を受けた場合には、支払要件に該当するのでしょうか。脳動脈瘤があることは事実ですが、「脳卒中を発症し」たのではありませんね。一般に脳動脈瘤が径5mmくらいまでは経過観察をしますが、風船が増大し8mmを超えるようであれば、破裂リスクが高くなることから予防的な脳血管内手術が実施されます。これを未破裂脳動脈瘤の手術といいます。微妙な問題ですね。

若年者のくも膜下出血の原因となる脳動静脈奇形(AVM)やモヤモヤ病などの予防的手術についても特定疾病保険金の支払事由に該当させるかどうかも検討する余地がありそうです。責任開始期後の人間ドックなどの健康診断で見つかった脳血管の異常に対する脳血管内手術(K-178)については、支払対象としてい行く方向になるものと思います。







この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?