【特許から見る】牡蠣関連テクノロジー”牡蠣テック”の出願動向は?

私は牡蠣が大好物で、牡蠣食べ放題ですと40-50個ぐらい食べます(生ガキ、焼きガキ、蒸しガキ、カキフライの総計)。

昨晩も夢の中で、特許情報を活用した新規事業開発について考えていたところ、新規事業開発の事例として牡蠣が登場しました。そこで、なぜか牡蠣関連の新規事業開発、牡蠣関連のテクノロジーだから”牡蠣テック”だ!と思いつき、枕元にあったスマホにメモしておきました。

今日は牡蠣関連テクノロジーの新規事業開発ではなく、その前提となる牡蠣関連技術の出願動向について見ていきたいと思います。


毎回のことになりますが、特許について詳しくない方もいらっしゃるかもしれませんので、以下の分析結果をご覧いただく前に少し留意点を書いておきます。

・企業や個人の方が出願した特許には、技術的な内容や課題など様々な情報が詰まっています。ここではJ-PlatPat(特許情報プラットフォーム)という日本特許庁が無料で提供しているデータベースを使った分析結果を示しています。どういう条件で分析母集団を形成したか等については末尾の「検索条件」をご覧ください。
・特許は出願されてから公開されるまで1年半(18か月)かかります。よって以下で分析した日本特許の最新分は2018年の年末あたりに出願された内容となります。そのため、直近2年分の出願は減少しているように見えますが、減少しているわけではなく、出願~公開までのタイムラグがあるため減少しているように見えてしまいます。

最古の牡蠣関連特許出願は?

さて、牡蠣関連の日本特許出願動向を見ていこうと思いますが、その前に牡蠣関連で最も古い日本特許はどんな内容なんでしょうか?

あくまでも今回利用したキーワードで検索した範囲内での最古の出願となります。

特開昭47-027787「プラスチック製牡蠣礁」
特許請求の範囲1:プラスチックを素材とした牡蠣礁

が最も古く、1971年2月1日出願。カキの群生地であるカキ礁をプラスチックで形成するという出願でした。出願人は個人。

もう1件は牡蠣飯に関する出願。

特開昭47-019048「保存牡蠣メシ、鶏飯の製造方法」
特許請求の範囲1:適量の牡蠣粒又は適量の細断した鶏肉と共に精洗米、細断した野菜類、調味料及び炊飯に必要な量の水を混和し、通気性のないプラスチックフィルムの袋に入れヒートシール又はインパルスシールを行ない密封後高圧釜にて温度112℃で約60分間殺菌と同時に炊飯を行い、殺菌終了後速やかに加圧空気及び加圧冷水して冷却し、コメの持つ特質ベーター型澱粉(精洗米)よりアルファ化澱粉(炊飯)に転移し再びベーター化澱粉(保存)以降中一切外気に汚染されないことを特徴とする保存牡蠣メシ、鶏飯の製造法。

こちらは広島のスミダ食品という会社が出願人だったのですが、ネットで調べると現在、広島にはスミダ食品という会社はないようです・・・


特許から見た牡蠣テクノロジーの動向

"特許から"と書いていますが、特許だけではなく実用新案も含まれている結果になりますのであらかじめご了承ください。

まずは牡蠣関連の出願トレンドを見てみます(2018-2019年出願は未確定値)。

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検索条件をご覧いただくとお分かりの通り、特に日付限定を行って検索をしているわけではないのですが、分析は1993年(特許公報の電子化が始まった年)から開始しました。

この理由としては、牡蠣の表現として蠣、蛎、蠇のような1文字で検索したのですが、1970-1980年代のOCRでテキスト処理された特許の文字が正確に読み取れておらず、牡蠣関連出願でないにも関わらず「蠣、蛎、蠇」でヒットしてしまっていたからです。そのため、確実にキーワードで検索可能な1993年以降とさせていただきました。

牡蠣関連出願は1993年以降、毎年20件前後で推移していますが、2000~2005年は40~50件/年の出願がありました。

自動車やエレクトロニクスなどと比べると、農林水産業は出願規模が大きい業界ではないことが分かります。

牡蠣関連特許出願に積極的な企業は?

続いて、牡蠣関連特許出願に積極的な企業についてみていきましょう。

1993年以降で分析していますので、直近27年間の特許の出願人・権利者(企業・研究機関)ランキングになります。

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備考①:出願人・権利者名については簡易的に名寄せしています。
備考②:公開というのは出願されてまだ権利化されていない案件、登録というのは出願後、特許庁審査官の審査を経て登録になった案件です。ただし登録となっていても権利存続中のものと権利失効済の案件が混ざっています。

トップは卜部産業で累積20件、そのうち15件は権利化しています。

私は牡蠣は好きですが、牡蠣産業について詳しくないため、卜部産業について知らなかったのですが、卜部産業は牡蠣産業において有名な会社であることが分かりました。

また、勝手な思い込みで農林水産業では特許訴訟などはほとんどないだろうと思っていたのですが、以下のウェブサイトに掲載されているように

クニヒロ株式会社との間で、特許第5364214号の特許権侵害を巡り、大阪地方裁判所における特許権侵害訴訟と特許無効審判(無効2015-800145)において争っていました。

上述の通り、出願規模が決して大きい業界ではないので、ランキング上位企業の出願件数もそれほど多いわけではありません。

トップの卜部産業は牡蠣関連企業でしたが、2位のソノコはどういう会社でしょうか?

調べたところ、この会社は美容研究家であった鈴木その子氏の会社だったようです(特許明細書に記載している会社の住所が一致、現在はSONOKOへ社名変更)。会社としては健康・ダイエット食品や化粧品を製造・販売しているとのことで、牡蠣関連でどのような出願をしているかというと、

特開2010-168399 血糖の上昇を抑制するための薬剤
特開2009-263387 I型アレルギー性疾患の喘息の症状を抑制するための内服薬
特開2009-263386 I型アレルギー性疾患の花粉症の症状を抑制するための内服薬
特開2009-263385 I型アレルギー性疾患の鼻炎の症状を抑制するための内服薬
特開2009-263384 I型アレルギー性疾患のアトピー性皮膚炎の症状を抑制するための内服薬
特開2007-131643 アレルギー性疾患の症状を抑制・緩和するための薬剤
特開2006-327996 血糖の上昇を抑制するための薬剤または機能性食品
特開2006-131644 痒みを抑制するための薬剤または機能性食品
特開2005-015414 アレルギー性疾患の症状を抑制・緩和するための薬剤または機能性食品
特許3857965 痒みを抑制するための外用剤

のように薬が主でした(登録になっているのは1件のみ)。牡蠣がどのように使われているかというと、

特開2010-168399 血糖の上昇を抑制するための薬剤
【課題】生活習慣病の中核を占める糖尿病の進行を安全に抑制することのできる薬剤を提供する。
【解決手段】血糖の上昇を抑制するための薬剤として、牡蠣の少なくとも肉から熱水抽出などで取り出したエキスの含有物を用いるものとする。これにより、糖尿病に関連する疾患の進行を副作用を伴わずに抑制する上に大きな効果が得られる。

血糖値を抑制するために牡蠣エキスを利用していました。


その他ランキング上位を見ると、個人でランクインしている方もいれば、大林組のような建設会社、ヤンマーのような農機・発動機メーカーなど多種多様な業界の企業が確認できます。


上記企業の中で、特に最近特許出願に積極的なのはどの企業なのか?を出願ポジショニングマップで見てみましょう。

画像4

こちらは、出願ポジショニングマップと私が呼んでいるマップで、横軸に長期増減率、縦軸に短期増減率を取って、バブルサイズが累積件数です。こちらのマップからは、

第1象限:長期でも短期でも出願が伸びている企業
第2象限:長期でも減少しているが、最近出願が伸びている企業
第3象限:長期でも短期でも出願が減っている企業
第4象限:長期でも増加しているが、最近出願が減っている企業

のように層別化することができます。以下の出願ポジショニングマップでは上位100社までをプロットしています。

これを見ると、

短期的に増加:卜部産業、近畿大学
長期・短期的に増加:丸善製薬
長期的に増加:カネカ、太平洋セメント

ということが分かります。これを見るだけでも牡蠣技術がバラエティ豊かな企業で研究開発・特許出願されていることが分かります。各社の直近の出願について【発明の名称】を示すと

卜部産業:特開2020-036577「加工用牡蠣及び加工用牡蠣の製造方法」
近畿大学:特許6213910「高Ca高分子溶液、高Ca高分子溶液の製造方法及び高Ca高分子溶液を使用した漆喰材料、漆喰の製造方法」
丸善製薬:特許6641453「Tie2活性化剤、血管の成熟化剤、及び血管の安定化剤、並びに飲食品」
カネカ:特許6507739「新規な菓子生地及び練り込み用油中水型乳化油脂組成物」
太平洋セメント:特開2017-063785「水生生物蝟集用粒体及び水域浄化システム」

のようになります。

牡蠣関連テクノロジーの内容は変化したのか?

さて次に牡蠣を利用した特許出願の内容は変化しているのか?について、技術分野を示す特許分類FI(ファイルインデックス)を使って、次に見ていきたいと思います。

まず牡蠣関連累積件数からどういった技術分野の出願が多いのか見てみると、

111件 A23L1(食品)
83件 A01K61(養殖)
32件 A22C29(貝類の加工)
30件 C02F1(水処理)
22件 C02F3(バイオ的な水処理)

のようになり、最古出願のところでも挙げた牡蠣ご飯のような食品が最多、次いで牡蠣の養殖技術になります。3位も貝類の加工、4位・5位は水処理ということで、いずれも牡蠣の養殖等に関連する技術であることが分かります。

それでは最近のトレンドはどうなのか?また出願ポジショニングマップを使ってみていきたいと思います。

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Y軸上の分類に注目したいと思います。なぜならば、こちらは最近急激に出願が増加している分野だからです。FIの分類定義を見ると・・・

A23D7:水性相を含有する食用油脂組成物
A61K8:化粧品あるいは類似化粧品製剤
B65D85:容器,包装要素または包装体

いまいち分かりませんので、具体的な発明の名称を確認してみましょう。

A23D7/00(水性相を含有する食用油脂組成物)はカネカが出願していますが、出願の中では「発酵調味料としてオイスターソースを利用」することが掛かれています。

特許6507739 新規な菓子生地及び練り込み用油中水型乳化油脂組成物
特許6507738 新規なフィリング・トッピング用油中水型乳化油脂組成物
特許6507737 新規な層状膨化食品用生地及びロールインマーガリン
特許6507736 新規なパン生地及び練り込み用油中水型乳化油脂組成物
特許6026768 風味素材の製造方法及び風味改良油脂の製造方法

次にA61K8(化粧品あるいは類似化粧品製剤)ですが、こちらは個人発明家からの出願が多く、直近の出願を見てみると、

特開2019-099536
外用組成物、皮膚外用剤、および、毛髪育養キット
【課題】皮脂の過剰分泌抑制と菌の繁殖抑制による皮膚の炎症改善作用、および、抗酸化作用によって、頭皮等を毛髪育養促進に適した環境に改善することができる、外用組成物、皮膚外用剤、および、毛髪育養キットを提供する。
【解決手段】外用組成物は、亜鉛化合物、アスタキサンチン、水溶性赤ワイン酵母抽出液を含有する。各成分の配合量は、亜鉛化合物が0.5重量%〜5重量%の範囲内、アスタキサンチンが0.00000058重量%〜0.065重量%の範囲内、水溶性赤ワイン酵母抽出液が0.05重量%〜0.5重量%の範囲内であることが好ましい。皮膚外用剤は、前述の外用組成物とビタミンB2等を含む成分を含有し、例えばシャンプー等が挙げられる。毛髪育養キットは、牡蠣から抽出した毛髪育養用の栄養素含有の経口剤又は飲食品と、前述の外用組成物の各成分を含有する皮膚外用剤とを備える。

のように毛髪育毛用に牡蠣エキスを利用しています。

最後にB65D85(容器,包装要素または包装体)ですが、宮城県女川にある株式会社鮮冷が「冷凍保存用水産加工品の提供方法」という発明の名称で2件出願し、うち1件が登録になっています。

特許6125688
【課題】冷凍水産加工品をポリ袋などで包装することなく、使い勝手の良い容器に直接収納して需要者に提供する方法を提供する。【解決手段】収納した冷凍水産加工品の量を外部から視認できる透明度を有するプラスチック材料からなる容器に冷凍水産加工品を直接収納して需要者に供給することを特徴とする冷凍保存用水産加工品の提供方法。
【特許請求の範囲8】冷凍水産加工品が、ホタテ、カキ(牡蠣)、サンマ、サバ、アジ、イワシ、ヒラメから選択されるものである請求項1〜7のいずれかに記載の冷凍保存用水産加工品の提供方法。

こちらは牡蠣そのものを念頭においた特許というよりも、牡蠣にも利用できる特許といえるでしょう。


実はここで取り上げていませんが、建設資材に牡蠣殻を使うなど様々な分野に牡蠣(牡蠣殻)が利用されています。


まとめ

冒頭に書いた通り、夢の中で”牡蠣テック”に思い至って、勢いで牡蠣テック関連の出願動向についてまとめてみました。

もともとは特許情報を活用した新規事業開発のフレームワークの事例として牡蠣を利用することがスタート地点だったので、今度は今回の牡蠣テックの技術動向分析を踏まえて、特許情報を活用した新規事業開発の考え方についての解説を行いたいと思います。


検索条件

検索実行日:2020年6月7日
データベース:J-PlatPat
文献種別:国内文献(特許(特開・特表(A)、再公表(A1)、特公・特許(B))、特許発明明細書(C)、実用新案(実開・実表・登実(U)、実全(U1)、再公表(A1)、実公・実登(Y))、登録実用新案明細書(Z)))
検索式(論理式):[蠣/TI+蠇/TI+蛎/TI+オイスター/TI+かき殻/TI+カキ殻/TI]+[蠣/AB+蠇/AB+蛎/AB+オイスター/AB+かき殻/AB+カキ殻/AB]+[蠣/CL+蠇/CL+蛎/CL+オイスター/CL+かき殻/CL+カキ殻/CL]
*TXは全文キーワード検索、A,nN,BはキーワードAとBの間にn文字が順不同で出現する文献を検索
ヒット件数:1,515件


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