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ARヘッドセットメーカーMagic Leapの身売り先は?|特許情報から候補を出してみる

本記事のオリジナルは2020年3月15日にブログ「e-Patent Blog | 知財情報コンサルタント・野崎篤志のブログ」に投稿したものになります。

先日、AR(拡張現実)ヘッドセットメーカーのMagic Leapに身売りか?との報道が出ました

ARヘッドセットメーカーMagic Leapが身売りを熱望、売却希望価格は約1兆円

techcrunch、2020年3月13日

こちらの記事や他のニュースも調べると、Magic Leapはこれまで

が買収を検討したことがあるようですが、いずれも買収断念ということで終わっています。

IPランドスケープが注目されるようになった2017年7月の日経の記事で、”ナブテスコがM&Aを行うにあたって特許情報を活用した”ということが取り上げられたので、特許情報をM&Aや共同研究の候補を洗い出すのに活用できるのではないか、という認識をお持ちの方も多いと思います。

ここでは、特許情報を活用したM&A候補のロングリスト作成について紹介します。

特許情報には企業・機関名を示す出願人・権利者、技術分類を示す特許分類(IPC、FI、Fターム、CPC)などの他に、M&Aや提携先を探す際に活用できる引用・被引用特許という項目があります。

引用・被引用特許を特許情報分析に使って、戦略分析や今回のようにM&Aや提携先を探す際に活用しようという動きは以前からありました(例:引用情報の活用、2007年)。2017年のIPランドスケープ以降に新しく出てきたと思っている方もいらっしゃるようですが

引用特許とは、ある特許出願が、その特許出願に関連する過去の特許出願を引用したものです。過去の特許出願はある特許出願の新規性や進歩性などを判断する際に利用されます。

一方、被引用特許というのは、”被”引用ですので、ある特許出願がその特許出願に関連する将来の特許出願に引用されるものです。将来の特許出願の新規性や進歩性などを判断するために、ある特許出願が利用されます。

英語では、

  • 引用特許:バックワード(backward citation)

  • 被引用特許:フォワード(forward citation)

と表現します。

他の表現方法として、ある特許出願を主とすると、引用特許をciting、被引用特許をcited byと表現することもあります。しかし、これが逆の場合もありますので、データベースのマニュアルなども都度確認いただいた方がいいでしょう。

今回は、この引用・被引用特許のうち、Magic Leapの被引用特許を用いて、身売り先候補のロングリストを作成してみます。

J-PlatPatなど無料のデータベースでは引用特許検索や被引用特許検索を行うことができないのですが、有料の特許検索データベースであれば、ある企業が出願している特許全体について引用特許や被引用特許を検索することができます。

以下はイーパテントで利用しているPatbaseの検索例です。

1 PA="Magic Leap" NOT DESIGN=YES
2 CTF 1
3 2 NOT 1

PAというのが出願人名を示しています。デザイン特許(意匠)が入らないように”NOT DESIGN=YES”を足しています。

その1で形成したMagic Leapの母集団について、CTF 1 というコマンドで被引用特許の母集団を形成します。しかし、当然のことながら自社被引用というものもありますので、それを除外するために 2 NOT 1 という検索を行いました。集合3では2,551件(正確にはパテントファミリーベースで検索しているので2,551ファミリー)という結果が得られました。

Magic Leapの身売り先候補先を出す際は、

Magic Leapの特許を引用としている(=Magic Leapから見ると引用されている(被引用))企業は、Magic LeapのARヘッドセットに関連する技術開発を行っているのではないか?

という前提があり、被引用特許の母集団を作成しました。この母集団の企業ランキングおよび推移を出してみると以下のようになりました(テクニカルな話ですが、出願人・権利者名についてはPatbaseのPPAをベースに私の方で簡易的に名寄せしています)。

この表で掲載されている数値は、各社がMagic Leapの特許を引用している(Magic Leapから見ると被引用)件数になる点に注意してください。各社ともARヘッドセットについて各種技術開発を行い、特許出願を行っています。その中の一部出願がMagic Leapの特許を引用しています。

ただし、上記の表はMagic Leapの特許出願(≒研究開発・技術開発)に関連性がある企業のロングリストといえます。

さらに、何年に出願された特許に引用されているのかを見ることで、古くから研究開発を行っているのか、現在も技術開発活動は継続していそうか、という点を確認することができます(2017-2019年の出願が全体の何パーセントぐらい占めるか、直近比率も合わせて算出しました)。

MS Excelのスパークラインで各社のトレンドを示していますが、これは各行ごとでの最大値・最小値を設定していますので、あくまでも出願トレンドを確認する程度に利用した方が良いでしょう。スパークラインと合わせて実数もちゃんと確認する癖をつけた方が良いです。

このロングリストを見ると、過去にMagic Leap買収を検討した

のうち、ジョンソンエンドジョンソン以外は上位にランクインしています。

2位にランクインしているOSTERHOUT GROUPはスマートグラスを開発していましたが、2019年1月に事業停止し、知財権の販売先を探しています。その他にSTRONG FORCE IOT PORTFOLIO 2016という組織の名前が確認できますが、これは事業会社ではなくNPE(特許不実施主体、いわゆるパテントトロール)です。

他に私が面白いなと思った会社としては、

  • DISNEY

    • ARヘッドセットそのものを開発するのではなくAR利用企業。ディズニーがARヘッドセットメーカー部門をもって、ディズニーのパークだけではなく外販するというのも面白いかな、と。

  • STRADVISION

    • この会社、実はARヘッドセットメーカーではなく、Deep Learning技術を使用した物体の知覚認識用ソフトウェアを販売しています。どのような形でMagic Leapの特許が被引用されたのかは詳細確認する必要がありますが、Magic Leapの技術と組み合わせることで何か新しい展開が描けるかを考えるのも良いかと。

があります。

分析結果のどのような点に着目して候補を抽出すれば良いのですか?と質問されることがありますが、特許情報の分析結果という点では

  • 件数の多寡

  • 出願件数の時系列トレンド

の2つになります。ただ、特許情報の分析結果だけを見ていても、あまり面白い候補先などを探すことは難しいです。それは件数が多い会社はある程度名前が通った大企業であることが多く、現実的にM&Aできるか?というと難しいケースが多くなってしまうからです(もちろん、大企業の一部門をカーブアウトで切り離すというオプションもありますが)。件数の多寡と出願件数の時系列トレンド以外で、面白い・興味深い候補先を探すためには、日ごろの情報収集をベースとした情報感度が必要になります(情報のアンテナといっても良いかもしれません)。

異常、本ブログでは、このロングリスト作成のところまでを紹介しますが、実際に特許情報をベースにより突っ込んでM&A先を選定していく際は、

  • Magic Leapと候補企業のシナジー

    • マーケット面

    • 技術面

について分析していく必要があります。なお、このMagic Leapと候補企業のシナジーを出すためには、ロングリストで洗い出した候補先にキーワードなり特許分類なりをかけて、候補先のAR関連特許母集団を改めて作成する必要があります。

以上、Magic Leapを例にした特許情報を活用したM&A候補のロングリスト作成について紹介しました。

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