日経の特許分析記事について検証してみた-脱炭素特許、トヨタが出願トップ 総合力はサムスン首位-
昨日、日本経済新聞オンラインに掲載された記事「脱炭素特許、トヨタが出願トップ 総合力はサムスン首位」
について、母集団検索式が
✓脱炭素関連として対象としたのは50分野で、「風力発電」「燃料電池」など気候変動の緩和に直接貢献する技術だけでなく、電気の効率的管理など間接的に貢献する技術も含む
✓2020年までの過去20年間(特許権の存続期間)で世界の155万件超が脱炭素特許に該当
としか記載がなく、どんな定義の母集団なのか気になったので検証してみました。
まず、
「風力発電」「燃料電池」など気候変動の緩和に直接貢献する技術だけでなく、電気の効率的管理など間接的に貢献する技術
を見たときに、これってCPC(欧米共同特許分類)の
Y02 TECHNOLOGIES OR APPLICATIONS FOR MITIGATION OR ADAPTATION AGAINST CLIMATE CHANGE(天候変更の影響を緩和または適応するための技術または機器)
とソックリだなと思いました。こちらはIPCやFIにはなく、主に欧州特許庁や米国特許庁で利用されている特許分類であるCPCにしか設定されていない分類です。
以下のように気候変動対策技術について、分野横断的に設定されている特許分類です。
こちらのCPCのY02を使って、日経の記事(パテントサイト利用)と同じようなマップが書けないか試してみました。
まずは母集団ですが、データベースはPatbase(ファミリー単位)で
CPC=Y02 AND ALIVE=(YES) AND EPR>20010101 NOT DESIGN=YES
と検索したところ、1,558,390ファミリーがヒットしてほぼほぼ母集団規模としてはマッチします(日経の記事は150万件とあり、グラフの横軸は出願数とありますので、正確にはファミリー数と出願数で異なります)。
次にグラフに掲載されている企業ごとのファミリー数を算出します。
これでグラフの横軸データが取れました。
次に縦軸です。日経の記事ではパテントサイトのCI=Competitive Impactという特許の平均的な質を示しています。PatentSightの価値評価手法については
でも解説しましたが、発行国(マーケットカバレッジ)と引用・被引用(テクノロジーレレバンス)の2つの要因で決まっています。
今回は簡略化した形で、
横軸:ファミリー数(ファミリー内に1つでも生きているものを含む)
縦軸:1ファミリー当たりの被引用回数
バブルサイズ:被引用回数
としました。Patbaseで検索した結果をExcel上で整理すると以下のようになりました。
こちらのデータを基にして作成したマップが以下になります。
日経に掲載されているマップと似ているところはありますが、やはり細かい点で違いますね。。。特にサムスン電子のポジションが上記では左側に来ています。
理由としてはPatentSightでは出願数、上記ではファミリー数で用いているため、1ファミリー内に複数出願が含まれてしまっている場合は横軸で左側の方にシフトしてしまうためだと思います。
日経の記事でどのような母集団を作成しているかは分かりませんが、CPCのY02という気候変動対策技術に関する特許分類を用いるとある程度までは似たようなマップを作成することができました。
CPCのY02という特許分類は非常に便利ではあるのですが、注意が必要です。
それは上述の通り、CPCは欧州特許庁・米国特許商標庁が2013年から利用開始した特許分類であり、全世界的に利用されている特許分類ではないという点です。
中国特許庁や韓国特許庁もCPCを利用し始めていますが、全分野にわたって過去遡及分までしっかり付与されているわけではありませんので、ご注意ください。
なお、このような特許分析記事を見る際は母集団に注意しましょう!という点については過去に以下のような記事を書いておりますのでご参照ください。