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特許情報分析に基づく戦略立案と後発参入での勝機の見出し方

「知財情報を組織の力に🄬」をモットーに活動している知財情報コンサルタントの野崎です。

本記事は技術情報協会「後発で“勝つ”ための研究・知財戦略と経営層への説明・説得の仕方」(2024年3月)に寄稿した論考です。

本記事を通じて、後発参入時の特許情報や技術情報の収集・分析方法について習得していただければ幸いです。

はじめに

本節ではある製品・サービス市場へ後発で参入する際に,どのように考えて分析を行い,戦略を立案するべきかに ついて,主に知的財産面に注目して紹介する。様々な戦略を立案するためには,特許情報だけではなく,マーケット 情報や競合他社の企業情報など様々な情報が必要となるため,そのような知的財産以外の面についても触れていく。 本節では具体的な分析手法・テクニックや分析事例を示すのではなく,分析や後発参入における戦略立案の考え方を 中心に述べていく。

なお,著者は『“後発で勝つ”ための研究開発・知財戦略の立て方,進め方』1)(技術情報協会,2020 年)に「特許マップ・パテントマップを活用した新規参入の見極め方」を寄稿しているので,合わせて参考にしていただければ 幸いである。


1. 後発参入における戦略立案と各種情報活用

1.1 特許情報分析の目的と種類

戦略経営論の創始者であるイゴール・アンゾフは,軍事用語であった「戦略」という言葉をビジネスの世界へ適用 した。アンゾフは企業における各事業の位置づけを明確化するために,市場と製品を縦軸・横軸に設定し,それぞれ を既存・新規に分けることにより 2 × 2 の成長マトリックスを提案した。このアンゾフの成長マトリックスをベー スに特許情報分析の目的および種類を層別化すると図1のようになる。

図 1 特許情報分析の目的と種類 2)

アンゾフの成長マトリックス内に位置する特許情報分析,つまり自社が既存市場に参入済みである場合の分析の種 類としては①現状分析(技術動向分析/競合他社分析),②新規事業開発(新規用途探索・ニーズ探索),③新規技 術開発(シーズ探索)の 3 つとなる。それ以外の 4 つの特許情報分析はマトリックス外(④新規参入分析,⑤市場 撤退分析,⑦ M & A・提携先探索)またはマトリックス全体を包含(⑥保有特許の棚卸)する位置づけである。  本節で対象とするのは④新規参入分析(自社の既存技術をもとに,既存市場で製品・サービスを提供しており,そ の既存技術を新規市場へ展開する場合も新規参入にあたるので,②新規用途探索も本節の対象)であり,特許情報を 始めとする知的財産情報だけではなく,マーケット・ニュース・企業情報などの知的財産以外の情報も収集・分析し た上で,自社が新規参入すべき市場(製品・サービス)の候補を抽出し,

  • 新規参入市場は魅力的か?

  • 自社単独で新規参入は可能か?アライアンスや買収の必要性は?

  • 新規参入にあたり知財面のリスク(既参入済企業,訴訟等)はないか?

のような結論を導くことが求められる。

1.2 戦略立案フローと情報収集・分析-外部環境情報と内部環境情報-

後発参入に限らず,企業にとって継続的に利益を創出し,企業を維持・発展させていくためには,事業戦略や技術 戦略,知財戦略等の様々な戦略を立案することが求められる。以下の図 2 は戦略策定プロセスを示している。

図 2 戦略策定プロセス3)

自社の内部環境(自社の強み・弱み)および自社を取り巻く外部環境(市場,競合他社)について情報収集し,外部環境が自社へ当たる機会や脅威を分析するとともに,自社の強み・弱みを把握した上で,戦略オプションを抽出する。この外部環境分析・内部環境分析を行う上で情報が必要となる。十分な情報収集・分析に基づかずに,経験や勘 に頼って戦略を策定しても,それは独りよがりのものとなってしまう。

情報には公開情報と非公開情報の 2 つがあるが,我々が収集できる情報は「公開されている情報」である。もち ろん自分が所属している組織の内部情報は,外部の人にとっては非公開情報であるので,一部非公開情報についても 収集することは可能である。

戦略策定の上で重要なのは公開情報をしっかりと収集することである。また他社の今後の中長期戦略や製品・サー ビス開発の方向性など公開されていない情報も,公開情報を収集して組み合わせることで予測・推測することができ る。後発参入のための知財戦略の基礎となる特許を始めとした知財情報は公開情報であり,特許情報とそれ以外の公 開されている企業情報・市場情報などを丹念に収集してつなぎ合わせて分析することで,事業環境および競合状況を 把握して,自社の知財戦略策定につなげることが重要である。

以下の表 1 に PEST のフレームワークに沿って戦略策定に役立つ知的財産以外の情報源を示す。

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