GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)「2020年 ESG活動報告書」-MSCI・アスタミューゼの特許スコア-
「知財情報を組織の力に®」をモットーに活動している知財情報コンサルタントの野崎です。
先日GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が「2020年 ESG活動報告書」を公表しました。
報告書は
【第一章】ESGに関する取組み
ESG指数の選定とESG指数に基づく運用
株式・債券の委託運用におけるESG
スチュワードシップ活動とESG推進
指数会社・ESG評価会社へのエンゲージメント
オルタナティブ資産運用におけるESG
ESG活動の振り返りと今後について
【第二章】ESG活動の効果測定
ESG指数のパフォーマンス
ポートフォリオのESG評価
ESG評価の国別ランキング
日本企業におけるジェンダーダイバーシティ
【第三章】気候変動リスク・機会の評価と分析
気候関連財務情報の開示・分析の構成と注目点
ポートフォリオの温室効果ガス排出量等の分析
Climate Value-at-Risk等を用いたポートフォリオの分析
移行リスクと機会の産業間の移転に関する分析
SDGsへの貢献を通じた収益機会に関する分析
のような構成となっており、第3章の「気候関連財務情報の開示・分析の構成と注目点」において、
本稿の作成にあたり、TCFDの提言に沿った気候関連財務情報の開示を行うための分析支援業務として、前年度も採用したTrucost社、MSCI社に加えて、新たにアスタミューゼ社という知財・特許情報や研究開発投資の分析等に強みを持つ国内のリサーチ会社を採用しました。前年度と同様に担当分野を分けることで、各社の長所を活かし、多面的な分析を行いました。
コンサルティング事業、人材・キャリア支援事業、知的情報プラットフォーム事業を提供しているアスタミューゼが分析した結果が掲載されています。
なお、昨年GPIFから公表された「GPIFポートフォリオの気候変動リスク・機会分析」にもMSCIの特許スコアが掲載されていましたが、今回の報告書でも技術的機会の評価に加重平均特許スコアを利用しています。
この特許スコアは
特許スコアとは、他者の特許出願において当該特許が引用された数である「特許前方引用」、当該特許の出願時に引用している他者の特許数である「特許後方引用」、当該特許が出願された国のGDP合計の「市場カバレッジ」、当該特許が関連付けされた数の「Cooperative Patent Classification(CPC)カバレッジ」に基づいて評価されます。
で算出されています。引用・被引用を利用しているのは一般的な特許スコアリング・レイティングと同様ですが、CPCのカパレッジに基づいて評価されているという点はユニークではありますが、CPCを採用していない日本特許などが低めにスコアリングされてしまうのではないかと懸念します(CPCの国別付与率についてはCPC Annual Report 2017-2018を参照)。
おそらくCPCのYセクション(Y02 TECHNOLOGIES OR APPLICATIONS FOR MITIGATION OR ADAPTATION AGAINST CLIMATE CHANGE)を利用しているだと思います。
今回から新たに採用されたアスタミューゼの分析結果ですが、
特許分析の結果だけではなく「リスクと機会の産業間の移転状況を可視化するプロセス」、「2050年のGHG削減貢献量上位10技術領域」や「2030年、2050年の産業別リスクと機会の移転状況」といったテクノロジー分析の結果も提供しているようです。
そして「脱炭素技術の国・地域別のトータルパテントアセット比較」においてトータルパテントアセットという特許レイティングの評価結果を提供しています。
このトータルパテントアセットですが、「特許の引用数・閲覧数・排他力(無効審判請求数等)、特許残存年数などから算出した指標」ということで先日公表された「エネルギー白書」にも掲載されています。
アスタミューゼの評価スコアなどの詳細については2021年1月の知的財産戦略会議で永井社長が発表された「ESG視点からの知財活用・投資促進について」に詳しく掲載されていますので、こちらも参考になります。
現在、アドバイザーとして参画させていただいている知財ガバナンス研究会および知財情報活用分科会では、コーポレートガバナンスコード改定に伴う投資家向けの知財情報開示・発信についていろいろとディスカッションを行っていますが、こちらはどちらかといえば企業サイドからの情報発信です。
一方、今回のGPIFの「2020年 ESG活動報告書」は機関投資家から特許情報を活用したこれまでの投資・今後の投資に向けた情報開示・発信となります。
取締役会と投資家の対話=エンゲージメントにおいて、特許を含めた知的財産についてもより深く検討いただくという点では企業サイド・投資家サイドの両面からこのような取り組みが発展していくことを期待しています。