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(仮)トレンディ電子文 第15回:S.O.S.「POP CORN」

1.LOCOMOTION (Goffin-King / Translation:Oh Sae-Min)
2.STUPID CUPID
(Sedaka・Howard Greenfield / Translation:Kim Il-Jung)

3.BE MY BABY (Spector・Greenwich・Barry / Translation:Lim Sun-A)
4.I ONLY WANNA BE WITH YOU
(M.Hawker・I.Raymond / Translation:Han Nah(S.O.S.))
5.MY SWEET LIFE (Kim Young-Joo・Seong Min-Ji・Lee Jeong-O)
6.DANCING SNOWMAN
(Oh Sae-Min・Joey Carbone・Dennis Belfield)
7.Happy Saturday (Oh Sae-Min)
8.ITSY BITSY TEENIE WEENIE YELLOW POLKA DOT BIKINI
(Paul J.Vance・Lee Potkriss / Translation:Lim Sun-A)
9.GOOD-BYE MY LOVE (Seong Min-Ji・Lee Jeong-O)

 1994年、金泳三の「文民政権」発足1年後の韓国。映画「はちどり」でも描かれていた通り、急速な経済成長が進む一方で聖水(ソンス)大橋崩落事故や金日成死去による半島情勢の緊張化などが起こるなど日本以上に「変化」の1年だった。BTS"クサズ"の生まれ年でもあるこの年に、日本で初めて紹介された「韓国女性アイドル」のアルバムがこの70年代前半生まれの4人組S.O.S.(Sensational Oriental Sound)のセカンドだ。当時の韓国音楽の台風の目と言えば何といってもソテジワアイドゥルだが、彼らのようなアーティスト志向とはまた違った意味で彼女らにもある種の先進性があり、今「K-POPの地平」から振り返る意味も、意外とあるように思うのだ。

 日本版(発売元はポニーキャニオン)の解説は何と、まだライター業が主軸だった頃の松尾潔。流石と言える流麗な筆致で、韓国・日本・USの3国の文化交流史を絡ませながらアルバムの存在意義を説明している。松尾氏は韓国のR&BシンガーPark Jung-WoonやKim Mingiと当時交流があったらしい。彼らの参照元に当時流行のブランニュー・ヘヴィーズなどがあることなどがライナーでは記されており、当S.O.S.もSWVやTLCなどからの影響が名前からしてある...と思いきや、メンバーに尋ねた結果「誰それ?」とのことで、あくまでC.C.ガールズなど日本のセクシー・グループが参照されたそうだ。彼女らや杉本彩の楽曲から想起される通り、前半を占めるカヴァー曲はカイリー・ミノーグ(というよりは長山洋子か)的なユーロビート仕様である。しかし、それらの楽曲があっけらかんとした陽性のメロディであり決してセクシーさを前面には打ち出していないこと、そして何よりすべて韓国語に翻訳され歌われていることによって、我々が知っている所謂「K-POP第二世代」(KARA、少女時代etc)のかなり直截的なルーツとして今となっては聞こえる。また韓国クリエイター陣によるオリジナル楽曲の後半は、ユーロビート解釈にとどまらない多様さが見え隠れして面白い。ギターソロもありMAXらのavexラテン歌謡風味な5、ズンドコもっさりした「CRAZY GONNA CRAZY (trf)」とでも言える90s空気満載のアップ6、CoCoのような良質メロ(KARAのUmbrella~Honeyの路線を準備しているようにも聞こえ嬉しい)の春色ポップス7、そしてアン・ヴォーグなどの影響が直にあるリズムボックス・バラード9と、いずれも良曲である。

 もちろん音のチープさ、アレンジのペラさなどは同時期のJ-POPとは比較にならないくらい強い。歌唱力もK-POPとは到底括れないくらいの危うさで、フォーメーション・ダンスのようなものも楽曲からはあまり導き出せそうにない。松尾氏の解説も、そのあたりを含めて「(彼女たちのような)ヴィジュアル重視派の場合、早い段階でヴァーサタイルな資質を発露させてこそ延命が図れる」とにべもない。しかし日米それぞれのヒット曲との「距離感覚そのもの」については意外と今のKポとそこまで変わらないようにも聞こえる。「いなたさ」というはみ出かたを180゜転換した先に今の「エッジーさ」があるというか...それはその間の韓国の急速な発展とパラレルなのだろう。SM企画という音楽マネジメント会社が「SMエンターテイメント」と名前を変えるのは翌1995年のことである。


 

 

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