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(仮)トレンディ電子文 第35回:87年の「現代都会語事典」をいま眺める(1)

 「言葉は都会に生まれ、都会に死す」…現在はすっかり粋人的な扱いだが、元々は宝島の連載“チューサン階級の友”などで「昭和軽薄体」のオリジネイターであった嵐山光三郎が、トレンディ期真っ只中の87年に(当時の)世俗・流行の言葉2000語を辞書スタイルで編纂したのがこの「現代都会語事典」でR。角川文庫の「知的新人類のための現代用語集」などとも同時期だが、パートごとの著者のエゴが前面に出ていた「知的~」とは違い、ここでの嵐山は作家性とは距離を置き、極めてフラットな立場から同時代の風俗・用語をまとめている。「五年もたてば、そのすべてが入れ替わる可能性がある」と序文にもあるがそこから更に30年の月日はダテでなく、「当時こんな言葉があったのか」「今もあるこの言葉はこの時期のものなのか」「あの人は当時こんな存在だったのか」…など発見のオンパレードなのだ。掲載語中で気になった言葉を以下列挙していくので、是非「トレンディ期ワード」を再発見してほしい。

【アカウント】広告用語で得意先、広告主のこと
自分は3マスに長く勤めているが、SNSの「アカウント」が膾炙した今この意味ではめったに使わない。因みに「クライアント」という言葉とは「広告予算を出す人という金銭的意味合いが強い」点で違いがあるらしい。ただし類語の「アカウント・エグゼクティヴ」は「AE」と略され今も使う。

【アクセス】接近・参加という意で、一般市民がマス・メディアに対し、積極的に参加していくこと
オナペッツが浅倉大介と初めて対面した時「アクセスにアクセスできました」と言ったのを思い出す。コンピューターに「アクセスする」宇多田ヒカルの時代も更に過ぎ去り、今や専門用語以外だと交通の接続の時にしか使わない気がする。

【あのね】芸能界用語で、相手にからかわれたときに返す言葉。これをいい返すことによって笑いやギャグが倍加する。「あのね」の3文字をはっきり発音し、「ね」でとめることがコツ
このようにハッキリ定義してもらえると本当に助かる…当時の「当時」っぽさってこういうところに宿っている。「笑っていいとも!」のタモリもこれを多用しているのをYoutubeで見れば確認できるはず。

【あぶない】テレビ業界からから出た言葉で、突然異常っぽい言動をしそうな人に用いるフレーズ
類語の「プッツン」含め、現在これらの言葉で指される事象をファッションや笑いで処理しなくなっているのはまあいいことだと思う。

【アンクロ】マガジンハウス発行の「アンアン」「クロワッサン」を一緒にした語。結婚前は「アンアン」を購読し、結婚後は「クロワッサン」に移る女性たちを"アンクロ世代"という
本当に使われてたんでしょうか…同じマガハのトレンディ期の記録である「銀座Hanako物語 : バブルを駆けた雑誌の2000日」にもこの語は登場しない。

【いいかげんにしなさい】古来より使われていた叱言の常套句がギャグとなり流行した一例
このツッコみ、90年代(ボキャブラ期)には既に「いいかげんにしろ」だったはずなのだけど、その間どのような笑いの変化があったのだろう。そして今も「いいかげんにしろ」が継続しているのは何故なのか。

【いえてる】軽いあいづちを表す言葉。「どうでもいいけど一応あいづちをうっとこう」という気分で使われる
「だよね」「それな」など、この距離感の言葉はどの時代にも継続してある。

【いっちゃん】一番のこと。最も優れていること。例「わたしらの仲間でいっちゃん成績いいのは光子ちゃんです」
この舌足らずさ、当時の空気をすごく吸い込んだ言葉だと思う。山瀬まみ、井森美幸など「バラドル」な人が良く使っていた印象。

【伊藤比呂美】「赤ん坊はウンコだ」と発言して話題になった詩人
この言葉はベストセラー「良いおっぱい 悪いおっぱい」の一節だが、当時はやはり言葉のインパクトが先行していたということか。80年代の「女性詩ブーム」はどうもあまり今の文脈で振り返られる機会が少ないように思う。

【いまいち】いまひとつの変形語。あと少し足りない、から転じて、まるで駄目なことをいう
そう、この言葉は7~80年代に形成された所謂「俗語」なのです。歴史モノでこの言葉が出てきたら投書してください。類語で「いまじゅう」「いまひゃく」など(いずれも"良くない"という意味)があったそうだが、それらは完全に死語。

【インテリげんちゃん】糸井重里が1985年新潮文庫のCMのためにつくったコピーだが、それ以前に漫画家の富永一朗が作り出したキャラクター
ええーそうなんですか!?知りませんでした。トレンディ期は「○○してる」という言い回しが流行ったが、「おまえ吉本隆明なんか読んじゃって、インテリげんちゃんしてるな」という使い方もOKだったらしい。

「い」までで終わってしまった!面白いので続けます。
(つづく)







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