(仮)トレンディ電子文 第34回:加瀬邦彦&ザ・ワイルド・ワンズ'91「One More Love」
1991年発表。トレンディ期GS関係のトピックと言えば何と言っても88年以降断続的に続く「タイガース・メモリアル・クラブバンド」の活動だろう。タイガースの面々以外にもアイ高野に岡本信にマモル・マヌーに鈴木ヒロミツに力也に…とショーケン以外の殆どが集まった、平たく言えば「同窓会コンサート」および企画アルバムだったわけだが、ワイルドワンズの面々も(チャッピー含め)当然参加していた。この名義で2枚出されたアルバムは本当にシンプルな再録音で「トレンディ」の見地からはあまり聴きどころはないものの、初回コンサートは横浜アリーナなどAクラスの会場で開催、さらに全面タイアップの映画まで作られるなど、当時非常に大きなムーブメントとなっていたと思しい。そうした動きに誘発されてか、83年以来久しぶりにアクティヴな活動を再開し、制作されたワイルドワンズのオリジナルアルバムがこの「One More Love」。メモリアル~と異なるのは、(バンド名に「'91」とわざわざ入れていることからもわかるが)オリジナルメンバーで懐かしの楽曲をという意図では決して活動していない点だ。大胆にもヴォーカル・コーラス要員として女性二人をメンバーに加え(うちひとりはガールポップ界ではおなじみ峠恵子!)、GSのイメージに止まらろうとしない意欲がみなぎっている。なおチャッピー(渡辺茂樹)は活動には帯同せず、1曲のアレンジに留まっている。
そのようなアルバムなので音の感触はすこぶる「トレンディ」。アレンジには小林信吾と清水信之というキーボード系の俊英を起用し、バンドならではの「元祖湘南サウンド」とデジタル感触をマイルドに合わせることに成功している…と書くと小林武史仕事の頃のサザンを想起するが、まさにその初作「Keisuke Kuwata」と音の感触はかなりの近似がある(そもそも80年代初頭の再結成アルバムはサザンや大滝詠一の活躍に触発されたものらしい。ジャケも含め絶対良さそうだがトレンディ期外のため未聴)。オープニング1から永井真理子?岡村孝子?という感じの溌溂ポップスのイントロに例の「今井美樹以上・カレン・カーペンター未満」な峠ヴォイスが乗っかり、ガールポップ盤かと錯覚するほどで、GSメモリアル感はほぼ無い。代表曲2も一応収録されているが当時のビーチボーイズ新譜に通ずるデジタル・オーガニックなアレンジが無理なくモダンに施されており、こちらでも60s感はほぼ払拭。そこから更に夏、海、リゾートのイメージで続くオリジナル曲4、5、6がアルバムの中では白眉で、シャリシャリしたウクレレのハワイアン、デジタル・マリンバが随所に響くアップ、口笛/ハーモニカ風シンセと麗しいコーラス・ワークが絡むデジタル・ボッサ…と殆ど「哀愁を加味したオメガトライブか村田和人」にしか聴こえない。本当に素晴らしくトレンディな出来栄えなのだ。
サブスクだと1と10がベスト盤の一部として収録されているくらいで全く全容は掴めず、この埋もれたトレンディ・リゾート盤と触れるためにはCDを探すしかない。ネオGSも既に勃興していた当時、ここまでベタな60s懐古、というか生音感を避けて(主にアレンジ面に依るところが大きいが)仕上げているところに、反って沢田研二のプロデューサーとして手腕を発揮した加瀬邦彦の面目躍如(当然当盤でもプロデュースにクレジットされている)を感じずにはいられない。2010年の「JULIE with THE WILD ONES」もテイスト自体は近似しているのでここが加瀬の「DESTINATION」であったと言っていいのだろう。同時期のムッシュかまやつもそうだが、シティ・ポップ文脈での再評価とGSの面々のトレンディ期作は、そのクオリティに反して未だに相性が今ひとつな印象を受けるが、きちんとトレンディ期の活動を追う必要性を当盤を聴いて痛感させられたのだった。