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(仮)トレンディ電子文 第17回:筑紫哲也の対論本まとめ(1)

 軽チャー路線、といえば「楽しくなければテレビじゃない」でおなじみトレンディ期のフジテレビだが、筑紫哲也編集長時代(1984-1987)の「朝日ジャーナル」も当初はそのように呼ばれ、旧来の左派にずいぶん反発されたらしい。実際この言葉がフジテレビで公式に使われたのは84年の「軽チャーっぽい。」がたぶん唯一だと思うが、このアイキャッチでは御覧の通り、橋本治が「この人なにする人?」と問いかけられ「セーター編む人!」などと児戯的に答えており、そうした"実際"より"気分"を重視するような感覚となると朝日ジャーナルの対論連載「若者たちの神々」そのものであるような気もする(橋本ももちろん登場する)。

 トレンディ期付近の旬の文化人が「気分」でもって矢継ぎ早に登場する「若者たちの神々」は好評となり筑紫のパブリック・イメージをも決定づけたが、しかしこれは決して筑紫の対論仕事のすべてではなく、以降も様々な対論本が作られた。そしてそれらは今現在まったく顧みられていない。今回は「トレンディ期付近・筑紫哲也の対論本」を一覧として紹介しようと思う。

①若者たちの神々 (1984.11.1~1985.9.1) 

Part I:浅田彰、糸井重里、藤原新也、坂本龍一、ビートたけし、森田芳光、如月小春、新井素子、日比野克彦、北方謙三、島田雅彦、椎名誠
Part II:野田秀樹、村上龍、林真理子、戸川純、大竹伸朗、橋本治、三宅一生、山本耀司、鈴木邦男、山下和仁、小栗康平、中島梓
Part III:松任谷由実、中沢新一、細野晴臣、伊藤比呂美、高橋源一郎、鴻上尚史、楠田枝里子、ねじめ正一、松本隆、菱沼良樹、大戸天童、片山敬済、南伸坊
Part IV:タモリ、渡辺えり子、川崎徹、山口小夜子、井上陽水、嵐山光三郎、中上健次、北村想、天児牛大、桑田佳祐、里中満智子、田原桂一、田中康夫

 84ー85年、筑紫が「自分より若い世代」を相手に対論した朝日ジャーナルの連載を単行本化。87年には新潮社よりすべてが文庫化された。人気の理由はもちろんこの人選の豪華さであり、プレ・トレンディなこの時期の第一線の人気者をほぼ網羅といった感がある。いなくて意外なのは村上春樹、上野千鶴子、イッセー尾形といったところか(春樹は連載自体はあったが単行本化で消えたらしい)。

②ハロー・グッドバイ 筑紫哲也のヒーロー対談集 (1986.8.1)

小林克也、関川夏央、戸田ツトム、川崎徹、鴻上尚史、長谷川和彦

 86年に文化出版社から刊行。ヒーローと呼ぶには少し微妙な人選がそそられるが、未入手のため概要書けず。一連の本の中で唯一「対談」(ほかは対論)と表記されているという事は「朝日ジャーナル」とはまた別のところから派生したものか。

③新人類図鑑 (1986.9.20)

Part 1:遠藤雅伸(ゲームデザイナー)、中森明夫(エディター)、小曽根真(ピアニスト)、木佐貫邦子(ダンサー)、原律子(マンガ家)、吉川洋一郎(作曲家)、原田大三郎(テクノ・アーティスト)、甲田益也子(ファッション・モデル)、川西蘭(作家)、加藤かおる(島の先生/シンガー・ソングライター)、高見裕一(リサイクル運動家)、李秦栄(CMディレクター)、辻元清美(女子大生)、三好和義(写真家)、安西英明(バード・レンジャー)、三上晴子(オブジェ・アーティスト)、泉麻人(コラムニスト)
Part 2:北村信彦(デザイナー)、高野生・大(「ヒストリーズラン」編集部)、野々村文宏(テクノ・コラムニスト)、川村毅(劇作家)、萬處雅子(トライアスリート)、小野寺紳(謎々プログラマー)、今井アレキサンドル(環境アーティスト)、桜井さとみ(イラストレーター)、樋口尚文(映画批評家)、結城恭介(作家)、秋元康(作詞家)、滝田洋二郎(映画監督)、藤原ヒロシ(リミキサー)、西和彦(エンジニア)、洞口依子(女優)、平田オリザ(学生)

 86年、朝日文庫。85年に「若者たちの神々」を引き継いで始まった連載「新人類の旗手たち」を2冊にまとめたもの。今となっては全く知られていない人も多いが、そこまで含めて当時の軽やかな雰囲気が伝わる。辻元清美が夏目漱石や宮沢賢治などの作品を電話帳サイズで1冊にまとめた「ザ・○○」シリーズ(第三書館)の考案者であること(Wikipediaにも書かれていない。彼女含めて左派のWikiは対立者によるネガティヴな書き込みばかりが充実している事が多く、全く当てにならない)など個人的には発見も多かった。またザ・新人類の野々村文宏が自身やYMO~コンピューター的な80年代を「79年型のナウ」と定義し、それが85年時点で「もう疲れている」としているのは興味深い。「トレンディ」とはその79年型が空気感として、一般に浸透した先の地平を指すのかもしれない。

(つづく)


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