(仮)トレンディ電子文 第31回:MICHAEL G「Mr.CM MAN」
1990年11月リリース。現在はまた違うのかもしれないが、トレンディ期におけるCMソングの世界は「ヒット曲のアナザーワールド」といった趣で、所謂職業作曲家・有名アーティスト・若手アーティスト入り混じって、実に芳醇な世界を形作っていた。近田春夫や鈴木慶一が耳なじんだあのメロディの作者だというのは有名な話だが、コピーライター(にして浅野温子の夫)である魚住勉が作詞したCMソング「男と女のラブゲーム」「ジプシー」などはクライアントありきな作りでありながらTVの枠を飛び越え、楽曲そのものの強さでもって「ヒット曲」となったのがスゴい。まあTVもコマーシャルも、お金が回って勢いと遊びの余裕があったのだ。
そんな時期の最良の側面を切り取ったかのようなアルバムが、今回取り上げる「Mr.CM MAN」。以前ブログで取り上げたメロディ・セクストンのアルバムと同じ歌い手=欧米人/作り手=日本人の「和製洋楽」と言わば言えるが、上記の通り楽曲はすべてCMソング。わかりやすく言えば、当時よくあったタバコCMなどのような、洋楽を使用しそのテイストを映像にも持ち込んだCM作品を「国産」で作りましたという態なのである。このCDの楽曲は先ず15秒で用意され、その中から「秀でた作品をロング・バージョンにして保存しよう」ということで改めて作品化されたのだそうだ。肝心の全曲で歌唱を務めるMICHAEL・Gはというと…ライナーノーツによれば「LA出身のスタジオ・シンガー」とのことだが、それ以上の情報は(Web上にも)一切無し。誰?しかし匿名性をフルに生かし(?)楽曲ごと/クライアントごとでボン・ジョヴィ風、ジョン・レノン風、ビリー・ジョエル風…と見事にテイストを変えながら様々なタイプの楽曲を歌っている、というとモノマネCDのように思われるかもしれないが、そこは流石のトレンディ期で、電博などがガッツリ関わったCM由来で作られた分、B級感を醸し出すことは決してなく各曲相当きちんと作りこまれている。例の♪バイネスカフェ~エクセラ~な3は複数ヴァージョンの数珠繋ぎだが、どれもモーニング・トレンディモードのエコー感が素晴らしい。TPOの岩崎工・作の二ルソン~ポール卿風箱庭ポップス2、マイケル・フランクス的なサウダージ6、和風ゴドレイ&クレームな7(CMはおそらく「そうだ京都、行こう」前夜)など、良メロディ曲でも徹頭徹尾「打ち込み音像」で当時なりのモダンさがかなり前面に出ているのはCM音楽故の美徳だろう。
これらの楽曲の中で最も人口に膾炙したしたのは猿のウォークマンでおなじみ4だろうか。子供心にもインパクトがあった大名作CMのこの曲がまさか映像ありきの和製洋楽だったとは。SONYのCMというのもとんと見かけることが無くなってしまった。「It's a SONY」というサウンドロゴはいつの間にか消え、同名の回顧展示会を開催した銀座のソニービルは2017年に解体された。