(仮)トレンディ電子文 第48回:トレンディ時代のメディア・ミックス③
六本木バナナ・ボーイズ 原作・喜多嶋隆 映画配給・東映
原作は1988年発売、1989年8月に映画公開・サントラ発売。所謂「ヤンキー(ツッパリ)もの」の代表的な作品として6作品も映画化された「ビーバップ・ハイスクール」の名コンビ、仲村トオルと清水宏次朗が時代的な「その次」を目し、設定をガラリと変えて再度タッグを組んだ映画作品だ。その原作に選んだのは当時シティ感覚を(片岡義男よりも軽やかに)ハイペースで小説化していた喜多嶋隆。ツッパリ的な世界観から随分離れた人選だが、トオル主演で「ビーバップ~」路線だった前年作「新宿純愛物語」が興行的にうまくいかなかったことも理由にあったのだろうか。しかし作品はトオル・宏次朗に元々備わっていたスタイリッシュさがうまく生かされ、この時のふたりでないと出せないカラッとした空気をうまく映している。ヌードキャメラマン(で銭湯の倅)のトオルとイタメシ屋(になりたての魚屋さん)店長の宏次朗が、女性がらみのいざこざからやがて大きな都市の闇に巻き込まれ…といった筋には「ビーバップ~」の面影はなく、むしろ同じトオル出演「あぶ刑事」の雰囲気と言える。それもそのはず監督の成田裕介、脚本の柏原寛司は「あぶ刑事」「あいつがトラブル」「刑事貴族」とスタイリッシュなトレンディ期刑事ドラマでタッグを組んだ二人なのだ。取り締まられる不良から取り締まる刑事へ、好況の時代への移り変わりの結節点にこの映画は位置していると言えるか。画面にはアマンド付近の空車のネオンサインにCBSソニーの看板、そしてライトアップされたディスコで迎える誕生日会…と「バブル」としか言いようのない風景に、瓦屋根が目立つ旧市街地や六本木のかつての地名「麻布龍土町」の看板などが混じって映され、こちらも割に正確な、トレンディ生成途中の1989年が収まっているのではないかという感じがする。またノーヘル乗車のバイク(トオルもかなりのカットで実際に運転)を中心とした激しめのアクション(森川由加里が終始オリエンタル・テイストで登場するのは香港ノワールっぽさを狙っている感じでトレンディ)をぶち込むあたりには当時の映画業界の、かけがえのない派手派手しさが溢れている。ストーリーはともかく画を見ているだけでもそこそこ楽しいのだ。
映画と同発のサントラは劇中でもステージで披露していた宏次朗の楽曲と、トレンディ期松山千春の編曲などで知られる飛澤宏元らによるTea-J BANDによる挿入歌が収められている。こちらも「あぶ刑事」方式、英語曲を中心とした「和製洋楽」の趣(一曲ウィルソン・ピケットのカヴァーが収められているが映画ではオープニングからこれがいきなり流れる構成であった)で、ギターサウンド中心としつつもコンパクトな打ち込み音像が前面に出ておりすこぶるトレンディ。和製洋楽の例に倣い、まったくバイオグラフィを追えない女性がこの盤でも大活躍しており、「Elaine」が歌うシャーデー風のエキゾミディアム④、「NIGHT OF SUMMER SIDE」的な都市の焦燥感アップ⑤、生のブラスセクションを配置した黄昏ロッカバラード⑩は、どれもサントラのみ収録ではもったいないくらいの出来栄えだ。宏次朗歌唱作品は2曲いずれも自作。ほぼ主題歌と言っていい扱いの①は熱血タテノリ・ロックながらサビで独特のメロウ展開があり面白い。⑨はやや珍曲で、ビートパンクのアレンジの上にa~ha「Take On Me」とそっくりのサビがメロディとして乗っかる。