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(仮)トレンディ電子文 第1回:マサカズ様の1988年、1992年(1)

 この人の訃報は絶対TVで知りたかったな、と思いつつ自宅に東芝バズーカのような巨大電化製品を置けるスペースは無いのだし、訃報がニュース速報で入ったのは「大豆田とわ子と三人の元夫」を放送中の21時過ぎで、Twitterで自分が知った20時過ぎから何と1時間も遅れてのことだった(らしい)。

 「また一人昭和の名優が」という決まり文句をまた見かけ、年齢的に言えばそうも言いたいのだけれど恐らく「記憶に残っている作品」の分布図を全国で作ってもらうとしたら少なくとも7割は「平成の作品」なのではないだろうか。鎌田敏夫脚本で半年も放送した、ヤン・スギョンの主題歌のイメージそのままのアダルト・ムード濃い目作品「過ぎし日のセレナーデ」が平成元年、遺作となるにはあまりに無理がある年齢設定のドーラン濃い目作品「眠狂四郎 The Final」が平成30年。そのあいだにパパなつ、カミさん、三谷(いま三谷×田村の作品群を見返すと、各芸能人のそれぞれのキャラクター性に暴力的なまでに依りすぎていて、何というか「スピンオフの集積」を見せられているような気持になりとても白ける)、キムタク、松たか子に黒木瞳、トンデモなサックス映画(必見)に松本清張に城山三郎…と満遍なく印象的(かつヒットした)な作品が散らばっている。30年間押しなべてCMの露出量もハンパなく、例えば平成ど真ん中、1999年のDocomoのカタログで鈴木京香・広末涼子・織田裕二を差し置いて表紙になっているところからも当時の「旬」の持続具合が伝わるかと思う。めいいっぱい「平成」を生きた俳優、とするともしかしたら初めての「平成の名優」の故人なのかもしれない(そんな言われ方をされない事をもちろん祈る。元号ごとに変わる時代性なんて存在しないので)。

 それにしても1943年生まれである。北大路欣也や峰岸徹、古谷一行と同世代。映画俳優としてのブレイクが無かった(最初期の木下惠介作品はそれでも見ごたえがあるというか、端的に「監督に愛されている」田村がいて心弾む)というのもあるが、それにしても明らかに彼らとは違うキャリアだ。70年代の彼について自分の年齢で追懐するのは、美輪明宏と共に主人公一家の想われ人役を演じた「さくらの唄」を筆頭に未見作品が多すぎて不可能なのだけど、「平成の田村」がどのような存在だったかというのは「オヤジぃ。」というタイトルのドラマでの、保守的な父親役での起用を考えたりすれば少し分かる。前述の同世代俳優(更に加えれば前田吟や関口宏)がこの役をやったら…それはもう何らかのスタイルの「純度100%オヤジ」ぃ。であり、果たして2000年のドラマ(すでに「ホームドラマ」が定期的に放送される時代としてはかなり後年だ)として成り立ったかどうか。これが田村だとなぜ成り立つかというと当然ながら彼は「オヤジ」と見做されるような経年変化を逃れているからである。

 歳を取ることを忘れている、とある時期までの田村はよく言われていた。老人としての田村を(明らかに老け役として挑んだ「そうか、もう君はいないのか」以外)見ることはできなかった。その事は個人的に惜しいと思う。ジョニー・キャッシュ「Hurt」のPVのような、老いた先でのスター性の明滅を、例えばコマーシャル・フィルムの15秒で見てみたかった。しかし今思うとそれより重要なのは、彼がその加齢との折り合いのつけなさ故に「美」の人として超人的に屹立していたかと言うと、そんなことはない点である。この人にコメディタッチでドメスな作品をやらせたときの、「浮世離れ」に決して陥らない説得力というのは一体何なのだろう。坂東玉三郎のようなある種の「天使」状態とは違い、あくまで天上との中間にある、美と生活の触媒のような存在だったのか、などというと大げさだけど、この時期の田村の大活躍とは「円熟」でも「美」でもなく、あくまで「ちょうどいい」という、TV的フィクションの中での絶妙な収まりの良さ故のものであったと思う(そのさじ加減を何十年もハズすことなくいられたのはTBSのプロデューサー・八木康夫が長期にわたって田村と並走し続けたからだろう。大まかに言って、「本筋としてのTBS、飛び道具としてのフジ、軟着陸先としての朝日」が田村の平成の道筋だ)。そしてそのちょうど良さとはもちろん「テレビドラマ俳優」と言う存在の独特さでもあるわけで、田村の自己韜晦の言葉はここに繋がる的確さをもって響く。

「俳優という花の根っこの部分や、ほかの俳優たちがどれだけ鍛錬してその場にいるのかを見極められなかった。だからこの程度の俳優にしかなれなかった」  ※日刊スポーツ 自己評価は「この程度の俳優」田村正和さん、ハートも二枚目だった

 もちろん「この程度の俳優」などと思っていいのは本人だけである。

(つづく)

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