(仮)トレンディ電子文 第44回:Various Artists「ルール フジテレビと遊びましょ~フジテレビ・ヒット曲集~」(1)
フジテレビが調子に乗っていた時期、と言われて真っ先に思い出すのは田村正和主演の刑事ドラマでアメリカ在住の役どころだった鈴木保奈美に向かい「ガチャピン・ムック」がまだ活躍している云々という話を聞かせる醜悪な内輪受けシーン(そういえばついこの間、望まれない大復活を遂げた「心はロンリー気持ちは…Final」でもガチャピン・ムックは性懲り無くカメオ出演などしており、恐らく見る者全員がフジの凋落を痛感したのだった)だが、このCDはそこから遡ること4年、さんま車庫入れ事件に象徴される河田町全盛期の空気をそのままパッケージングしたような92年のオムニバスだ。収録されている楽曲はすべて当時放送されていた番組の何らかのタイアップがついている(リリース元はすべてポニー・キャニオン)が、視聴率30%の人気ドラマから長寿バラエティ、そして当時「JOCX-TV2」と呼ばれていた深夜番組のテーマソングまで節操なく収録しているため楽曲は洋邦多岐にわたる(そしてその8割以上がシングルとして発売されているというのもすごい)。まずはこの前年オリコン1位を獲得した「やまだかつてないCD」との重複が2曲もあるDisc1。時代からかハウスモノが2曲入っているのがまず注目点で、ダウン・タウン司会の音楽番組のテーマ曲7はALFAからデビューしたての福富幸宏がアレンジで参加している。LP GIRLSはどうもこの曲のためだけに存在するユニットのようで、同曲のほか、あのMore Deepも参加した番組のオムニバスも91年に発売されている。5は「不思議色ハピネス」でおなじみ木幡洋子が当時組んでいたバンドのデビュー曲でありながら、感触が限りなくアシッド。しかし薄いギターと溌溂としたヴォーカルはそこはかとなく「LINDBERG」で、サイケを真ん中にアシッドとJ-POPが手を組んだような、つまり日本から当時のロンドンへの回答のような、実に中毒性のある楽曲なのだ(因みにバンドのデビュー盤のほうには帯に「HOUSE×ROCK÷ACID=ESSEX」と書かれている)。浅野ゆう子の脱トレンディ作品「学校へ行こう!」の主題歌、チェッカーズの16もアプローチとしては近いがこちらはアシッド・ジャズ寄りのバンドサウンド。更にイギリステイストで特筆すべきは「プールでフレンチ」(日曜早朝にやっていたプールサイドで水着の女性がフランス語を学ぶ怪番組)のテーマ曲だった8だ。BL.WALTZはアルバム3枚をキャニオンから出したバンドで、ジャケも含めその感触は「ネオアコ」と括ってもいいが、遊佐未森などと同時代性を強く持つ(実際外間隆史とも共作があるようだ)「トレンディ期」ならではなエヴァーグリーンさを持っており、これだけでも超必聴なのである。
(つづく)