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(仮)トレンディ電子文 第47回:トレンディ時代のメディア・ミックス②

平成ノ歩キ方 原作・木村和久 / 音楽・シャインズ

1.平成ノ歩キ方 / SHINE'S
(作詞:SHINE'S 作曲:杉村太郎 編曲:神津裕之)
2.平成ノ踊リ方 AT TOILET ”気づけよ” AT DANCEFLOOR"ヂャラヂャラした男" AT DANCE FLOOR"ダメだよォ" 
(脚本/構成/演出:井辺清(SOLD OUT))
3.俺の履歴書 / SHINE'S
(作詞:SHINE'S 作曲:杉村太郎 編曲:赤坂東児)
4.ドラキュラ・レイヴ AT VIP-ROOM"日本は滅びる" AT TOILET"何やってんの?!" AT DANCE FLOOR"イケイケ・ゴーゴーの皆さんへ"
(脚本/構成/演出:井辺清(SOLD OUT))
5.会社に捧げるLOVE SONG / SHINE'S
(作詞:杉村太郎・井辺清 作曲:杉村太郎 編曲:赤坂東児)

 書籍は1992年2月、CDは1年後の93年2月発売。果たしてこれを今紹介する意味はあるのだろうか…という作品なのだが、あまりにもこの時代のある一側面を切り取っているので取り上げる。元となった著作は「日本最初のトレンド・ウォッチャー」とされる木村和久の、ビッグコミック・スピリッツの連載をまとめたもの。内容はこの時代の浮ついた人間模様(と言ってもフォーカスされるのはシスヘテロ同士の性欲・金銭欲のみ)を「現代風俗とは一線引いた体の男性」目線による人物図解・イラスト・フローチャートなどでリーダブルにまとめたもので、これだけだと渡辺和博「金魂巻」と何が違うのかという感じだが、主に「若者風俗」を取り上げるあたりは泉麻人のほうが近い感じもし、さらに文章上下に膨大なイラスト付き脚注が(「なんクリ」よろしく)くっついているのでこれはもうバブル男子(?)の遅れて来た総決算なのかもしれない。「スッチー・コンパニオン2大ライバル物語」「アッシーの逆襲」「タカビー女の純愛志願」など各章のタイトルだけでお腹いっぱいなのだが、音楽のほうもこの著者同様「一歩引いた」スタンスがある。

 シャインズ。当時森永製菓、大東京海上保険という一流企業に勤めていた大学の同級生ふたりによる音楽ユニット。ひとりは氷河期の就活に「自己分析」なる概念を持ち込み「死ぬ気でやれよ、死なないから」という言葉を残した人。もうひとりは「東京プリン」というavex発の歌謡曲グループで小ヒットを出したのち、安倍昭恵と旧知だったことなどから自民党公認・比例で2度立候補(いずれも落選)した人。音楽作品のプロデュースは主に秋元康が担当していた。構成は楽曲とコントが交互に入っており、コントは当時とんねるずなどの構成作家だった井辺清が手がけている。ここで書くのも憚れるレベルの出来栄え(主に下ネタ、と言っていい)であるコントはシチュエーションがいずれもディスコ(おそらく深夜0時で閉まる類の)で、裏でかかっているレイヴっぽい音楽が割とかっこいいのだが、肝心の本編楽曲は歌詞の浮つき加減にも関わらず、「バブリー」「トレンディ」いずれのムードも該当しないずぶの歌謡曲・フォークの類でしかなく、要するにこの時代を「踊ってすり抜ける」ような身体性が無いのだった。「バブルで浮足立った世相を揶揄しながらも、自分の姿を見つめ直せというメッセージを歌に込め、サラリーマンを叱咤激励してい」たと公式プロフィールには書かれているのだが、この「自分は世相に巻き込まれていない」というスタンスこそ、秋元=シャインズの結節点なのだろう。おニャン子以降の秋元康関連作(と言ってもこの盤はクレジットに秋元の名前は無いのだが)は映画「グッバイ・ママ」もそうだが、「愛が生まれた日」「クリスマスキャロルの頃には」「思い出さない夜はないだろう」とヒット曲においてもどういうわけかニューアダルト歌謡路線のものが多い。ひばりの遺作などを経て80年代ギョーカイ的浮つきの「次のフェーズ」へと移行していたという事なのかもしれないが、むしろキャリア全体に一貫した「自身の生きる(トレンディ期的な)同時代性」といったものに決して没入しないというスタンス、とこれも説明できる気がする。これを「プロデューサー視点」と言いたくないのは全き同時代・同世代にTKがいるからで、当時のTKの「レイヴ」に対する、俯瞰しながらも自身の身体と感情ごとのめり込んでるアンビバレントな感覚こそ「プロデューサー」ならではの美しい態度と思うからだ。

 この文章を打っているキャフェの隣の席では大学生と思しき男性2人組が「いろいろ考えたが自分はやはりディベロッパーになりたい、三井か住友か」とくるぶしまでの靴下からすね毛を見せつけつつ将来の展望を話していて、今日時点の秋元康の健在ぶりも含め、「トレンディ」と関係のない事象ほど変わらないのだと思わざるを得ない。

 

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