ブラッドボーン 夜明けを追う狩人 第二話 『朽ちた街』
荒れた診療所の外は荒れた中庭……いや墓地というべきか。地面のレンガ剥がれ、鉄柵はひしゃげ、墓と思われるものは今にも崩れそうなほど傾いている。葉の付いてない木は、生命を一切感じさせず、ここの不気味さを一層際立たせていた。さっさとここから出よう、格子状の扉に足を向けたとき、死体を見つけた。
男性の死体、顔は血まみれになっており年齢はわからない。ただ一目見たとき何かを感じた。注意深く見ると手が固く握られている。無理やり開くと、そこには水銀で出来た弾があった。今持っている短銃と大きさは合う……ただこのままでは使えない。弾のざらついた表面をなでるとチクリと痛みが走り、指から血がこぼれる。それが溝に入り、水銀と血が混ざる。血は弾の威力を高める。これで使えるな。俺は短銃に弾を込めた。
一連の動作を終えると疑問が湧き出てきた。死体に何も驚きもせず、何か持っていると気づき、水銀弾の扱いがわかる。過去の記憶はない、だが常識、何が普通かを判断する能力はある。今自分はそれとかけ離れたことを平然とこなしている。わずかな記憶の中、覚えている自分に起こった変化……思い当たるのは老人に輸血されたこと。あの血が変化をもたらしたのだろうか?おそらく「特筆なし」というべき過去ぐらいしか持たない自分に。
あれこれ考えていてもわからない。もしかすると一切わからないかもしれないし、何か思い出すかもしれない。今は「青ざめた血」それを探すために前に進もう。俺は扉に向かった。
墓の外は街であったが、荒れ具合はさっきよりひどかった。あちこちに壊れた馬車や馬の死体。木箱がそこいらに散らばっている。何故あるのかわからなかったが、棺桶も置いてある。ここまでいくと荒れたというか朽ちた街だ。果たして、この朽ちた街に人はいるのだろうか?そんなことを思い歩き始めるとすぐに人には出会えた。
山高帽を被り、手にはたいまつと鉈が握られている。診療所に獣がでるぐらいだ。これぐらい持っていてもおかしくないはず……と思いたかったが、枯れた木を思わせるような色をした肌、生気のない目、そして腕に生えた獣のような毛から、それが常人ではないことを察した。
だが話の通じる人であってくれと願っていたせいだろうか、反応は遅れ相手の接近を許した。既に鉈は振り上げられ、今から自分が武器を振ったところで間に合わない。躱せないか、そんなことを考える前に狩人の本能が左手に握られた銃の引き金を引いていた。
銃弾で飛び散った血はわずかだった。ノコギリ鉈の一撃に比べればほんのわずかだ。だが銃のもたらす瞬間的な衝撃と、攻撃をする瞬間という一番無防備な時が重なり、相手は膝をつくほどの眩暈を起こした。銃を放った狩人の本能がさらに叫ぶ。無防備な相手に何をするべきかを教える。
相手の正面に立ち、腕を弓を放つかのように引き絞り、手を軽く開く。そして相手のみぞおち目掛けて、腕を突き刺す。手は肉を切り裂き、相手の中に深々と突き刺さる。不快な感触のしたものを掴み、力の限り握りつぶす。
握りつぶしたのと同時に手を素早く抜くと、斬るよりもはるかな量の血が飛び散り、一瞬にして死体が出来上がった。体中にゾクゾクした感触が走る。もしこの時鏡があれば、ニヤついた表情を写していただろう。クセになりそうな感覚だ。だが銃弾は有限、膝をつくほどの眩暈は相手の攻撃した瞬間に撃たねば無理だろう。そう何度も出来るものではない。
今はこの感覚に浸っているより、先に進む道を探さねばならない。深呼吸をし、道を探す。大通りへ通じる通路は、門が閉じ通れそうにない。先ほどの人……いや人型の獣といったほうがいいか、と戦ったところの近くにあるレバーを倒してみると、はしごが下りてきた。今はこの道しかなさそうだ。このはしごが下ろされていなかったのは、もしかすると獣があがってこないようにするための仕掛けなのかもしれない。
一応獣は倒したから下ろしたところで上に被害は出ないはず……や、レバーを倒すほどの知識が獣にはないのかとあれこれ考えながら、はしごを昇っていると、甲高い叫びが聞こえてきた。近くではないということはすぐわかったが、遠くから聞こえたとなると、大型の獣がどこかにいるのか。一抹の不安を覚え、はしごを昇り切ると、ゴホゴホという咳の音が聞こえ、明かりのついた窓が見えた。
さぽーとすると映画館にいくかいすうが増えます